6月の終わりに、田植え(2025/6/28)
真夏のような暑さを連日記録した、2025年6月。その終わり頃に、城里町の高萩さんからLINEが届いた。
「明日は田植えを予定しています」
た、田植え? もうすぐ7月ですけれど?
田植えといえば、茨城県では5月上旬のゴールデンウィークあたりに行うのが相場、とばかり思っていたが、そうでもないらしい。
「ゴールデンウィークに一斉に田植えをするのは、会社勤めの人が多くなったから。農村から子どもたちが町へ出て行っても田んぼは手伝ってもらいたい。会社勤めの人たちがまとめて休みを取れるのが、ゴールデンウィークだからです。そこに農作業(田植え)を集中するようになったようですね。サラリーマンのスケジュールの中に田植えが組み込まれた訳ですね。城里町の古内地区の田植え時期は、お茶の作業があるから4月あたりに田植えをしているようですね」
と高萩さん。
5月に田植えをしなくても、米の収穫には問題なく間に合うという。初夏に田植えなんて、面白そうではないか。でも、暑そうだな、なんて思いながら、城里町に車を走らせた。
以前から「米を作りたい。自給自足の生活に近づくためには、米を作らねば」と言っていた高萩さん。念願の米作りがスタートしたわけで、その最初の年の田植えに参加させていただけるなんて、光栄極まりない。
さて、その記念すべき田んぼというのは、マコモが植えられた田んぼのすぐ隣にあった。
高萩さんは、グラウンド整備に使う「トンボ」のような自作の道具でもって、田んぼの上に線を引く。縦に引き、横にも引き、碁盤の目のようになる。その線と線の交差したところに、苗を植えるのだが。
苗の大きさを見て驚いた。
なんというか、ずいぶんと、大きいですね。
「苗を大きく育ててから植える農法で、大苗定植と呼ばれています。うちの場合は苗が大きく育ち過ぎているので田植え機で植えられないんですよね。完全に手作業です」
田んぼの大きさは2.5a程度だから、まぁ手植えでも何とかなりますか。
「小さい農業だからできるやり方ですよね。有機農家でもある程度の面積をやっている人は田植え機で植えちゃっているようです」
大きな苗を、レンコンを運ぶ赤いボートに乗せて、田植えする地点まで運び、田植えを始めた。
年に一度、職場で田植えイベントがあって、それに参加しているので手植えはそれなりに経験しているが、それでもやっぱり、キツイ。その日は運よく曇り空で気温もそれほど高くなかったのが幸いしたが、それでもやっぱり、キツイ。
そんな私の横を、高萩さんはすいすいと苗を植えながら進んでいく。やはり農家だ、農作業に必要な筋肉が発達しているのだろう。私も農作業に従事していたことがあるが、それもかれこれ10年以上前のこと。10年の間に私の農作業筋は、すっかり衰えてしまい、今はパソコンのキーボードを打つ指の筋力ばかりが発達してしまった。
ひいひい言いながら苗を植え、高萩先生の講義を拝聴する。
「大苗定植をするメリットは、苗を大きくして遅植えすることで雑草に負けないように育てられることです。早く植えると雑草も一緒に育ってしまい、除草の作業が増えてしまいます。雑草作業の回数を減らすことができるんですね。有機農法の一番のネックは草取りなので。そこを克服する農法と言えますね」
なるほど。では、大苗定植のデメリットはありますか?
「今は昔よりもだいぶ早い時期に高温になるので、苗が活着する前に高温のストレスにさらされて育ちが悪くなる可能性がありますね。植えた時が猛暑に当たってしまったり水不足になったりすると、結局は収穫ができないなんてことも。植えたばかりの植物は不安定ですから」
収穫時期はどれくらいの予定ですか?
「まだはっきりとは考えていませんが。9月の下旬から10月上旬くらいではないでしょうか」
5月に植える場合と、それほど変わりないですね。
「短期決戦になるので、環境変化の影響を受けやすくなってしまうんですよね」
農産物を栽培する上で「積算温度」という指標がある。これは栽培期間中の温度の平均を合算したもの。これがある温度に達すると、収穫時期になる。「短期決戦」というのは、暑い時期に植えればそれだけ高い気温が積算されるので、その分栽培期間は減る、ということらしい。
ちなみにこれは、なんという品種なんでしょうか?
「『イセヒカリ』という品種です。自然農法をしている人たちの中では、メジャーな品種のようですね」
……などと、田植えをしながら、お米の話を聞いた。
座学と実技を併せて実施したことで、さぞかしお米についての知識が身に付いただろうと思いきや。実技をこなすので精一杯だった私は、聞いた話をほとんど覚えておらず、話の輪郭くらいしか記憶に残っていない始末で。田植え後にお茶をしながら、同じ話を聞き直したのであった。
さて、初めての米作りですが、前々から米を作りたいとは話していましたよね。
「そうですね。子どもが生まれて忙しくなったのもあって、延期延期しているうちにお米の値段が上がってきたので有機米も他の農家から買えなくなってきた。そういう背景もあって、我が家で米を作らないとまずいなと。子どもたちがお米を食べる量も増えてきて、採算度外視してでも食糧確保が大事だということで、米作りを始めたわけですね」
やはり、令和の米騒動の影響はあったのですね。
「そういう世の中の流れに人生が左右されないためにも、自給力を高めるということで、今年米を作り始めました。もともと米と鶏はやりたいと思っていたんですよ。鶏は今の環境だと難しいなと思ったので、まずは米を。米と卵があれば食糧には困らない。野菜は既に作っているので」
確かに。食べ物の大切さ、農家の偉大さを知った出来事でした。
「食糧自給の観点でいうと、最近ではじゃがいももいいなと思っていて。他にも、今朝、陸稲を別の畑で植えてきたんです。陸稲は昔からありましたが、新しい時代の食糧自給としての意味で見直されてもいい。育てやすいので」
お米の話から、高萩さんの近況に。
公式LINEは最近どうですか?
「現在お休み中です。売る野菜が少なくなってしまって。今年はどうしようかなと。子どもが全員保育園に入って送迎が忙しくなってしまったのもあります」
ぴーすふるファーマーズの活動はいかがでしょうか?
「水戸市大町の某スーパーの売場を2倍の広さにしてもらえて、野菜もたくさん置けるようになりました。お客さんからも選択肢が増えたと評判が良いですね。メンバーが5人いるので、いろんな品目を買うことができますから、そこは強みですね」
順調のようですね、何よりです!
「『めぐみと野菜』というJA水戸の有機野菜の独自ブランドもできましたので、それを今度は水戸市内外にPRしていく予定です」
また新たな展開ですね!……では、そろそろ帰らないと。
「あっ、実はですね、ちょっとした報告がありまして」
え? なんでしょう?
「これはオフレコなんですが、実は今度……◎△$♪×¥●&%#?!」
この時聞いた高萩さんからの報告は、ちょっと壮大過ぎてこのブログにも書き残せないほどのものだった。
はてさて、高萩さんが表明した決意とは如何に。次号、衝撃の展開が待っている?!
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