城里町の高萩さん Vol.20 野菜の駅プロジェクト ~ ローカルへ、還ろう。究極の地産地消 ~

有機野菜の無人販売所「野菜の駅」が2021年8月31日城里町にオープン。
城里町の高萩さんにその裏側を聞いてきた(取材日:2021/9/19)

★ 高萩さん、駅長になる

2021年8月31日(野菜の日)。城里町に有機野菜の無人販売所「野菜の駅」がオープンした。

茨城県の城里町という小さな町の一画に、「野菜の駅」という小さな無人販売所がオープンした。
創設者は、お馴染み城里町の高萩和彦さん。無人販売所で売っているのは、もちろん野菜である。

野菜の駅がオープンしたのは8月31日……8(や)3(さ)1(い)の日。

もしかして高萩さん、狙ってました?

「オープンするならばこの日しかないと決めてました」

やはり! さすが高萩さん、このためだけに無人販売所をオープンするなんて!……なんてことは、もちろんないない。

「私は野菜の駅の駅長を名乗っているんです」

はぁ、駅長ですか。野菜の「駅」だから?

「昔から鉄道が好きで……小さい頃の夢が駅長になることだったんです!」

嬉しそうに話す高萩さん。そうか、高萩さんの夢は駅長だったのか。では、その夢を叶えるためにこの野菜の駅を!……なんてことも、もちろんない……と思う。

※野菜の駅の営業時間……火・木・土曜 10時~18時

★ 究極の地産地消

野菜の駅で販売している高萩さんの有機野菜。

わかっていますよ、高萩さん。
「自分が作った有機野菜を地域の人に食べてもらうこと。それが本当の有機農業の姿だ!」って前回だか前々回だかに言ってましたもんね!

「そうです。私はそれを『究極の地産地消』と名付けました。野菜の駅に置いてある野菜は、すべてこの場所の半径1キロ圏内で採れた野菜なんです。この『町』で採れたどころか、この『地区』で採れた野菜です」

ターゲットは、その地域を歩く人、または自転車に乗って移動する人。いわば、その地域で「生活している人」になる。地域で採れた有機野菜を、地域の人が食べる。しかもその地域とは、野菜の採れた場所から半径1キロ圏内。なるほど、究極かもしれない。

「地域の人に有機農業への関心を持ってもらいたい、理解を深めてほしいという想いがあって」

環境にも人体にもやさしい野菜を作る農家がいても、それを食べる消費者がいなければ農家は作り続けられない。有機野菜というものの良さを知ってもらわないと、理解してもらわないと、そして消費してもらわないと、有機農家は有機野菜を作り続けることができない。当たり前のことだけれど、難しいことでもある。

「その手段として野菜の駅で有機野菜を買ってもらい、私も消費者たちに支えられながら野菜を作っていく。町外へ野菜を出さなくてもその地域で野菜が売れたらいいなって思いました」

高萩さんの畑は、3年ほど前から有機栽培に切り替えた。その時に、「売り先」について考えたという。
有機JAS認証を取得していないと「有機野菜」とは名乗れない。当然直売所などでも「有機野菜です!」とアピールすることもできない。有機JAS認証の取得にはそれなりの費用がかかってしまうし、厳しい審査にも通らなければならない。

例えば、慣行栽培(化学肥料使用など)をしていた畑で有機JAS認証を取得し販売しようものならば、慣行栽培を止めてから早くて2年後になる。有機栽培をしていても、認証を取得しないと世間には「有機栽培」と認められないし、訴えることもできない。慣行栽培の野菜と同じように、お店には陳列されてしまう。でも、農家としては自分の作った野菜を安売りはしたくない。

高萩さんは自分の作る有機野菜を適正価格で売るにはどうしたらいいかと悩んだ。

「笠間の『オーガニックの店』は、有機JASを取得していないけれども環境にやさしい有機野菜を作っている農家のために作られたお店なんです。そういう売り先が近くにあったらいいのになって思ったんですよね」

以前は自宅の前に無人販売所を、なんてことも言ってましたよね。それは止めたんですか?

「妻に反対されまして。こんな場所じゃ人来ないよって(笑)」

高萩さんの家、県道から少し入ったところですもんね。でもまたどうして、ここに? (野菜の駅は、県道61号線沿いの平賀石材店の駐車場にある)

「平賀さんとは元々つながりがありまして……」

県道沿いにある平賀石材店。この一画に野菜の駅が置かれている。

平賀石材店内に御香などを扱う「こころの店 葵萌(きほ)」というお店があり、そこを営むのが平賀博子さん。平賀さんも城里町に危機感を覚えていた。城里町で生まれ育った人のほとんどが、大人になるにつれ城里町を離れてしまう。このままではこの町はさみしくなる一方だ。何か1つでも子どもや孫たちにこの町に住む希望を持ってほしい。城里町に対して、そんな風に思っていた平賀さんだから、高萩さんの案(プロジェクト)に二つ返事で「乗った」。

「野菜の駅を置くことが、この町の希望につながるのでは、と期待をかけてくれたんですね」

平賀さんだけではない。野菜の駅のスタンドを制作したのは、城里町の根本樹弥さんである。根本さんは、一度は町を出た人間だが、また町に戻ってきた人間でもあり、今では城里町の人々や近隣の町の人々と知恵や力を出し合って、様々な試みをしている人物だ。そもそも、有機野菜の無人販売所を高萩さんに提案したのは、根本さんだった。

城里町を想う二人の協力と、高萩さんの有機野菜にかける想いが絡み合って、この「駅」は誕生したのだ。

「この野菜の駅のような仕組みが、私以外の農家や他の地域にも広がっていくことが最終的な目標です。考えややり方を他の農家にも真似てもらって、消費者もそれを支持してくれて。そういう関係づくり、つまり『究極の地産地消』が全国に広がっていけばいいなぁ。そして、その先に『地球一個分の生活』があるんです。野菜の駅プロジェクトは、そのスタートであり、拠点ですね」

野菜の駅は、始発の駅だった。
高萩さんの希望と、平賀さん、根本さんら城里町民の希望を乗せた列車は、出発したばかりである。
やがて、ゆくゆくは全国の有機農家の希望も乗せて、人と地球が無理をしない自然な生活に向かってゆくのだ。

平賀石材店の「こころのお店 葵萌」には自然由来のお線香が売られている。竹炭の線香を購入した。

★ ローカルへ、還ろう

9月18日、野菜の駅は台風のため休業。

高萩さんを取材したこの日、日本に台風14号が接近していた。茨城県は雨が降ったりやんだりの天気で、野菜の駅も休業。普段は野菜が置かれている棚には何も置かれていなくて、一枚の張り紙が貼ってあるだけであった。

その張り紙には、高萩さんの似顔絵が描かれていて、絵の下には太字でこう書かれていた。

野菜の駅のスローガン「ローカルへ、還ろう」

「ローカルへ、還ろう」

野菜の駅プロジェクトのスローガンだ。

「コロナの拡大も行き過ぎたグローバル化に対する反作用だと思うんですよ。人間がやり過ぎている、良い所取りし過ぎているから、もう少し身の丈にあった生活に戻しなさいっていう自然からの警告だと思うんです」

その答えが「ローカルへ、還ろう」だ。

高萩さんのメッセージは、野菜の駅のサービスにも込められている。

1.徒歩、自転車で来た人 … わけあり野菜1つプレゼント (究極の地産地消のターゲット層) 
2.車で来た人 … 持ち帰り袋(環境に配慮した袋。無料で配布OK)を使わなければ わけあり野菜1つプレゼント(せっかく来てくれたから)
3.未成年の子どもを連れて来た人 … わけあり野菜をもう1つプレゼント(この町に足りないもの、この町の希望)

野菜の駅をスタートして、意外だったのが遠方からの来客だった。高萩さんはSNSをやらない人だが、このプロジェクトの始動にあたって必要性を感じてインスタグラムを始めた。すると、城里町外からも高萩さんの有機野菜を求めて人が来た。

[https://www.instagram.com/takahagi_dreamline/]

「良い意味での誤算でしたね。嬉しいですけれど」

2のサービスはその気持ちの表れだろう。
それにしても、無人販売所だから人は誰もいないのに、このサービスが成り立っているのがすごい。

条件を満たすともらえる「わけあり野菜」

「今後は、人と人が交流する場所として発展させられたらなぁと思っています。具体的にはもうちょっとコロナが落ち着いたら、ミニイベントを開催して、地域の住民を中心に地元のパン屋さんのパンを売ったりとか、平賀石材店さんのお線香を売ったり、城里には陶芸家もいるからその作品を置いたりできたら」

この日、高萩さんの描く野菜の駅プロジェクトの未来を垣間見た。野菜の駅を見に平賀石材店に行くと、平賀博子さんがいて、そこで3人で話していると、城里町に住む大崎さんが遊びに来て。更に、鉾田のメロン農家の方波見さんがたまたまやってきて、またおしゃべりして。さぁそろそろインタビュー始めましょうかという時に、平賀さんのご主人が帰ってきて、おしゃべりして。

14時半ごろに平賀石材店さんに行ったのに、インタビューを始められたのは18時だった……。

「野菜の駅が完成するまでに地域の人とのつながりを実感できました。スタンドを作ってくれた根本さんや場所を提供してくれた平賀さん、そうした地域の人の協力があってスタンドが設置できたことが大事。地域の人と人が有機的につながった結果です。根本さんも平賀さんも、あの場所にあの野菜の駅を作ることが大事だと思ってくれたから、実現することができたんです」

★ 余白

「まぁ、実際に私の意図した通りになるかはわからないですけれど」

壮大な夢を語った後、高萩先生は照れくさそうに笑った。

「まだ仮説の段階ですから。実際の消費者の行動は仮説とは異なるかもしれない。そこを今、あえて余白を残していて、もしかしたら違う方向の展開があるかもしれない。そこは楽しんでいますけれどね」

確かに、この日の高萩さんは楽しそうだった。理想は描くが、どのようになるかはわからない。そのわからない部分が「楽しい」とおっしゃる。

私は、はぁ、すごいですねぇ、としか言いようがなかった。それまでの話にあった「仮説」とやらもすごいが、それを「どうなるかわからないけれど」とケロッと言ってしまうのもすごい。

(この人は、きっとすごいことをやってのける!)

確信めいたものを感じずにはいられなかった。

(その時まで、ブログを続けておこう。そうすれば……)

不純なことを考えずにはいられなかった。

「完成形ってないと思うんですよね。自分に変化の余地を残しておくことが大事だと思うんです。それは、農業に限らず。自分を常に疑いながら、考えながら、環境や状況によってバージョンアップしていく、そういう余地を残しておくことが大事」

私が不純なことを考えている最中にも、高萩さんのありがたいお話は続く。

「完成だと思わないこと、終わりだと思わないことが余白。完成した瞬間に崩壊が始まるって言うじゃないですか。完成していないということは、発展の余地があるということ。あえて隙をつくっておいて、緊張感を持つ、油断しないという意味合いもあると思います」

例えば、同じような仕事をしている人・趣味趣向を持つ人の集まりに参加したとしよう。そこでは共感できる部分が多く、気持ち良い思いができるだろう。良い出会いもあるだろう。でも、意識の広がりは案外なかったりする。似たような状況で生きているから、逆の視点に立てない。

「それが最近疑問に思ってきて」

高萩さんは言う。

「むしろ一般の人に対して自分の考えを示した時にどういう反応を示すのか? そっちの方が私には興味があるんですよね。有機野菜に興味がない人に買ってもらって、食べてもらって、どういう反応があるのか、の方が面白みを感じますね」

興味のない人に興味を持ってもらう。私がかつてライターやら広告やらをしていた時に、自分自身に課したお題である。これがまた、なかなか難しい。

そうだな、例えば……勉強嫌いな子どもに勉強を教えるようなものか。勉強内容をアニメやゲームに置き換えようとしても、アニメやゲームがよくわからないからうまく置き換えられず。結局、答えがこうだからこれでいいんだよ、という暴論を吐いたのはここだけの話である。

「野菜の駅を置いた場所には、そういう意味合いもあるんです。一般の人に考えを知ってもらわないと意味がないと思うので」

立場の違う人に問いかけることによって、思いもよらない答えが返ってくる。それは、ひょっとしたら今までの考え方や行動とはまるで逆のものかもしれない。無駄だったと思えてしまうようなことかもしれない。軌道修正が必要になるかもしれない。

それでも。

「新しいことを考えられるし、それによって消費者の人にも刺激を与えられるのではないかなって思っています」

余白か。

デザインにおいても、余白は重要な意味を持つ。
余白を多めに設けることで、品良く見せる。余白を均等に取ることで、バランスよく見せる。

文章においても、改段落して余白を設けることをあえてする。
展開を変える、間を置く、考えさせる。

余白は、何事においても重要な役割を持つんだな。

 

と、一見無駄のように見えるこの余白にも実は意味が合ったり(なかったり)。

★ 小噺「野菜の駅」

野菜の駅のスタンド。城里町の根本樹弥さんが制作した。

高萩先生、チラシ作りましょーよ!
野菜の駅の活動と理念を世に知らしめようじゃあないですか!

「理念が先行するのは良くないなと思っているんです」

うわ、また難しいことを。しかも、あっさりと却下。

「野菜を食べてもらっておいしいなと思ってもらうのが原点だと思っているので」

まぁ、確かにそうかもしれませんが、もったいないですよ、素晴らしいことをしているのだし、素晴らしい考えを持っているのだから。

「格言でこういうのがありまして」

か、格言ですか? また難しそうだ。

「人間は頭で食べるのではなく、舌で食べるんだっていうのがあるんですけど、おいしいと感じないものを人は食べないんですよ。私も同じで『うまいは正義』と思っています。食べることに関していえば、うまいっていうことは大前提なんです」

ほうほう、わたしゃ、まったく逆だと思ってました。あれこれと能書き書けば、何食ってもある程度うまく感じるもんだとばかり。でも、うまいことに越したことはありませんな。

「有機野菜は環境にもやさしいし、味もいい。両方必要だと思っています。子どもは正直だからおいしいものはちゃんと食べるんですよ」

人間の本能的な部分ですかねぇ。けれども、それだけじゃ足りないと。その意義やその先にあるものを知ってほしい、感じてほしいっていうのが、野菜の駅プロジェクトですよね。

「そうですね。理念先行の人は本質を見逃していたりする。人間に対する理解が欠けていることがあるんです。私はそこを大事にしたい。自然も大事だけれど、人間もちゃんと大事にしたいんです。人間も自然の一部ですから」

いやはや、ごもっともで。

「今日も農大の講義で有機野菜の定義を教えてくださいという質問があったんですけれど、まず言うのが、簡単に言うと農薬と化学肥料を使っていないのが有機野菜です。でも、それは野菜と人との関係を言っているだけであって、本当はもっと広い考えなんですよ。人と環境にやさしいやさいづくりが有機農業の本質なんですよと付け加えます。そういうことを野菜を食べながら食卓で話してほしいですね。そして、そういう農業って大事だね、その野菜を選びたいねって思ってもらえるのが一つの理想ですね」

ははあ、野菜によって家族の団らんを醸す訳ですね。野菜にはいろんな「益」があるんですなぁ。

★ 野菜の状況

現在出荷中…アスパラガス・枝豆・生姜

アスパラガス 調子の悪さを引きずっている状態。枝豆の作付を増やしてカバーしている。
枝豆 好調。10月まで出荷予定。
生姜 春先の雨の多さで障害が出ていたが、お盆の雨の影響で更に収量が落ちている。

その他
レンコン 去年よりも作付増。その分草取りの労力が増えて苦労した面もあるが、収量は例年並みの予想。今年はカラ狩りも早めに行い。見栄えのよいレンコンが出来上がる予定。
マコモ 田んぼの草刈を実施。例年通りに収穫できそう。年末には笠間茶屋さんとマコモで門松を作りましょう!なんて話も出ている。マコモを食べるだけではなく、別の用途を見出していくことで、農の奥深さを追求していきたい。

高萩さんの野菜が買えるお店

道の駅かつら

つちっこ河和田

有機農家が作ったオーガニックの店

生活クラブ

野菜の駅プロジェクト(インスタグラム)

[https://www.instagram.com/takahagi_dreamline/]

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