夫婦で石岡のおまつりに(2026/9/20)
ひたひたと雨が降り続ける石岡の御幸通りに、笛の音色が響き渡り、和太鼓の音が通りの空気を震わせる。
「ソレソレソレ」と調子の良い掛け声(歌?)が混じり、大きな幌獅子を人々が綱で引いて歩いていく。
幌獅子の幌の中には幾人もの人がいて(囃子連という)、その中で太鼓を叩いたり笛を吹いたりしている。幌獅子の後には10人やら20人やらの人々が付いて歩いている。
幌獅子の先頭には獅子頭がいて、頭を激しく振って舞い踊る。時折、中の人が疲れたのか、舞いをやめる。
獅子頭の色形は、町ごとに違う。赤が主体の獅子が多いが、黒が主体の獅子(鹿の子町)もいる。獅子頭が大きすぎて、人がかぶるのではなく何人もで神輿のように「かつぐ」のもいる(若松町)。口が縄で縛られている獅子(暴れ獅子)なんてのもいる。獅子頭の違いを見ているだけで、楽しい。
この幌獅子が、石岡市の町ごとにあって、それらが御幸通りを順々に歩く。
これが石岡のおまつり名物「幌獅子のパレード」だ。
「石岡のおまつりは雨の日が多いんだよね」
妻が言う。
妻は子どもの頃から毎年のように石岡のまつりに参加している。
「子どもの頃、まつりに来て何やってたの?」
私が聞く。
「出店で何か買ってもらったり、パレード見たり」
「パレードに参加して一緒に歩いたり?」
「それはやったことないよ。私は石岡に住んでいたわけじゃないからね。おばあちゃんがいたから来ていただけ」
「そうなんだ」
と言う私の言葉は、ややトーンが落ちていたと思う。あの幌獅子のパレードに妻も参加していたんじゃないか?という期待を、少しだけ抱いていたから。
妻はそもそもそんなに活発な人じゃないから、おまつりで皆と一緒になって騒ぐ姿なんて想像できないし、おまつり以外でもそんな妻を見たことがない。いや、だからこそ、そんな妻がはしゃいで祭りに参加していたとイメージすると、そのギャップに萌えるのだった。
「萌える」といえば、幌獅子を引く若者たちに萌えた。この日、石岡の若者たちは「燃えて」いた。みんな楽しそうに声を張り上げ、力強く獅子を引き、獅子頭をかぶって舞い、笛を吹き、太鼓を叩く。そして、みんなヤンキーみたいな風貌で、いかにも地元の不良ですって感じがして、その燃えている姿に、私は萌えた。
なんでだろう。
私の青春時代が、このような垢抜けたものではなく陰鬱としたものだったから、だろうか。
「かっこいいなぁ、不良っぽくて」
その良さを共感してほしくて、妻に心情を吐露してみる。
「何がかっこいいのよ」
と、妻にはやっぱりわかってもらえない。
「さっきの見た?なんかリーダーっぽい人がさ、少年にアイコンタクトみたいなのしてさ、そしたらその少年も何かやる気だしちゃってそれまで以上に声張り上げちゃって。それを見たリーダーがさ、ちょっと微笑むのよ。よしよし、そうだ。その息だ、みたいな感じでさ。かっこよくない?」
「ぜんぜんわからん」
「同じヤンキーなのに?」
私がそう言うと、即座に妻の拳が私の肩を目掛けて飛んできた。妻は口が悪いしすぐに手が出るから、家族の間では「元ヤン」で通っている。一見大人しそうな妻なんだが、その本性は獅子のように勇ましい。獅子頭よりも獅子らしいのが、我が妻である。
そんな夫婦のやりとりは、幌獅子のパレードの最中に、実にささやかに行われた。2026年の石岡のおまつりは、台風の影響を受けて連日の雨だった。幌獅子のパレードが行われたこの日も、雨が降っていた。
だから、幌獅子を引く人々も、それを見る人々も、カッパを着たり傘を差したりして雨を凌いでいた。妻は傘を差し、私はカッパを着てまつりに参加していた。
私のカッパは、モンベルのカッパだった。山登り用に買ったカッパで、ホームセンターで安かった(6,000円くらい)ので買ったものだ。買ってからもう10年以上は経つ。
安くてもそれなりにかっこよかったし、カッパなので当然雨は凌げたので、お気に入りだったのだが、最近は山に行く機会がめっきり減り、ザックの中にしまい込んだままになっていたのを、その日引っ張り出して着たのだが。
「なんか、寒くね?」
雨に打たれながら幌獅子のパレードを見ていて、ふと寒気を感じる。
「寒くないよ」
妻が言う。
なんかおかしいな、モンベルのカッパを着ているから、雨はちゃんと防げているのに、とカッパの裏地を触ってみると、じっとりと濡れていた。
「あ、駄目だ、このカッパ。中が濡れてる」
10年以上も前に買った安カッパだ、当然といえば当然だった。
「脱いで、肩にかければ?」
妻の言う通り、私は濡れたカッパを脱いで右肩にかけた。雨を凌ぐものがなくなったので、全身が雨に濡れてしまうし、濡れていたカッパの水分が服についていっそう濡れてしまうし、寒気は増すばかりだった。
いったい何で、妻はこんな指示を出したのかわからないが、ひとまず言うとおりにしておいた。
毛の量が寂しくなった私の頭頂部に、ぽつぽつぽつぽつと雨粒が落ちる。雨粒と一緒に毛も抜け落ちてしまわないか、心配になる。
私の姿を見た妻は、
「バカじゃないの?」
と言う。
「肩にかけるってこういうことを言うのよ」
そう言って妻は私の右肩にかかったカッパを取って、フードを私の頭にかぶせ、袖を通さず両肩にカッパの肩の部分をかぶせた。ポンチョのような着方だった。
「ああ、なるほど。こういうことね」
「まったく」
「羽織れって言ってほしかったな」
「うるさい」
結局、それでも寒気は取れなかったので、傘を買うことにした。あのままカッパを着ていたら、頭の皿に水が溜まって、河童になってしまうところだった。
河童・或阿呆の一生 (新潮文庫)|芥川 龍之介
河童の日本史 (ちくま学芸文庫)|中村 禎里
