野良本について ④ あしたの弱音 / タイム涼介

中学校の屋上を畑に! 
まさに「自給自足の青春物語」

 

ハチャメチャながら、農の本質を思い知らせてくれる傑作?「あしたの弱音」

「自給自足の青春物語」

「あしたの弱音」のオビに書かれているキャッチコピーである。

オビには、「ちょんまげ」を結った少年がきゅうりを豪快にかじる絵が描かれていて、なんだかちょっとヘンテコである。

(自給自足に青春? そして、チョンマゲ? なんなんだ? この漫画は?)

何とも不思議な漫画を前に、うーんと唸っていた私に「これ、面白いっすよ」と友人が背中を押してきたので、そのままレジに向かってこの「あしたの弱音」を購入したのは何年も前の話。

項をめくってみると、いきなり下ネタ。

(あれ?自給自足の農的な話じゃないの?)

キャッチコピーをそのまま真に受けていた私は、呆気にとられる。

読み進めても、暴力、無気力、不条理なギャグが満載である。

求めていた内容ではないが、確かに面白い。
けれどそれは、青春ギャグ漫画として、だ。

(いったいこれのどこが、自給自足なんだろう)

キャッチコピーに騙されたなぁと思いつつも、ギャグ漫画としては面白いのでそのまま読んでいくと……怒涛の展開が始まったのだ!

 

 

両親に捨てられ、中学校の屋上に小屋を建てて住み始める主人公の弱音(よわね)。
不良や犬(?!)との死闘、不良少女との恋、進路の悩み……などといった青春の悩みに立ち向かいながら、屋上での自給自足の生活が始まるのである。

 

屋上ではプランターを利用して野菜を作ったり、付近の農家のもとに出稼ぎに行ったり、信号機の光を利用して野菜を栽培したり。

その後は農業高校に進学し、卒業後(?)JAに就職。

米泥棒や害獣を駆除する特別部隊の隊長になってしまうという、何ともハチャメチャな展開を迎える。

(まさしくこれは自給自足! そして、青春漫画! こんな漫画今までに読んだこともない! というか、無茶苦茶だ!(笑))

それでも、最後は気持ちよく、かっこよくまとめられていて、すっきりした読後感。

それだけでなく、人生について、環境について、農業についてアレコレと考えさせられる台詞がいくつもある。

食べるために、食べるものを作る。

それが、生きるコトであって、農業なのである。

という、農業の核心に迫る内容が随所に盛り込まれていて、読み終わってみれば、勉強になった! 感動した!とすら思えてしまう驚異の漫画であった。

昨今の農を美化しすぎる話に少々食傷気味であったので、ちょっとくらいハチャメチャでも、農の本質的な部分に触れられた気がした。

余談。
この「あしたの弱音」のコミックスに収録されているのは、実は月刊コミックビーム(漫画雑誌)連載時の中盤以降のお話で、当初は学園ドタバタギャグ漫画であったらしいのだが、途中から暴走 してこのような結末を迎えたらしい。

作者の暴走によって、暴走する主人公の弱音。

でも、その暴走によって、ストーリー的にも作品的にも良い方向に向かったという奇跡のような漫画である。

だからといって、この本に感化されてリアルに暴走するのは頂けない。

暴走することを妄想するだけに留めておこう。