野良本Vol.38 どこかでだれかも食べている / オノ・ナツメ

「食べる」がテーマの心温まるショート・ショート集

この漫画に描かれているコトは、食べ物に関するほんの些細な出来事ばかりである。

3個入りのヨーグルトとプリンを二人でどう分けるかとか、いつもお弁当を買いに来ていたキレイな女性が来なくなったと思ったら旦那子どもを連れてやってきたとか。「残業する人が食べるためのパン」をみんなの分買ってきたが、自分のお気に入りのパンは誰にも取られずに残ってるかドキドキしてしまうとか。留守番の時に決まって食べるうどんの話とか。

些細だけれども、読んだ後にじんわりと心が温まる。あるいは、ほろりと泣けてしまう(これは私が歳をとったから)。

これはオノ・ナツメさんだからこそ成せる業だろう。さり気ない素材を、洒落た台詞と可愛らしい絵柄、映画のような間(ま)を使い、上手に料理された一冊だ。

この本を読んで、「食べ物」には、もとい「食べる」という行為には、それぞれの特徴があるというのを改めてささやかに感じた。人それぞれ、家族それぞれ、地域それぞれに味つけが違い、食べ方が違う。

それこそ十人十色であるから、偶然にも食の好みが一致するような異性がいたら、ひそかに想いを馳せてしまうのは致し方ないことか(本編「お弁当屋」)。家族の味は母の味。大人になり母の立場になるとその偉大さが身に染みる、というのは「あるある」なことである(本編「つつむもの」)。地域の違いはおでんの具材に違いが出る。そういえば沖縄のおでんも一風変わっていたなぁ(本編「おでんのはんぺん」)。

違っていたり、似通っていたり、同じだったり。食べ物と人の組み合わせの数だけ、異なるストーリーがある。「食べる」というのはなんと幅広く、なんと奥ゆかしいことか。

ごはんを食べる時、「どこかで」「だれかも」今頃ごはんを食べているかも?なんて想像したら、食事の時間がちょっと面白くなるかもしれない。

 

タイトル:どこかでだれかも食べている
著者:オノ・ナツメ
版元:文藝春秋
初版:2018/11/15
価格:950円+税
ISBN:978-4-16-390938-7