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野良本 Vol.63 パンダ・パシフィカ / 高山羽根子

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パンダについて、ちょっと詳しくなれる本

この本を読んでいる時、「日本にパンダがいなくなる!」というニュースが流れた。2025年6月、日本には6頭のパンダがいて、うち和歌山県のアドベンチャーワールドで飼われている4頭が6月28日に中国に返還、翌年2月には上野動物園にいる残り2頭が返還されるという。

日本にパンダがいなくなる、ということは、日本に住んでいては実物のパンダを見ることができない、ということである。これは由々しきことだ。白と黒のもさもさした、愛くるしいパンダ。よつばちゃん(よつばと!)が愛したパンダ。宮崎駿も作品にしたパンダ(パンダコパンダ)。それが、日本にいなくなってしまうなんて!

事の重大さに気づいたはいいが、はて、私はそれほどパンダが好きだったのだろうか、パンダが見たいのだろうか。

まぁ、好きな部類ではあるのだろうが、外国にまで行って見たいとは思わないし、そもそもかれこれ数十年の間、パンダをこの目で見たという記憶がない。ならば、パンダが日本にいなくなってしまってもいいのかというと、嫌である。

日本にパンダがいてほしい、とは思う。何とも身勝手極まりない。これは、積読本に似ている気がした。

本屋に行くと(これは買わねば、今買わねば!)という本との出会いが度々ある、というか、本屋に行く度にある。その欲求に勝つこともあれば負けることも多々あり、負けた時は本を購入する訳で、私は本を読むのが遅い人だし、難しい本はちょろっと読んで終わってしまうこともある人だから、家には読んでいない本が山ほどある。

嫁には「本を買ってもいいが、一冊買ったら一冊売りなさい」と言われているのだが、それがとても困る。買った一冊は当然売る対象にはならないし、前に読んだ本がとても面白かった、これは絶対に売れない、これはまだ読んでいないし読んだら絶対面白いだろうから売れない、これは本棚にあるだけで知的に見えるから売れない……などと選定していると、売る本が見つからない。つまり、読みもしないのに、売ることはできない。

パンダも同じだ(ちょっと違うか?)。パンダが日本にいてもわざわざ見に行くことはないが、パンダが日本にいなくなるのは何となく嫌だからいてほしい。

さて、昨今ハマっている高山羽根子さんの新しい本「パンダ・パシフィカ」を購入して読んだ。

ネタバレになってしまうが、この物語の世界の「現実」にパンダは登場しない。匂わせはあるが、それがはっきりとパンダとは書かれていない。出てくるのは剥製のパンダと、パンダの歴史だけなのだが、このパンダの歴史が重厚に書かれている。この本、ノンフィクションだっけ?と思うくらいに、世のパンダ事情について詳しく書かれている。

物語は、高山さんの淡々とした文章で、静かに始まりゆっくりと進むが、バイト先の村崎さんが海外に飛び立ってから展開が変わる。主人公のモトコは、突然ある使命を背負うことになる。それは、村崎さんが留守の間、飼っている生き物の面倒を見ること。マンション一室いっぱい飼われた、姿を見せぬ生き物たちの世話をしつつ、村崎さんとのメールのやり取りとともに物語は少しずつ進んでいく。

毒物混入事件、パンダ外交の歴史などの事実が物語上に散りばめられ、その先に現実のことのようで、現実ではないことのような展開が待っている。

高山さんならではの少し不思議な(SF)世界観は、白黒はっきりつけられなくてパンダらしくないのだけれども、それがまた、いいんだよなぁ。

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