【野良本】Vol.15 湘南の風に吹かれて豚を売る / 宮治勇輔

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「みやじ豚」「農家のこせがれネットワーク」の宮治勇輔さんによる、
農業ビジネス・サクセスストーリー

「湘南の風に吹かれて豚を売る」を読んで

梅雨が明けそうで明けない休日に、「何かブログで紹介できる本はなかろうか」と書棚を眺める。ああ、この本は読んでないな、この本も読んでない、これは3ページくらい読んだかな、これも……って、ほとんど読んでないやん!

そう、私は積読家である(自信満々)。

積読本に埋もれた中から、きれいな水色をした背表紙が目に入る。それがこの「湘南の風に吹かれて豚を売る」であった。ああ、この本は読んだ!と喜び勇んで書棚から本を抜き取った。

「湘南の風に吹かれて豚を売る」は2009年にかんき出版から発行された農業ビジネス本である。本を手に取り、初めてこの本を読んだ当時のことを思い出そうとしたが、明確には思い出せない。

奥付を見ると2009年11月16日に初版が発行されていることがわかる。2009年というと平成21年。当時は本屋に勤めていたが、果たしてそのころに読んだっけ?うすぼんやりとした記憶では、農業をしていた頃に読んだような。

パラパラっと本をめくり、記憶の糸を辿ってみた。

著者の宮治勇輔さんは、一流大学を卒業後、大手企業に入社。会社勤めをしながら「いつかは企業したい」と朝5時半に起きて勉強。本を買いあさり読み込んだという。

退職後は、「一次産業をかっこよくて、感動があって、稼げる3K産業にする!」という強い意思を持って、養豚を営む実家に戻り、スーツからツナギに着替えて仕事をする……。

大体のストーリーを再確認すると、読んだ当時のことを少しずつ思い出してきた。当時の私は、半農半ライターを志して農家のもとで働きながら、ライターの活動をしていたっけ。

宮治さんのような熱い想いを抱いて、会社員としてではなく、独立独歩を目指していた。そのように考えるようになったきっかけは、雑誌の編集の仕事に携わったからだった(といっても数か月)。

編集の仕事では、いろいろな人に会った。取材対象者はもちろん、外注のライター、カメラマン、デザイナーなど。彼ら(彼女ら)は、それこそ独立独歩して、自分たちの持つスキルで人生を切り拓き、歩んでいた。プロフェッショナルな生き方に、憧れを抱いたワケだ。

そんな時期の私の想いに拍車をかけたのがこの「湘南の風に吹かれて豚を売る」だった。この本を読んで、俄然やる気が出た。努力を積み重ね、諦めずに行動し、様々な人の助けを借りれば、きっと成功できる。そう思っていた。

しかし、「想い」だけでは仕事にならない、生きられない。フリーランスとして仕事をしていくには、それ以前の努力や人脈といったものが必要になってくる。日進月歩の努力で培ったものは、当然一朝一夕で成り立つものではない。この本の宮治さんとて、成功するまでには様々な努力と行動を起こしている。成功するにはワケがあるのだ……。

果たして、当時の私には、それがなかった。(いや、今もそう変りないか)

それでも、私は私なりに努力をした。農家を取材し、山を歩き、文章にした。でも、将来の明確なビジョンが見えない。

お小遣い程度しかもらえないライターの仕事に、お世辞にも良いとは言えない農家のお手伝いで得られる給料。これで、独立独歩なんてできるの?

そんな迷いを抱きながら、とある農家の会合に出席した時のこと。ある若手農家と話していて、このように言われた。

「Kちゃん(私のこと)は、農業者になりたいの? 話を聞いていると表現者になりたいようにしか思えないのだけれど」

私はそう言われて、中途半端な自分にハッとした。農家たちは、農業で生活を成り立たそうと必死に生きている。以前に会ったライターの人も、「書く」ことに必死だった。

けれど私は、どちらも中途半端であった。恐らくこの先も、中途半端以上に成りえない。一つの道を極めようとしている人から見れば、私はなんて失礼なことをしているのだろう。

そう思った私は、農業の仕事を辞めることにした。

それからの私は、依然として「中途半端」なままである。けれど、当時のような後ろめたさはない。むしろ、「中途半端を極めよう」と思うようになった。

農業の経験があり、広告会社や本屋に勤め、フリーライターとしての経験がある。デザインはほとんどできないが、少しくらい触ることができる。営業や販売をしていたから、少しはコミュニケーション能力がある。農業や山登りの経験は、私に少しの体力を与えてくれた。内田百閒の「阿呆列車」に憧れて、少しの旅をした時期もあった。文章は様々なカタチで、10数年は書き続けている……。

すべての経験とスキルは、どれも中途半端の域を出ない。でも、私と同じくらいに幅の広い知識と経験、人脈とスキルを持つ人は、そんなにいないのではないか?

というわけで、最近は中途半端であることを開き直っている。そんな人生もいいかな?と思えるようになった。

この「湘南の風に吹かれて豚を売る」を再び手に取って、そんなことが思い返された……。

という自分語りは置いといて。この本を久しぶりに目にして、真っ先に思い浮かんだのはレゲエ・グループの「湘南乃風」だった。

「睡蓮花」や「純恋歌」のメロディーが脳内を流れた。「曖歌」は友人Sがよくカラオケで歌っていた曲だった。その友人Sの歌がすばらしく、私も真似して歌うようになったっけ。Sは今何をしているんだろうな、しばらく連絡を取ってないな、連絡してみようかな。

そういえば、宮治さんは「お客さんは友だちです」とこの本で書いている。「農家のこせがれネットワーク」というコミュニティも設立している。

「人と人とのつながり」の重要性を思い出させてくれたという点では、この本の読み解き方として間違ってはいないだろう。

今回紹介した本

湘南の風に吹かれて豚を売る

  • 出版社 ‏ : ‎ かんき出版 
  • 著者   :  宮治勇輔 
  • 発売日 ‏ : ‎ 2009/11/16

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