aizudesを探し求める旅(2026/9/5,9/6)
家族で福島旅行に行く1週間前。職場のM先輩におすすめの場所を教えられた。
「猪苗代湖がいいんだよ、水が透明でさ。茨城の霞ケ浦なんかと大違い。霞ケ浦の水に足を入れたくなんてならないっしょ?猪苗代湖はさ、足を入れたくなるんだよ。それくらいキレイでさ。湖の向こうに磐梯山が見えてさ、最高なんだよ。会津行くなら絶対行った方がいい」
いや、そんなことを急に言われても。残念なことに猪苗代湖は旅程に組み込まれていないし、せっかく決めた旅程を今更変更するのも面倒だし。だから、先輩の助言は無視して旅に出た。
旅の途中で、二本松から会津若松へ向かっていると、道路標識に「猪苗代湖」と書いてあった。改めてナビを見てみると、これから猪苗代湖の近くを通るらしい。M先輩の言葉を思い出す。
「絶対行った方がいい」
押しの強いM先輩だから、私が旅行から帰った時に「猪苗代湖行った? え? 行ってないの? なんで行かないかなぁ、もったいない!」としつこく言われるに決まっている。
「はぁ、まぁ、家族が行きたがらなかったし。私は行きたかったんですけどね、今度独りで行ってみようかなぁ」
押しに弱い私は、M先輩の言葉に押されて、猪苗代湖に行かなかった理由を家族のせいにしてしまうだろう。それはなんか嫌だ。私は家族を愛する男なのだ……とのたまう割には、普段から家族のせいにしていろいろな誘いを断っている。いつも悪者にしてごめん、家族のみんな。
「ちょっと寄り道していい?」
旅館へのチェックインまで時間も余っていたし、M先輩にいろいろと言われるのも面倒だし、これ以上家族を悪者にするのも気が引けるから(うん、じゅうぶんな理由だ)、結局猪苗代湖に立ち寄ることにした。
向かった先は志田浜という場所だった。

そこから見る猪苗代湖と磐梯山は、思わずうんうんと唸るほど、素晴らしい眺めだった。M先輩の言うとおり、猪苗代湖の水は透明だった。湖水浴をする子どもの姿もあった。
もうすぐ夕方を迎える時刻の陽の光を浴びて、湖面が輝いていて、その光景の素晴らしさたるや、普段は自然の風景に興味すら抱かない妻が「きれい」とうっとりしてしまうくらいであった。
妻ですらそれほどに感動したのだから、自然の風景が好きな私としては、1時間でも2時間でも眺められる、いや眺めていたい景色だったのだが、子どもたちが飽き飽きとしていたので、名残惜しくもその場を後にすることにした。
帰りながら二度、三度、いや、四度は後ろを振り返って、光り輝く猪苗代湖の光景を、目に焼き付けようと試みた。
できる限り猪苗代湖を眺めた後、ほとりにあった土産物屋を見ることにした。妻と子どもたちは、キーホルダーやらお菓子やらを眺め歩く。私は独り、ぶらぶらと店内を歩いていた。
そこで、見つけてしまった。とんでもないものを。

aizudes
それは、店内にぶら下げられて売られていたTシャツの胸の部分。スポーツブランドのアディダス(adidas)をもじっていて、ロゴマークの葉っぱのところが赤べこになっている。パロディTシャツだった。
aizudes = 会津です
直接日本語で書いてしまうと、主張が強すぎていかん。
aizudes
英字で書くことで、さりげなく「会津」を主張している。これはいい。洒落ている。つまり、お洒落なTシャツである。そして、赤べこのイラストもかわいい。あまりの衝撃に、私はしばし、そのaizudesのTシャツの前で立ちすくんでしまった。
いわゆる、一目惚れってやつだ。旅先で抱いてしまった恋心は、抑えようがないもので。衝動のままに、Tシャツのサイズを探した。一番大きいサイズはXLだった。
自慢じゃないが、私は背が高い。190㎝くらいはある。そして、これは自慢だが、座高も高い。映画館や落語会などの時には、後ろの席の人に気を遣ってなるべく端っこの席を無意識に選んでしまう。椅子に浅く腰掛けて、少しでも座高を下げようとしてしまう。これらの癖は、座高が高い人の悲しいあるあるだと思う。
まぁ要するに、胴が長いワケで。私と身長がそう変わらない人と並んで座った時に、10㎝以上も私の座高が高かったことがある。あれは、非常に不思議な出来事だった。それ以上は、言うまい。私はけっこう繊細な心を持っているのだ。
そういえば。
先日、いい感じのTシャツを見つけて、サイズがXLだったから着れるだろうと思って買ってみたら、丈が微妙に足りなくて切なくなったことを思い出した。売り場にあった中では最も大きいサイズだったのに。街中で着るはずだったそのTシャツは、寝床で着ることになった。
そんなわけだから、Tシャツを買うのは怖い。最大サイズがXLだなんて、心許ないにも程がある。でもaizudesのTシャツは欲しい。だって、飛び切り洒落ているんだもの。つまり、お洒落なんだもの。
これを着れば、私もお洒落なおじさんの仲間入りができる、そんな気がしてしまう。しかも、ただのお洒落なおじさんではない。洒落がわかりそうな、洒落たことを言いそうな、そんな雰囲気漂うおじさんである。
それって、ちょっと良くない? いや、とても良くない? ってことは、これ、買いじゃん。でも、XLって丈が短くないか? 私にとって、嫌な思い出があるサイズじゃないか。買うのはいいが、いざ着てみたらまた丈が足りなくて、パジャマTシャツになってしまわないか。やっぱりTシャツを買うのはよしたほうがいいか?
でも、お洒落だし、洒落ているし……。
堂々巡りしながら、しばらくTシャツと睨めっこしていると、妻が声をかけてきた。
「それ、欲しいの? 買ってあげてもいいけど、どこで着るの?」
「? 普段着だよ」
まったく、甚だしい愚問をする妻である。このTシャツは普段着どころか勝負着にもなれる逸材ではないか。
「部屋着とか、パジャマじゃなくて?」
「いやいや、外でも着れるでしょ、これ。かっこいいじゃん。お洒落じゃん。かわいいじゃん」
「えーーー」
「何?」
「私といない時に着てね」
「なんで?!」
妻はまったくセンスがない。これほど洒落たTシャツには、めったに出会えるものではないのに。私はこれを着て、妻と二人で外出したかったのだが。
「あなたはダメなんですか?」
「ダメですね」
「じゃあ、猿師匠しかいないな」
「猿師匠とのお出かけ専用で買えば?」
「切ないね、なんかさ」
「お揃いで着ればいいじゃん」
「きもいだろ。50間近のおっさん二人のペアルックは」
という具合に、妻の猛反対にあったので、Tシャツは諦めることにした。店内には、他にもaizudesグッズがあって、ボクサーパンツ、バッグ、靴下などが売られていた。
なんだなんだ? aizudesってこんなに横展開してるの? ひょっとして、会津人はaizudesを身につけるのが当たり前なくらいに流行ってるの? 流行りというか、もはやベーシックだったりするの?
Tシャツがダメなら、他のaizudesグッズでもいいか、と考え始める。それなら、手ぬぐいがいい。手ぬぐいなら何個あってもいい。邪魔にならないし、すぐ乾くし、仕事中にハチマキにして無駄にやる気をアピールもできるし、その上、二人三脚の時に足を縛るのにも使えるというスグレモノ、それは、手ぬぐい。
私は手ぬぐいを日常的に使っていて、10枚以上は持っている(自慢するほど多くないな(笑))。そのほとんどは、旅先で買った手ぬぐいだ。去年行った名古屋でも、一昨年行った沖縄でも手ぬぐいを買っていた。他にも、国会議事堂に行った時なんかも買っていた。
「いつもどこか行ったら手ぬぐいを買っているから、手ぬぐいがいいかもね」
妻もそれなら納得がいくらしい。
この時、夫婦の問題は解決に向かったに見えたのだが。店内を探せども探せども、aizudesの手ぬぐいがない。ボクサーパンツや靴下はあるのに、手ぬぐいがないのだ。
なぜだ。なぜなんだ。aizudes。
これだけ商品展開しているのに、なぜ手ぬぐいがないのだ。手ぬぐいなんて、Tシャツの次に作るべきだろう。なぜ、ボクサーパンツなんだ(私はトランクス派)、なぜ、くるぶし丈の靴下なんだ(バッグはまぁわからんでもない)。
土産物屋にはaizudes以外のいい感じの手ぬぐいやTシャツもあるにはあるのだが、私はすっかりaizudesに魅せられてしまっているから、aizudes以外のものは買いたくない。そんな気持ちになっていた。
「他のお店を探そうか」
悔しいが、 ここは妻の提案を飲むしかない。この店でいくら粘って探しても、aizudesの手ぬぐいは見つからない(いや、そもそも作られているのか?という疑問をこの時は抱かなかった)。それから、行く先々の土産物屋へ寄ってはaizudesの手ぬぐいを探す旅が始まった。



鶴ヶ城の土産物屋、会津若松駅の土産物屋、赤べこランド、大内宿の店々、道の駅しもごう、新白河駅の土産物屋……。どこを探しても、aizudesの手ぬぐいは見つからない。
それどころか、会津若松から白河に行くと、次第に土産物屋に並ぶのが赤べこよりもダルマが多くなり、aizudesグッズすら見つからなくなってしまった。
結局私は、aizudesのTシャツも、それ以外の手ぬぐいも買わず、茨城に戻ってきた。無念だった。会津藩が抱いた無念を、引き継いでしまったようだった。
福島旅行から帰って、私はaizudesの手ぬぐいをネットで探し回った。だが、やはり手ぬぐいは見つからない。これだけ探して見つからないということは、製造されていないのだ、ということに、ようやく気が付いた。
手ぬぐいがないことがわかると、やっぱりTシャツが欲しくなった。「aizudes」と検索すると、自然とTシャツの画像がヒットしてしまい、それを眺めていたら「aizudesのTシャツが欲しい」熱が再燃して、みるみるうちに燃え上がった。
「買ってもいいけど、外では着ないでね」
相変わらず、妻は反対の姿勢を崩さない。いや、もはやそれでもいい。妻のいない時に、着れるだけでもいいから、aizudesのTシャツが欲しい。丈が短いかもしれなくたっていい。チビTのリバイバルブームを、私が起こそうではないか。
私は、決心した。aizudesのTシャツをネットで買う決心を。
すると今度は、通販では売られていないという事実を目の当たりにすることになる(メルカリではあったけど、Lサイズだけだった)。
代わりに売られていたのは、
azides(アジです)とayudas(アユだす)のTシャツだった。
ここまで読んで、aizudesのTシャツが欲しくなった、そこの貴方。
その衝動はきっと、会津への旅が始まる「合図です」。
