野良本 ⑨ リトル・フォレスト / 五十嵐大介

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五十嵐大介さんの実体験をもとに描いた、
リアルな田舎暮らし漫画

 

舞台は小森(リトル・フォレスト)

リトル・フォレストは、東北の架空の農村「小森」での暮らしぶりを描いた漫画である。

主人公は、若い女性・いち子。
幼いころは、この小森で母と二人暮らしをしていたのだが、突然母が失踪してしまい、一人で小森で暮らすことに。
その後、小森を出て都会で働き出したのだが、いろいろあってまた小森に戻ってきて。

この「小森」でのいち子の暮らしぶりが物語のメインであり、いち子の人としての成長も同時に描かれている。

小森でのいち子の生活は、まさにひとり農家。
畑を耕し、野菜を育てて収穫して、自分で調理し、食べる。

その暮らしぶりが、丁寧に描かれている。
この漫画は、著者の五十嵐大介さんが岩手県の衣川村(現・奥州市)で生活した体験を基にしているとのことで、
自然とともに暮らすことの厳しさと豊かさを、見事に描き切っている。

食べるものは畑から採ってきたものだけではなく、山にワラビやアケビなどの山菜を採りに行き、それらも食べる。
冬には雪が積もってしまい、畑仕事はできないから、冬が来る前に保存食を作っておく。
凍み豆腐や干し豆腐、干し柿などなど。
白菜、ネギ、ホウレン草などの野菜は、雪の下の土の中に入れて、保存する。
納豆なんて、雪の中で発酵させて作ってしまう。

生きるために、食べる。
そして、食べるために、働く。

何ともシンプルな暮らしであるが、シンプルだからって楽なわけではなく、自然を相手にするのだからそれはそれで大変そうである。
それに加えて、田舎特有の人間関係だってある。

この本を読んでいて、神澤さんのはなしを思い出す。
東京で生まれて東京で育ち、東京で働いていた神澤さんは田舎暮らしに憧れて茨城にやって農家を始めた。
田舎には田舎の社会があって、住み始めたころはその文化に馴染めず偉く苦労したそうな。

それでも、田舎の社会…人間関係は、面倒なだけではなく案外合理的な部分もあって、助け合って生活が成り立つようになっている。
このリトル・フォレストにも、そのへんのことが描かれていて、一時期流行ったスローライフなんてのは都会人が生み出したマーケティングの一つでしかない、なんて思ってしまう。

何にせよ、読んでいて気持ちがいい漫画である。
自然の豊かさが紙面に溢れ出ていて、それをとつとつとした文章が語っている。
小さな舞台(小森=小さな森=リトル・フォレスト)を軸に描かれた、小さな物語ではあるが、読んだ人の心には大きな感動を与えるに違いない。

※リンクはKindle版です。

リトル・フォレストとの出会い

さて、本著を描いた五十嵐大介さんとの出会いは、私が東京暮らしをしていたころであった。

当時、いわゆるフリーターというやつで生計を立てていた私は、昼は本屋で働き、夜は居酒屋で働き、そして合間に勉強をする(就職するのに資格を取ろうとしていた)、という生活をしていた。
その昼の本屋のバイト先で、高学歴な一つ年上の滋賀出身の男の人がいて、その人の家に遊びに行った時に五十嵐大介の「はなしっぱなし」という漫画をもらった。
リトル・フォレストとは少々趣が違って、「はなしっぱなし」は妖怪変化のおはなしであった。
私は東京で「漫画」というサブカルチャーに触れて、バイト先が本屋だったのもあって、先輩方からいろいろな漫画を勧められては読んでいたのだが、
この「はなしっぱなし」は今まで読んだことのないような作風で、当時大変不思議な印象を抱いたのを覚えている。

そして、夢破れて茨城に戻った私は、本屋でリトル・フォレストを見つけ、作者のところに「五十嵐大介」とあるのに気付いた。
ああ、あの不思議な漫画を描く人か、どれどれ読んでみようかと思い手に取ったのが、リトル・フォレストとの出会いであった。

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五十嵐大介さんは、他にも「魔女」「海獣の子供」など独特な世界観を持つ漫画を描いており、漫画の賞も受賞している。「海獣の子供」はアニメ映画化され、「リトル・フォレスト」は実写映画化もされている。

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野良本
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