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城里町の高萩さん Vol.27 変化

ヒト取材記
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縁と援と円(2023/3/1)

約5か月振りに城里町の高萩さんの畑を訪ね、焚火をした。火に木をくべながら、話をした。

そこで、ある変化に気付いた。高萩さんの言葉が、今まで少し違う気がした。

「鼻声だからですかね」

と高萩さんは笑った。確かにこの日の高萩さんは鼻声だった。

かくいう私も同じく鼻声で、鼻水が止まらず、クシャミが出て、目もかゆくてたまらなかった。その日は春の陽気で、花粉の飛散量がとても多い日だった。

高萩さんも花粉症ですか?

「どうなんですかね。風邪だとばかり思っていたのですが、以前からこの時期は目がかゆくなるので花粉症かもしれません」

高萩さんはそう言うけれど、声のせいだけじゃない気がした。なんかこう、いつもと違う落ち着きがあった。静けさがあった。とにかく高萩さんに「変化」があって、そこには決意のようなものが感じられた。

その変化の理由を、私は知っていた。今年の1月、高萩さんのお父様がお亡くなりになったのだ。

お父様が亡くなってから、高萩さんは家族と話をして、そこである決意をしたという。

「家を大事にします宣言をしたんです」

今まで、高萩さんは本業の農業以外のことをいろいろと行ってきた。新規就農者向けの講演、古内茶庭先カフェのイベント運営、有機野菜の無人販売所……などなど。農家として「野菜を作る」こと以外の対外的な活動である。

「最近野菜の出来もイマイチなこともあって、父の死を機に私のやるべき仕事をきちんとやろうと思ったんです。私は普通の農家に戻ります」

驚きの発言であったが、納得の発言でもあった。

高萩さんのお子さん、宗ちゃんも2歳になった。自分の足で歩けるようになり、いろいろな言葉を話すようになった。少し見ない間にずいぶんと成長したものだ。だが、これから先、宋ちゃんはもっともっと成長していき、その過程では当然お金が必要になる。

「この子も妻も、私を頼るしかないんですよね」

高萩さんが火を見つめながら言う。私は鼻にティッシュを詰め込みながら、それを聞いた。

「やりたくないことをやめるのは簡単ですが、やりたいことをやめるのは難しいんですよね。でも、人間の一生は4,000週間しかないんです。あれもこれもできないので。やりたいことに優先順位をつけてやるしかないんです」

やりたいことをやってお金が稼げればいいが、そううまくいくことばかりでもない。高萩さんの対外的な活動には「社会実験的」な位置づけのものが多く、良い経験にはなってもすぐに収入に結び付くものばかりではない。そのため、対外的な活動を今までよりも自粛することにした。昨年オープンした有機野菜の無人販売所「野菜の駅」もしばらくお休みし、稼業に注力するという。

子どものために、家族のために、今後の高萩さんには「お金=円」が必要なのだ。

「でも、農家はやっぱり稼げないですから。私の場合、ひとり農家ですしマンパワーも足りない」

珍しく悲観的な発言に、聞いている私も不安になった。けれど、高萩さんはやはり高萩さんだった。「普通の農家」ではいられない。

「お金はないですが、余剰の生産物はあります。それを生かして援農を募ろうかと思っています。とりあえず知り合いに声をかけてみようかと」

援農……それは金銭のやり取りなしで農作業を手伝うこと。高萩さんの場合、農作業を手伝ってもらう代わりに、余った農産物を提供するという。

農作業には、年に何度か人手が必要な時期がある。今まで一人で行っていた作業も、複数で行えば当然作業時間が短縮され、仕事量を増やすことができる。仕事が増えるということは、「円」を増やすことにつながる。「縁」と「援」の力で「円」を補うという訳だ。

「週一でも週二でもいいので、試しにやってみようかと。援農でゆるく人々とつながることができれば。助ける・助けられるの関係以上のものが生み出せるのでは?」

もちろん、助けられるばかりではない。自力で「円」を補う工夫もする。

「今年は田んぼでお米を作ろうと思っています。去年は栽培した大豆で味噌も作りました。カロリーはなるべく自給自足していくつもりです。機械をなるべく使わないようにしているので、農作業にかかるエネルギー(燃料)は最小限に抑えられているので」

高萩さんはいつものように柔らかい口調で語った。口調は柔らかいが、その言葉には意志の強さが感じられた。やはり、高萩さんは変化していた。

でも、軸はぶれていない。無理をせず、人との関わりを大事にし、自給自足を目指し、環境に配慮した、持続可能な循環型農業の追求。この日は短い時間のやり取りではあったが、言葉の端々に以前同様の「城里町の高萩さん」の姿も感じ取れた。

その変化のイメージは、何本もの線が集束されて一本の太い線になり、そぎ落とされてシンプルになり力強くなった感じだ。

やがてその線は、緩やかな弧を描きながら伸び進み、一つの丸い「円」になるんだろうな。

 

限りある時間の使い方/オリバー・バークマン

今年も高萩さんちで焚火をした。

自家製の干し芋を焼く高萩さん

パリッとしていておいしい焼き干し芋ができあがりました。