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野良本 Vol.14 街と山のあいだ / 若菜晃子

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元・山渓編集者「若菜晃子」が贈る珠玉の山エッセイ

「あいだ」の人は、とても価値がある

何かと何かの「あいだ」に入ることは、とても面倒で厄介なことだと思う。けれどその反面、とても価値のあることで、人の役に立てることだとも思う。

「街と山のあいだ」の著者である若菜晃子さんは、長年山の出版社に勤め、そこで街の人と山のあいだに入ってきた。自らが日本全国津々浦々の山に登って、そこで見たもの聞いたもの体験したこと学んだことを、誌面を通して人々に伝えてきた。

本著にも書いてあるように、時には死ぬほど怖い想いをしたこともあるだろう。頂上にたどり着くまでに、大変な苦労もあっただろう。その反面、涙が出るくらいに感動する景色を眺めることもあっただろう。山でしか出会えないようなおかしな人にも出会っただろう。

そうして得られた若菜さんの経験は、文章になって街の人々に伝わる。若菜さんの文章を読んで「ああ、私もこんな経験をしてみたい。山に登ってみたい」と思った人は、実際に山に出向く。

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文章には、想像だけでは書けないものがある。実際に自分で体験しないと、どうしても説得力を欠いてしまう。見聞だけでは、その魅力を存分に伝えきれない。

「山登り」も、その一つだ。山に登ったことがない人が書いた山岳小説や山のエッセイなど、誰が読みたいと思うだろう。その点、若菜さんは実に数多くの尾根を歩き、その頂きを踏んできた。そして、その経験を文章に落とし込んできた。だから、若菜さんの文章を読むと、実際に山に登っているような臨場感があり、山に登りたくなる。

若菜晃子という「あいだ」の存在が、街の人を山に向かわせた貢献度は高い。かくいう私も、その影響をおおいに受けた一人である。

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かいつまんでレビュー

さて、この「街と山のあいだ」は、「美しい一日」という山のポエムから始まる。続く「前剣」では山と渓谷社に入社後の夏に、立山三山と剣岳をオシャレ靴で歩いた時のこと。私も登山靴を買う前に、スニーカーで一度登ったことがあるが……それは所詮茨城の低山で。それをオシャレ靴で、しかも剣岳に行ったというのだから、恐れ多い。

次の「奥穂と校了」では、山渓時代の若菜さんの暮らしが垣間見える。出版の仕事の経験は少ししかない私だが、校了日という言葉を聞くと未だ気持ちが焦るというか、逼迫した気持ちになるというか。今となっては良い思い出……になっているだろうか?

「山でこわかった話」は、雪山にチャレンジする勇気を削ぐ作品(笑)である。山でいろいろと経験はしてみたいが、滑落の経験は勘弁である。

「地図を作る」「山座同定」を読んで、以前の山の師匠に山座同定や読図やコンパスの使い方を教わったことを思い出す。しかし、ろくに覚えてないのが何とも悲しい。

「山での会話」。そうなんですよ、山に登る時の会話って意外に少ないんですよ。と低山ばかり登っている私は、さも知っているかのように共感してみる。
”一緒に山に行く相手というのは、話さなくてもいい、話さなくてもわかり合えるとお互いが思っている相手というのがいちばん望ましい”というのは、おっしゃる通りだと思った。山に登る相手は、誰でもいいわけではない。

「山頂にて」ではいろいろな山のお話を聞かせてもらえる。この山登ってみたい!と思った山がいくつもあった。写真もなしに、文章だけでそう思わせるのは本当にすごいと思う。未踏の山に夢が膨らむ一品であった。

「山の道具」.
若菜さんの山道具に対する思いや考えがわかる。山道具、高いんだよなー。でも、欲しくなってしまうんだよなー。

「今日の夕陽」「山の石」は、詩人であり哲学者であり随筆家でもある故・串田孫一さんが登場する二編。「山の石」では若かりし若菜さんと串田先生とのやり取りがかわいらしい。

「低山の魅力」。低山好きな私にはたまらない一編。短い文章ながらも低山の魅力を存分に伝えている。低山は時間を気にせずに、のんびり歩けるからいい。遅く起きた朝だって、ひょっこり登れてしまうような低山は、計画することが苦手な私にちょうどいい。

「葉の裏の神様」「てふり」では、ちょっと不思議な空気を漂わせる。五十嵐大介の「はなしっぱなし」や「魔女」を読んでいるかのような気分になった。

出版社時代の後輩とのやり取りを可愛らしく描いていた「太ったっていいじゃない」
山の話なのだが、ちょっとサブカル臭も漂う異色の作品。短いながらも、ラストの段落にはカタルシスさえ覚える。そうだ、太ったっていいじゃない!

「佐志岳の犬」
犬とおじさんのお話…と書くととてもほのぼのとした話に思えるが。実はちょっとしたホラー短編としても読める作品である。

「高尾まで」「兄に似た人」は、家族のおはなし。「高尾まで」の親娘の関係が素敵。一方、若菜さんのお兄さんのことを書いた「兄に似た人」は、兄と妹の微妙な関係がよく描かれている。

「ヨタカの宿」
ヨタカと聞くとどうしても宮沢賢治を思い出してしまうが、これは寂れてしまった山の宿のお話。ちょっと無愛想な女主人がいい味出してる

若菜さんの元上司の病死を描いた「木村さん」は、本著で最長の24ページの長編(?)。過去にお世話になった上司が、重病を患い死が間近に迫っている状況。会いに行くべきか、行かないべきか。上司「木村さん」が入院している場所は、先日山から見た景色の一部で……。短編映画を観ているかのような、よくできたおはなしだった。

そして最後の一編「誕生日の山」は、文章がキラキラしていて、若菜さん自身がとても楽しそうに山に登っているのが伝わってくる名作である。

この「街と山のあいだ」の感想を一言で言ってしまうと、どのおはなしもとてもかわいらしい。若菜さんの人柄が文章から滲み出ている。読んでいて、ほっとするような、胸が弾むような、そんなお話が綴られている。

こんな素敵な山の本なのだから、もっともっとたくさんの人に読んでいただきたい。「人生に山があってよかった」と若菜さんが思ったように、「人生にこの本があってよかった」と思えるに違いない。

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今回紹介した本

街と山のあいだ

  • 出版社 ‏ : ‎ アノニマ・スタジオ (2017/9/22)
  • 著者 : 若菜晃子
  • 発売日 ‏ : ‎ 2017/9/22
  • 単行本 ‏ : ‎ 284ページ

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若菜晃子さんの本

自然について、私の考えを話そう。

以前に当サイトでも紹介した本。様々な業界の様々な偉人達に若菜さんが「自然について」インタビューする。

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・Spectator 26号 OUTSIDE JOURNAL 2012

私が一時期猛烈にハマり、買いまくっていたスペクテイターでも紹介されていた若菜さん。この号ではインタビューをする側でなく、される側。若菜さんの生い立ちなどがわかる一冊。

 

・街と山のあいだ

編集者として書き手として「街」の人々に「山」のことを伝える若菜さん。彼女の魅力がいっぱいに詰まった文章をどうぞ。

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・暮らしの手帳別冊 徒歩旅行

ブログ内でも触れた「徒歩旅行」。購入時はムックだったので、新品はもう出回っていないっぽい。とても素敵な旅本なので、ぜひ。

 

・旅の断片

リトルプレス「murren」を読んでいると、若菜さんは世界各国に旅していることがわかる。メキシコ、イギリス、キプロス島、ロシア、スリランカなど、様々な国を巡った若菜さんの旅の記憶の断片が読める随筆集。

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・東京近郊ミニハイク

山のガイド本。東京から日帰りで行ける山をセレクト。登山初心者にオススメ。

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・東京甘味食堂

東京にある甘味食堂を取り上げた本。まだ読めてないです、すみません。

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murren

若菜晃子さんが手がけるリトルプレス「murren(ミューレン)」。山のこと、旅のことなどが書かれている小冊子。サイズが小さくてかわいい。デザインもかわいい。文章もかわいい。特定の書店やカフェで販売されているほか、ネットで定期購読もできる。

murren vol.27 2022 September
『murren(ミューレン)』は、「街と山のあいだ」をコンセプトに、身近な自然や山をテーマにした小冊子です。2006年発行の季刊誌『wandel(ワンデル)』のコンセプト、スタッフ、テイストで、山や自然の世界を感じていたい、行ってみたい人た...