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野良本 Vol.57 オブジェクタム/如何様 高山 羽根子

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ちょっと不思議な世界に、ハマる。

高山羽根子さんの小説は、クセになる。

初めて読んだのは芥川賞受賞作の「首里の馬」だった。沖縄旅行の帰りの那覇空港で「何か沖縄っぽい小説が読みたい」と思って買ったものだった。読み終えて、不思議な読後感に包まれた。読んでいて「?」なところがたくさんあったのに、読んだ後はとても清々しい気持ちになった。そして、確実に面白かった。オモロイ純文学だった(松永K三蔵さんのパクリ)。
もっとこの世界に浸りたい。そう思って、次の一冊を買った。

それが「オブジェクタム/如何様」だった。

オブジェクタム、太陽の側の島、L.H.O.O.Q、如何様、ラピード・レチェ、ホテル・マニラの熱と髪の6編が収録された短編集。短編をひとつ、またひとつと読み終えていくと、高山さんの独特な世界には、ある特徴があると気づいた。

高山さんの物語の始まりは、いつも唐突で、丁寧な説明などない。読み手が物語の世界に入りこむために、必要な情報をいちいち説明してくれない。そこがどこの国なのか、いつの時代なのか、主人公は男なのか、女なのか、わからないまま話は進んでいき、読んでいると「これって、あれのこと?」というヒントが出されるので、それらの「?」が「何か」わかってくるのだが、わからないまま終わる「?」もある。

その絶妙な距離感が、読んでいてたまらなく心地よい。わからないまま終わっても、もどかしさは感じないのが不思議だ。

高山さんはきっと、魔法使いに違いない。「オブジェクタム/如何様」を読み終えて、私は確信した。文章、構成、世界観、どれをとっても魔法がかかっているかのように、不思議で奇妙で、どこかでリアルで、郷愁的であったり探偵ものを読んでいるかのようであったり、それはもう絶妙すぎるバランスなのだ。

例えば、物語と物語のつながり。

「首里の馬」と「オブジェクタム」は「記録」という点でつながりがある。加えて、場面がぱっぱっと切り変わる展開も似ていて、それも「つながっている」といえる。

この「オブジェクタム/如何様」の中で言うならば、戦争、偽物と本物、偽札といったキーワードが、絶妙に話と話をつなげている。話と話は点でつながっているのだが、でも話自体はつながっていなくて。線ではなくて、点と点が自然といつの間にか気づいたらつながっている感じ。

例えば、物語の終わり方。

高山さんのお話は、すぅっと消えるように終わっていくことが多い。謎を残したままなのに、読み終えた後はとてもすっきりした気持ちになるのが不思議(やはり魔法としか思えない!)。

「オブジェクタム/如何様」の中では、ラピード・レチェのオチがちょっと他とは違っているが。珍しく話がちゃんと落ちていた。落語のような見事なオチだった。

例えば、物語の世界観。

不思議な話の数々は、不思議なんだけれどひょっとしたら不思議ではないかもしれない、現実に起こりうるかもしれない、そのギリギリの線を描くのがうまい。

カベ新聞を作るおじいさん、石塚にかかるたくさんの虹、腐らない死体、ひっくり返って飛ぶ飛行機、飼い犬の名前を忘れた飼い主、光る女性の体、入れ替わったかもしれない夫、追いつきそうで追いつけないマオイスト。

これら不思議な存在が、とても普通に描かれているから、それは実はちっとも不思議なものじゃないのかもしれない、という錯覚を起こさせる。

そして、題材。

首里の馬のwhat3words、宮古馬。オブジェクタムのホレリスコード。如何様の贋作、偽物と本物の境界の不確かさ。

高山さんの本を読まねば、知ることのなかったことばかり。

どうしようもなく阿呆な私を、ちょっと賢くさせたのだから、やはり、高山さんは魔法使いに違いない。

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