旅の中の、「平らな部分」をつづった本
イギリス、ポルトガル、スペイン、スイス、ギリシャ、キプロス、ロシア。アラブ首長国連邦、インド、スリランカ、タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン、台湾。ニューカレドニア。カナダ、メキシコ、チリ。
ここに挙げた国名は、若菜晃子さんが旅した国々で、旅の夜、山や海、街、出会った人、買った土産物といった旅の「断片」を文章にまとめたのがこの「旅の断片」という本である。
こんなにたくさんの国々を、私は旅したことがないし、これから先の人生で旅できそうにもない。旅してみたい気持ちはあるが、金も時間もてんで足らない訳で、ならばせめてその旅したい気持ちを、旅した人が書いた本を読んで満たすしかない訳で。
若菜さんの旅した日々とはまったく逆の、日常的すぎる日常を過ごしている私の平日は、朝起きて、ごはんを食べて、ごみをまとめて、歯を磨いてシャワーを浴びて。子どもを送り出して、ごみを捨てて仕事に行く。午前中からあくせく働いて、昼休みも満足に取らずに働いて、日が沈んで皆が帰って職場の戸締りをして、また家に帰って、ごはんを食べて、風呂に入って、妻と今日の出来事を少しばかり話して、少しばかりの運動と少しばかりの読書をして、ベッドに横たわる。そしてまた、朝を迎える。
休日だって大差ない。たまに国内旅行は行くけれど、それは「旅行」という感じで「旅」という感じはしない。家族ができたからだろうか? 以前に一人や二人で旅した時のような旅情は得られない。日常のちょっとした延長みたいな感じである。
何とも抑揚のない(いや、仕事中は山あり谷あり、アップダウンが激しいのだけれど)日常を過ごしているのだが、この中での「少しばかりの読書」の時間に、この「旅の断片」を当て込むことで、日常からふっと外へ飛び出して、メキシコの砂漠やらマレーシアの海やらイギリスの庭園やら、ロシアの山やらをふらっと旅した気分になれた。
ここで大事なのは、あくまで「ふらっと」なことであり、アーサー・ランサムの物語のような大冒険(読んだことないけれど)なんかではまったくない。若菜晃子さんの文章は、飾りっけがない文章だから「ふらっと」感じるのだと思う部分もあるし、書いている内容も海外を旅している割には平ら(フラット)で、旅の中のちょっとしたこと……そもそも旅自体が非日常なことであるが、その中でも比較的日常的な部分を……まるで近所を散歩しているかのような気楽さと身近さで読めるからだとも思う。
平凡な日常にすぅっと入り込んでくる、旅先の空気。その温度と湿度は、非日常と日常が程よく混ざっていて心地よい。この本を読んでいた時、若菜さんが書き集めた「旅の断片」は、私の生活の一部になった。


若菜晃子さんの本
以前に当サイトでも紹介した本。様々な業界の様々な偉人達に若菜さんが「自然について」インタビューする。


・Spectator 26号 OUTSIDE JOURNAL 2012
私が一時期猛烈にハマり、買いまくっていたスペクテイターでも紹介されていた若菜さん。この号ではインタビューをする側でなく、される側。若菜さんの生い立ちなどがわかる一冊。
編集者として書き手として「街」の人々に「山」のことを伝える若菜さん。彼女の魅力がいっぱいに詰まった文章をどうぞ。


ブログ内でも触れた「徒歩旅行」。購入時はムックだったので、新品はもう出回っていないっぽい。とても素敵な旅本なので、ぜひ。
リトルプレス「murren」を読んでいると、若菜さんは世界各国に旅していることがわかる。メキシコ、イギリス、キプロス島、ロシア、スリランカなど、様々な国を巡った若菜さんの旅の記憶の断片が読める随筆集。


山のガイド本。東京から日帰りで行ける山をセレクト。登山初心者にオススメ。


東京にある甘味食堂を取り上げた本。まだ読めてないです、すみません。
・murren
若菜晃子さんが手がけるリトルプレス「murren(ミューレン)」。山のこと、旅のことなどが書かれている小冊子。サイズが小さくてかわいい。デザインもかわいい。文章もかわいい。特定の書店やカフェで販売されているほか、ネットで定期購読もできる。