野良本 Vol.29 ファミリーレストラン/雁須磨子(太田出版)

「ファミレスおちつくしね」

「ファミレス」っていうのは、チープで味気なくて、雑多で洒落てもなくて、画一的でどこで何を食べても同じようなもので。でも、なんかこう、落ち着く。キライじゃない。かといって、好きでもない。

特別な日にファミレスで食事は味気ない。旅先でファミレスに行くのもつまらない。でも、ちょっとした集まりに使うのにはちょうどよかったりする。

モバイル機器をテーブルに置いて、ファミレスで仕事しちゃう、なんてのはカッコイイ。昔憧れてノートPC片手に仕事したことがある。打ち合わせをファミレスで、なんてのは実際によくやった。

デートでファミレスを使うには、ちょっと勇気がいる。(簡単に済ませたな、こいつ)なんて思われてしまいそうで、怖い。私の器量が試されると同時に、相手の度量を試す機会にもなる(許してくれるかどうか)。

オシャレなカフェでなくて、格式高いレストランでもなくて。おいしいご飯が出る訳でも、名物女将がいる訳でもない。

店に入れば「いらっしゃいませ!」杓子定規に言われ、席に着いてメニューを眺め、呼び出しボタンで店員を呼んで注文し、早くもなく遅くもないタイミングで料理が出され、うまくもなければ不味くもない料理を食べたら、安くもなく高くもない銭を払って店を出る。時折割引券なんて渡されたりしちゃって、でも頻繁にファミレスに行くわけではないから、家に帰ったらゴミ箱へポイして。

いたって、普通。すべてが普通。何の取り柄もないのだが、何の取り柄もないところが取り柄で。

ファミレスは、そのチープさや味気無さ、雑多で洒落ていなくて、画一的で何を食べても同じような味がするところが、悪いところであり良いところでもある。要は、ファミレスを使う時と場合による。ファミレスが最適に感じることすらある。

一人ファミレスの座席に座り、ホテルの部屋に入った時のような安堵感を得ることがある。家族でファミレスに行っても、比較的いろんな種類のメニューがあるから、子どもの好き嫌いに対応できる包容力もある。

夜遅くまで酒を飲んだ後、他に行くところがなくてファミレスに避難(お酒も置いてるしね)、なんて若い頃にはよくやった。友人と何となくファミレスに行って、ドリンクバーとフライドポテトで数時間粘る、なんてのもやったな。

なくてもいいけど、あると便利。かといって、日常で重宝する訳でもなくて、近所や職場の近くにあるからといって頻繁に通うことなんてない。

ファミレスでなくてはならないなんて時はまずなくて、でも、ファミレスがちょうどいいと感じる時はままあって。

そんなファミレスを描いた漫画が「ファミリーレストラン(雁須磨子)」である。

ファミレス内の職場事情や仕事事情を、さりげなくコミカルに描いた作品で、2005年初出。
2005年といえば今から16年前で、その頃私は20代で。持っていた漫画は初版だったから、おそらくその頃に買ったのだろう。

特に劇的なストーリー展開がある訳でなく、ファミレスの裏事情を事細かく描いているわけでもなく、これを読んで何かが得られるという訳でもない。でも、読んだ後に安心感が得られて、どことなく落ち着く。

あれ? この感覚はどこかで味わったような……。

 

ファミリーレストラン

書名:ファミリーレストラン
著者:雁須磨子
版元:太田出版
発行日:2005年7月1日 第一判第一刷発行