惹かれる人
私は、植物が何となく好きなので、朝井まかてさんの「ボタニカ」を読んだ。これがとても面白かったものだから、朝井まかて本を読み漁ろうと思い、次の本を探していたところ「白光」が目に留まった。
この本の主人公・山下りんさんは茨城県笠間出身の聖像画家だという。
私が住んでいる水戸市は、笠間市のすぐ隣にあって、近年の初詣は笠間稲荷神社に行っているし、日動美術館にはたまぁに母と絵を見に行ったり、妻の母の好物は笠間の栗だったり、といった感じで、笠間と縁がないなんてとても言えない生活を送っていて、そんな時にこの「白光」を知ったのだから、目が留まらずにはいられない。
聖像画家というのがどういうものかわからなかったが、字面から絵を描く人だということはわかる。実をいうと、私は絵画も「何となく」好きだったので、そうなってくると、この本と私の出会いは偶然ではなく、読むべくして読んだ本だったと、読んだ後にそう思う。
「白光」を読むことが、我が人生において必然だと思った理由は、もう一つある。
それは、山下りんとある人物が重なったから。
山下りんは、笠間に生まれ、画家になりたくて東京に行き、東京でいろんな画家に師事するが度々衝突し弟子入り先を転々とする。絵を学ぶ学校に入ったかと思えばそれも途中で退学し、教会に通っているうちに絵の腕を認められてロシアに渡航。ロシア行きの船の中では同行者からひどい扱いを受け、ロシアに着いてからも思うような絵が描けずに、絵の師匠と衝突を繰り返し、悶々と過ごしていたが、やがて精神を病んで日本に戻り、再び教会で画家として厄介になり……そこからラストに向けては、山下りんがこれまでに抱いた悶々や若さ故の人間関係のまずさなどが解消され、ちょっと達観した感じで終わる。
句点3つで説明すると、この本はそんなあらましである。
生涯を「絵」に捧げ、愚直に生きた山下りん。その道程には、人間関係のトラブルが多々あった。それは信念を貫いたがゆえ、なんだろう。
特にロシア編。絵の先生と事あるごとに衝突し、同僚たちとも一時険悪な雰囲気になる。それでも信念を曲げない。確かに不器用かもしれないけれど、確かに強い女性……強い人だった。
私は、強い人間には面と向かってモノを言えない性格である。自分にはない強さに気圧されて、何だかちょっと引いてしまう。距離を置きたくなってしまう。山下りんにも、そんな強さを感じた。
「白光」を読んでいて、笠間の栗が大好きな妻の母を思い出した。
「うちの母だったら」
何か事が起こると、妻は義母を例に挙げる。
「相手のところに乗り込んで説教しちゃうだろうね!」
義母は強い女性だ。周囲の人間との調和など気にもせず、言いたいことを言っては関係を悪くする。嫁ぎ先の両親にも果敢に意見を言い、子どもがいじめられでもしたら即座に学校に乗り込み先生方に物申す。離婚後は、文字通り休む暇なく働いて、女手一つで子ども3人を育てあげた。
句点3つで説明すると、義母はそんな女性だった。
強いがゆえに、周囲と摩擦を起こす。それは家族間でも同じなようで、妻の妹と義母は今でも時々喧嘩をしているようだ。
「強いねぇ、Hさん(義母の呼称)は」
妻から義母の話を聞くと、いつもそんな感想を述べる。
「そうでしょ」
妻は何故か嬉しそうに言う。
「子どもを産むと、強くなるのよ」
かくいう妻は、最近義母化が激しい。
娘が学校でいじめられていると知ると、授業参観の時にいじめっ子たちを睨みつけてきたり、息子が学校の教師に執拗に説教されたと知ると、学校に乗り込んで話し合いをしてきたり。それでも改善されないから「教育委員会に言いつけてやった」と自慢げに言う。
「似ているよね、母娘だよね、やっぱり」
すっかり感心して妻に言う。
「そうかな?」
と言いながら、ちょっと自覚がありそうな表情をしていた。
そんな妻が、かわいらしく思えてしまう。
どうやら私は、強い女性に惹かれてしまうようだ。
▼正教会やニコライ堂についても学べちゃう▼
▼日本の植物学の父について学べて、ついでに借金が怖くなくなる本▼
