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野良本 Vol.60 花男 / 松本大洋

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父子のベースボール・ファンタジーにビリビリする

長嶋茂雄のサインボール

花男(はなおとこ) 著者:松本大洋 版元:小学館

長嶋茂雄に憧れ続け、30歳になってもプロ野球選手になることを夢見る男・花田花男。その息子・茂雄は長い間父と離れ、母と二人で暮らしていた。ある日、母から父と一緒に暮らすように命じられ……。子どものような父親・花男と、大人びた小学生・茂雄が織り成す、野球愛と親子愛に満ちたストーリーが、松本大洋のファンタジックな絵と、独特なテンポで描かれる。物語のラストには、誰もがビリビリすること間違いなし!

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父・シゲオ

私の父・シゲオは、1943年生まれ。花男と同じく巨人ファンだった。長嶋茂雄を花男ほどではないにしろ、愛していた。

花男の息子が茂雄という名前だから、この漫画を読むと父のことを思い出さずにいられない。

父・シゲオは豪快で陽気で酒飲みな人だった。私が幼い頃などは、職場の同僚を家に連れてきて、酒盛りを始めることがしばしばあった。父の酒癖は決して良いとは言えない方で、酒に酔って喧嘩をすることが度々あった。声が大きくてうるさくて、すぐにカッとなって、よく母のことを怒鳴っていた。それが夫婦喧嘩に発展することもしばしばだった。

怒鳴り合う両親を見たくないし、聞きたくもなかった私は、布団にすっぽりと頭までくるまって、事が終わるのを泣きながら待つしかなかった。そんな訳だから、酒に酔った時の父は嫌いだった。

反面、シラフの時の父は好きだった。父とはよくキャッチボールをした。私の幼い頃の夢は「プロ野球選手になること」だった。プロ野球観戦にも何度か連れて行ってもらった。もちろん、巨人戦だった。夕食時のテレビは巨人戦を見るのが当たり前だった。私が巨人ファンになるのも当然だった。

酒を飲んでいなければ、父・シゲオは花男が茂雄に愛情を注ぐように、息子の私をこよなく愛してくれたと思う。

そのように育てられた私は、中学で野球部に入ったものの、その後はあっさりと辞めた。野球を辞めた後の私の人生はそれはそれで面白くもあったが、あのまま野球を続けていれば、ひょっとしたら5万の大観衆に囲まれてバッターボックスに立っていたかもしれない、なんてことを思ってしまう夢見がちなオトナになってしまった。

2025年4月某日。父・シゲオが亡くなって10年になる。命日の9日ほど前の土曜日。茨城県のあちこちでは桜が満開に咲いた頃。何となく本棚にささった「花男」を手に取ったのは、何かの兆しか単なる偶然か。

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明くる日。私は地元の旧友たちと花見をした。久しぶりに酒を飲んだ。幼い頃に、父と一緒に花見に行ったのを思い出した。当然、花見の席で父は酒を飲み、歌い、大声で騒いでいた。

父のように豪快に酒を飲まない私は、ほどほどに酒を飲み、ほどほどに酔っぱらった。旧友たちと昔話に花を咲かせた後、妻に迎えに来てもらい、花見の場を後にした。

「酒臭い、酒臭い!」

桜の花が舞い落ちる春の夕暮れ。酒に飲まれた私は、妻に罵られながら家路を辿る。その姿に、父・シゲオの面影は……あるような、ないような。

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