【野良本】Vol.16 Heaven? / 佐々木倫子

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墓参とファシルと……Heaven?

お墓参りのあとに

その昔、私は墓参りなどほとんど行かぬ人であった。
それが、歳を重ねるに従い徐々に行くようになる。
お盆や彼岸の時期になると、父と母を車に乗せ、茨城県内のどこそこに散らばる親族の墓を参ったものだ。
それでも、毎度毎度墓参りに行くということはなかった。

墓参りを毎度欠かさず行くようになったのは、数年前に父が亡くなってからだ。
それからというものの、彼岸やお盆が来る度に母を連れて墓を参った。
水戸・友部・土浦、そして時には牛久まで。
これらの場所に、父を含めた親族の墓があるのだが、一日ですべて周るとけっこうな道のりである。

その道中、母は決まって生前の父のことを話す。
大抵、「いいお父さんだった」系の父を褒める内容である。
実際のところ、父の生前にはお互いがお互いを貶すようなことも多々あったと思うのだが。
やはり想い出は美化されるものなのか。
いや、この場合は美化されていいのかもしれない。
亡くなった父も、悪い話よりも良い話で語ってもらう方があの世で気分が良かろう。

墓参が終わると、どこかの店に寄り、昼飯を母と一緒に食べるのが常であった。
ここ最近は、土浦の墓を参ったあとに、ある店に寄ることが多くなった。
母いわく「安くて量もちょうどよく、雰囲気も落ち着いていて美味しい」というその店は、食・酒ファシルという名前の小さなお店で、場所は土浦の墓のすぐ近くにある。
ダイニング・バーのスタイルで、ランチタイムにはパスタや肉・魚料理のランチセットが1,000円程度から食べられて、夜にはお酒も楽しめるというお店だ。

私も私で、そのファシルというお店が気に入っていた。
何よりも、墓地のすぐそばという場所がいい。
墓を参りファシルに行く度に、佐々木倫子さんの漫画「Heaven?」を思い出す。

Heaven?〔新装版〕(1) (ビッグコミックス)

Heaven?」は、墓地の中のレストラン(料理はフレンチ、しかし、内外装は中華店の装いが残るお店)で個性の強いオーナーとスタッフがドタバタ劇を繰り広げるという、いかにも佐々木倫子さんらしい作品で、私の大好きな漫画である。

「このお店は場所がいいよね。Heaven?みたいで(母はHeaven?のテレビドラマを鑑賞していたので通じるはず)」
と母に言うのだが、母は「そうね」と言うものの、それ以上は私の言葉にまったく興味を示さない。

まあ、それはそれで良いとして。
母は母の、私は私のお気に入りのポイントがあって、双方のポイントがこのファシルには当てはまっていて、双方のお気に入りのお店になっているのだから。

そんな訳だから、今年のお盆も母と二人でファシルに行った。
密にならぬよう客席を空けて座らせるなど(元々小さなお店だからそんなことしたら客数減っちゃう……とか言ってられないのか。大変そう)、新型コロナウイルスへの気配りをしっかりとしていた。

店内はこざっぱりとした内装で、BGMもおとなしい音で流れている程度。
華美ではないシンプルなもてなしは、気兼ねなく来店できる雰囲気を醸し出している。

料理の方もシンプルで、各種パスタと肉料理、魚料理のみ。
それらにベビーリーフのサラダとスープとドリンク、それにパンかライスのいずれかが付く。

前菜のベビーリーフのサラダ、パプリカの冷製スープ

本日のスープはパプリカの冷製スープ。
こちら、パプリカの味がしっかりとしている。
あまりパプリカが好きではない私でも、おいしくいただけた。

パンのおかわりは+100円

そして、パン。
ちょっと固めのパンにオリーブオイルにつけていただく。
このパン、おいしい、と毎度思う。

小エビとモッツアレラのカチョエペペ

パスタは小エビとモッツアレラのカチョエペペを頼む。
母「いい固さだよね。これくらいで茹でればおいしいのか」
母の言うように、歯ごたえがちょうどよく、味付けもいい具合。
カチョエペペを頼んだ理由は「今まで食べたことがなかったから」。
私はいつも、食べたことのあるものばかり頼んでしまうから、たまには冒険がしたくなる。

そうして、いつものように墓を参り、いつものようにファシルでごはんを食べ、いつものように帰路につく。

帰路では、またいつものように、母が父の生前の話や親族の話をし、私はそれを聞く。
いつも同じコースを辿り、いつも同じような話を聞く。
けれど、それを無駄だと感じることはなく、むしろ母と過ごす貴重な時間だと思っている。
来年もまた、いつものように墓参りができるとは限らないのだから。

そう考えると、以前は嫌いだった墓参が、とても楽しく、また儚い時間のように思え、我が家の欠かすことのできないイベントになった。

大切なものの存在は、大概失ってからその大切さに気付く。
墓を参る度に、その後悔の念が少しずつ浄化され、また、他の大切なものに対し同じ過ちを繰り返さないよう、戒めている。

3月の彼岸も、いつものように墓参りをして、いつものようにファシルでごはんが食べられますように。

そして、天国にいるであろう(Heaven?)父が、達者で暮らしていますように。

Heaven?〔新装版〕(1) (ビッグコミックス)

 

食・酒ファシル概要

食・酒ファシルの外観

住所:茨城県土浦市国分町4-2-3
営業時間:11:30〜14:00(LO14:00) 18:00〜21:00(LO21:00)
定休日:毎週月曜日
予約・お問合せ:029-879-8648