城里町の高萩さん Vol.18 地球一個分の生活

高萩さんちで縁側講座
日が沈むまで高萩和彦さんの環境論を聞いてきた(2021/5/29)

★野良の合間に環境論

本日の作業はネギの植え付け。

「えすでぃーじーず」やら何とやら。
現代では、地球の環境を守ることは政策のひとつであり、ビジネスのキーワードにまでなっている。
「環境にやさしい」と包材に書かれていれば、その裏側まで想像しないでほいほいと購入してしまう始末である。

でも、ちょっと待って。

それって、本当に環境にやさしいの?
てか、環境って何基準?
ヒト基準? 動植物基準? 地球基準?

環境問題ってなんなのさ、いったい?

「環境問題」をテーマに、なんて筆者の度量を超えたものであり、大風呂敷を広げ過ぎな感がありまくりなことであるが、そこは我らが高萩先生(城里町の高萩さん)のお言葉を借りて、威風堂々論じ上げたい所存でございまする。

時は令和3年。
5月の晴れやかでちょっと暑い一日の出来事である。

2ヶ月ぶりに、城里町の高萩和彦さんに会ってきた。
今日の作業はネギの植え付け。
去年の今頃にも行った作業である。
城里町の高萩さん 取材記 12
農家は農作業中に何を考えているのか? 城里町の高萩和彦さんの場合(取材日:2020/5/24)

一年前と同様に、「ネギロケット」で等間隔に穴をあけ、そこへネギの苗を移植する。
久しぶりの農作業で、なおかつ当時と職場環境が変わって運動不足に陥り3ヶ月で8キロ太った私には、なかなか難儀な作業であった。
増量の原因は明らかで、運動不足+間食である。
しかし、ここ1週間で1キロの減量に成功していることを同時に述べておかねばなるまい!

そんな訳だから、ちょっとの作業でえらく疲れる。
高萩さん、私の体たらくぶりを見るに見かね、「ちょっとお茶しましょうか」と言ってくれた。
ありがたき、幸せなり。命拾いをした思いだ。
畑の端っこに陣取って、午後のティータイムである。

2か月ぶりに会ったから、話も積もっていて当然というもので、この間にあった出来事を各々話す。
次第に話題は、「環境問題」という壮大なテーマに突入したのである。

「現代の暮らしに必要なエネルギーは、地球のエネルギー生産量を上回ってしまっているんですよね。過去に蓄積したエネルギーの貯金を切り崩してるんです」

知識がない私には、へぇへぇ、と相槌を打つくらいしかできない。

「地表に出ているものが生成するエネルギーだけで生活するのが理想なんです。そのエネルギー源は太陽なんですけど。石油とか石炭とか、地下にあるものは限りがあるので、そこに頼ってしまうのはいけません」

俄然、勢いを増す高萩さんの環境論だが、話はここで一端終わる。
だって、野良仕事の途中だもの。
しかし、このあと作業終了を終えてから、話の続きは高萩家の縁側で日が沈むまで続いた。

★高萩さんちの縁側講座~高萩さんの環境論~

高萩さんの環境論Ⅰ 地球一個分の生活

高萩 和彦 さん (1980生まれ) 就農地 茨城県東茨城郡城里町 農作物 アスパラガス、蓮根、サツマイモ(干し芋)、マコモ、生姜など他多数。 大手鉄鋼メーカーを辞めた後、城里町で就農。古内茶庭先カフェの運営など、まちおこしに携わりながら有機農業で野菜を作り続ける。新規就農者ネットワーク副会長。

以下、高萩さんの環境論の続きである。

現代を生きている人は、結局みんなどこかしらで文明のお世話になっているから、いくらきれいごとを言っていても共犯者だと思うんですよ。
だから、良心の呵責くらいはあってもいいんじゃないですかと思うんです。
それくらいのスタンスがいいのかな。

今はこうして普通に暮らしているけど、何だかこのままじゃまずいみたいだから、ちょっと行動を変えていこうかな、というのは、みんなそれぞれに思い当たる部分があるんじゃないかな。

今年の夏は電力不足の心配をされていますが、そこは作るエネルギーを増やすのではなくて節電してみようとか。
日本は企業では節電していますけれど、家庭ではそうでもなかったりしますから。
極端な方法を取るのではなくて、みんなでこの夏はまずいから電気節約してみましょうという運動の方が健全。
実際に震災後は節電の意識が定着して、震災前よりも電力消費量は下がっているみたいですから。

太陽光発電をうちの畑の近くでも作っていますが、結局それを作るためにばっさりと木が切られてしまいました。工事の土砂が流れ出すなど、いろいろと問題がありました。
環境にいいことをしているはずなのに、環境を壊してしまっています。

これをやったらみんながハッピーということは多分ないんですよ。
何かしたらどんなマイナスがあるかというのは常についてまわるから。それを考えた上で何を選ぶか?が大事なんです。

コロナのワクチンもそうですけれど(副作用のこと)、物事には必ず負の側面が存在します。

世の中にはオールプラス・オールマイナスということはまずないんですよね。
ガソリンだって燃やすと熱に変わりますが、それが消えてなくなることはないんですよ。
何かに置き換わるだけなので。何に置き換わるのかを意識することが大事なんじゃないかと。

さっきも話していましたけれど、人間は地表に出ているものだけで生活するのが理想だと思うんです。
再生可能エネルギーはその理念に合致しているとは思いますが、さっきの森林をつぶして環境を破壊するとか、そういう方向になるのはちょっとよくないんじゃないかな。

結局、行きつくところは地産地消になってくるのかなと思うんです。太陽光もその周囲の電気を補うためだけに作るのとは、違うんですよね。県外に売ることになるんです。
それは果たしていいことなのかと。グローバルになればなるほど、エネルギーをいっぱい使うことになりますから。
だからみんな野菜にしろ何にしろ、なるべく地域で賄いましょうとなれば、それだけエネルギーも少なくて済むんです。
仕事に行くのにみんなで東京に行けば、それだけで膨大なエネルギーを消耗します。
移動ってけっこうエネルギー消費しますから。

そこをコロナの影響でみんな気付き始めていますよね。いい意味での内向きになっていますよ。
今までの行き過ぎたグローバル化を見直せっていうメッセージ。

最近、飛行機が飛ばなくなったから、この辺りも静かになりました。
私も新婚旅行で台湾に行っているので人のこと言えませんが。共犯者でしたね。

でも、これをきっかけにローカルを大事にしてみようかなと。
自宅の庭先に無人販売所を作りたいという思いもその流れで、役場で野菜を売るというのも一つのチャレンジです。
お客さんがどういう反応をするのか、すごい楽しみです。

「循環型社会の象徴としての有機農業」を突破口にしたいんですよ。
私もわからないことがいっぱいあるから、巷の人がどう考えているかを知りたい。
これからは、有機農業を「交流の手段」として考えていきたいなと。

城里町内にも有機農業に関心のある人がいますけれど、出会うきっかけがないんです。
出会った人に深く話をしてみれば、潜在的にそう思っている人がいっぱいいるかもしれなのに。

でも、城里町には有機野菜を買える場所があまりない。
だから、有機野菜を知る機会がない。
有機野菜を食べることが大事だ、という啓発も今までなかったから、意識することもないんだと思います。
だから、対話をしてみればいろいろわかってくるんじゃないかと思って。

SDGsが世に叫ばれていますが、私がシンプルに思うのは、「地球一個分の生活」ができるように経済構造を作り変えるコト、が一番大事なんじゃないかなと。
一年間で地球が生産できるエネルギーだけでみんな生活しましょう!という仕組みを強制的に作ってしまうことが大事。

人権とか平和とか環境とか。どれもとても大事だけれど、地球がなければ人類は原理的に生き残れないのですから。
私の考え方の基準は「地球一個分の生活」なので、SDGsも確かに一つひとつは大事なことですが、それらを実現してどういう社会が実現されるのかが明記されていないのが問題ですよね。

高萩さんの環境論Ⅱ 江戸時代はサステイナブルな社会

高萩和彦さんが遠く見据える先には、江戸時代のサステイナブルな社会があるのかも。

日本に限って言えば、江戸時代あたりがサステイナブルな社会の限界というか。
それ以降明治になったら石油とか使い始めて工業社会になり始めて。
日本が身の丈以上の成長をするようになったのがその時期なんですけど。

それまでの日本はクローズドな社会で自給自足で何とか社会がギリギリ成り立っているような状態。
もっと具体的にいえば、人口3,000~3,500万くらいが日本の領土で生み出せるエネルギーで養える限界なんです。
それが江戸時代です。

江戸時代が良いか悪いかは人によって評価分かれるところですが。
私の考えは江戸時代が日本の正当な限界。
資源を食いつくしてこれ以上成長できないよという状態になっちゃって、結果的に飢饉とか起きちゃってるのかな。要は人口がギリギリの状態だったから、何か起こるとヒトがバタバタと死ぬという状態になったのじゃないかと。

今の方が森が豊らしいですよ。
江戸時代の絵図を見るとどこもかしこも禿山だらけで。
なぜかというと、石油とかがないから暖を取ったりするのに木を切ってエネルギーとして消費してた。
伐採が規制されるくらいに。
だから、今が一番森が豊かな時代らしいんですよ、日本は。

文明としての江戸システム 日本の歴史19 (講談社学術文庫)

森林飽和 国土の変貌を考える (NHKブックス)

高萩さんの環境論Ⅲ ローカリズム

地主さんと高萩さん。地域の人々とのつながりも「有機的」なこと。

石炭とか石油とかのエネルギーによって木は守られているといえますよね。でもそれはどこかを犠牲にしてそうなっている。
エネルギーは原理的に元の2倍、3倍に増やすことはできないので、自然エネルギーの生産力以上のことはできないんですよ。
ということは、日本の適正人口は3,000万~3,500万くらいが身の丈に合った適正サイズ。
いくら技術が進歩しても、それは限りあるエネルギーを大量に消費しているだけ。

ある人が云うには、実は技術は全然進歩していないって。
エネルギーを消費しているだけの進歩だから、それは原理的に進歩とは言わない。

例えば、Kさんが車に乗ってここに来るじゃないですか。
歩くよりも早く来れる分、ガソリンを多く消費していることになります。
如何に石油(エネルギー)を大量に使えるかという、ただそれだけで。それは技術的に優れているわけじゃないと。
エネルギーの収支でいうと、そういうことになります。

歩きと車、どういう違いがあるのか、早く来れてよかった!の裏にどういうことが起きているのか。
そこまで想像できるのが、バランスのとれた思考というか。
何事も必ず正と負があるんです。

簿記でも複式簿記というのがあって。
面白いなと思うのが、一万円の肥料を買えば、一万円分のお金が減る訳ですけど、一万円分の肥料も資産として残るんですよ。当たり前のことと言えば、当たり前なんですが。
何も消えたわけではないんですよね。
陰と陽というか。
面白いですよね、それは物理の世界にも当てはまることだから。

コロナや震災をきっかけに、あるべき社会って何なんだろう?ってもう一度考えるべきだと思います。

ローカルを大事に考えていけば、最終的にはバランスが取れてくるんです。
農家もそうですけれど、大量に作れば地域内でさばききれなくなって、地域の外へ外へと販売をして、最終的に輸出して。
それが、相手国の産業をつぶすことになる、なんてことが起こっているかもしれない。
内に内にと考えていけば、地域に必要なもの、身の丈に合ったものを作るようになる。

本当は多品目で地域に応じたものを作っていくのが健全なのかもしれません。
儲かる農業なんて、大量エネルギー生産の象徴たるものですから。自然破壊ですよ。

有機で大量に作っているといっても、それは本当の意味での有機ではないと私は思います。
全然有機的じゃない。
地域とまったくつながっていないですから。
オーガニックって本来そういうことじゃないですか。

★3月~5月の高萩さん

・干し芋

天日干し中の干し芋。

干し芋は、3月いっぱいで販売終了しました。
冬の気温が安定していたので作りやすく、順調に仕上がりました。
でも、水戸の直売所では、売れ行きが鈍ってましたね。
コロナの影響で買い控えがあったのかもしれないです。

国民の所得が全体で落ちていたら、そりゃ節約志向になりますよね。
家庭の引きこもり需要というか、野菜がバーッと売れても、給料下がれば節約しようとなりますから。
結局まわりまわって農家にも影響が出ます。

干し芋って高級品じゃないですか。今後コロナのマイナス影響が出るんじゃないかと。
贈答用とかは真っ先に予算を削られるので。

・レンコン

「城里在来」と呼ばれる日を待ちわびて。

今年のレンコンはG.W.過ぎまで掘れました。
今シーズンは収量が上がりましたね。

買ってくれるお客さんも増えました。
ツチノコ、オーガニックの店、コトノハでも置いてもらえるようになりました。
販路が広がっているので、有望な作物ですね。

レンコンは、冬の間にずっと採れるのが一番の利点ですよね。(野菜の少ない時期)

今シーズンはカラ狩りしなかったので(渋抜きができていない)、見た目がくすんで見えてしまって。
プロのレンコン農家みたいに形が良くて白いレンコンはうちでは作れないので、そこをどうするかが課題ですね。

品質を落とさないで見た目をよくしたいです。
消費者のみなさんはレンコンって白いものだと思っているから、さび色が付いていると古いモノと勘違いされて敬遠されがちなので。
もうちょっと売上を伸ばすにはそこらへんの工夫は必要なのかなと。

・レンコンの品種について

2018年のレンコン

金澄(カナスミ34号)という品種です。
作った人が亡くなってしまったので、今は品種選抜が行われていないんです。
クローンで増やしているうちに劣化してしまうことがあるみたいなので、新しい品種を作っていかないといけないのですが。
種でつないでいるうちは遺伝子的には変わらないはずなんですが、やっぱり栽培環境で変わってしまうところがあるようで。
だから、いいレンコンを選抜して、品種改良をしていかないと茨城のレンコンは品質が落ちてしまう…という危惧を茨城県は抱いているみたいですよ。

うちのレンコンは、今のところただ種をつないでいるだけですけどね、
私が爺さんになっている頃には「城里在来」なんて呼ばれているかもしれません。

土浦からもらった種レンコンで作り始めましたが、5代以上つないでますから。
種自体を発芽はさせないですけれど、種バスで増殖しているから遺伝子的には土浦と変わらないんです。
でも、城里の環境で育って、それが親になって孫へとつないでますから、人間だったら移住して日系何世とかでその土地で市民権を得られる状態になってきてますよね。
2014年からスタートしているから、けっこう年数は経っていますし。

最初の数年は雑草に飲まれてしまったりして、いいレンコンができませんでしたが、今は収量も売上も上がってきているので、品質向上が課題ですね。

・アスパラガス

状態が悪いというアスパラガスだが、夏には復調できる見込み。

こんなに取れなかったは初めてじゃないかというくらい、悪い状態です。
原因は、去年から有機栽培に切り替えて、管理を甘くしているというのもあると思いますが。

アスパラの栽培管理はわかっていたつもりでも、まだわかっていない部分があって、そこが裏目に出たみたいですね。

エネルギー不足の状態で秋を迎えて、株が大きくならない状態で春を迎えてしまって、春になっても収量が全然上がらなくて。

私の自慢の手抜き農法の欠点が悪い方に出てしまったようですね(笑)。
夏にはある程度今まで通りに戻る予定です。

★自然災害

霜害の被害にあったソラマメ栽培地跡地。

遅霜で枝豆がやられてしまいました。
(この日植えた)ネギの苗もやられましたが、今はぴんぴんしています。

ヒョウはほとんど被害ゼロで済みました。
逆にビニールハウスに生えていたコケがヒョウによって落とされてキレイになった気がします。

・高萩さんのプライベート

子どもは順調に成長しています♪
この間ハーフバースデーを迎えて家族みんなでお食事をしてきました。

★古内茶

クーチェで作った古内茶アンパン

庭先カフェを6/6に予定していたんですけど、コロナの影響で今年も中止に決まってしまいました。
今度の庭先カフェは11月を予定していますが、コロナの状況を見て開催を検討することになっています。
目先の問題として、お茶の生産者たちの人手不足の深刻化が進んでいるので、まずはそこを城里町内の若い人たちでカバーしています。
後継者不足は、その先の問題でしょうか……。

若い人が加わることでアイデアが出てくるはず。
関係人口・交流人口を増やしていく中で解決策を見出していこうとしています。

新茶がもう出始めています。
人手が足りなくてしんどい状態なので、一人でも二人でも男手があると助かりますね。

私はアスパラの状態もあるので、作業の手伝いには行けませんが、販売の面でお手伝いできればと。
今度、城里町役場で野菜を売れることになりそうなので、その時に古内茶の新茶を並べて協力するつもりです。

今年も初音茶の収穫はやったみたいです。私はいけませんでしたが。

2015年の高萩和彦さんインタビューはこちら

高萩さんの野菜が買えるお店

道の駅かつら

つちっこ河和田

有機農家が作ったオーガニックの店

生活クラブ

 

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……というわけで、今回はほぼほぼインタビューしてきた内容のテープお越しをしたママ掲載するという、チャレンジをしてみた。

断っておくが、これは手抜きではなく、チャレンジである。
農家の声をそのままに世に伝えるには、どうしたらいいかと考え抜いた揚句、「そのまま載せればいい」という結論に達したのだ。
そもそも、高萩さんの話が素晴らしすぎて、私などが手直ししたらそれこそ蛇足になってしまう。

大事なことなのでもう一度書くが、これは手抜きではなく、チャレンジなのだ!