公式LINEを使って新たな販路を作り出した高萩さん(取材日:2024/8/24)
茨城県東茨城郡城里町に住む農家の高萩和彦さんが、SNSの「LINE」を使って新しい野菜の販売方法を実践している。それはLINEの公式アカウントを活用したもので、週に一度、高萩さんはその週に販売可能な野菜の情報を発信する。登録者は高萩さんと「顔が見える関係」の人たち。息子さんと同じ幼稚園に通うお子さんの奥様方や、以前から野菜を購入している方といった高萩さんと面識のある人たちだ。配信内容は、例えばこんな感じで。
いつもたかはぎ有機農園をご利用いただきありがとうございます😊
昨日の台風はご無事でしたでしょうか。
農園の野菜たちは幸いにも被害はなく、久々の恵の雨になりました。さて、今回の納品可能な品目をお知らせいたします。
日曜日までにご返答いただけると助かります🙇♀️・キュウリ
・オクラ
・トマト(数量限定)
・白ナス(2本入り、数量限定)
・葉生姜
・🆕葉つき紫大根(大根小さめ)ご注文は500円くらいから、ご希望の品目、金額でご用意させていただきます。
品目お任せの場合、リストにないシークレット野菜が入る場合も😆✨
先着順にて受け付けますので、売り切れの際はご容赦ください🙇♀️
規格外品が入っても良いので量を増やして欲しい、というご要望もお受けします☺️
○○は入れてほしい、○○は入れないでほしいというお任せセットも可能です。【お受け渡し】
・〇〇(幼稚園名)関係者
曜日、場所については相談させてください。・その他の方
納品先の飲食店または直売所等。ご都合がつかない方はご相談ください。
どうぞよろしくお願いいたします☺️
この配信に対し、欲しい野菜や受け取りたい場所を返信すると、高萩さんの野菜が購入できる、というシステムだ。私もこの高萩さんのLINE公式アカウントに登録をして、取材日に野菜の受け取りができるように試してみた。
土曜日にお会いするときに野菜セット買います。1000円セットでお願いいたします❗トマトと白ナスがあればうれしいです。
こんな感じで。すると、取材日に1,000円分の野菜セットを渡された。野菜セットには、希望を出していた白ナス、トマトはもちろん、オクラ、しょうが、きゅうりが入っていた。
スポンサーリンク「これは面白いですね」
そう思ったので、そのまま高萩さんに伝えた。何が面白く感じたのだろう。LINE公式アカウントなどは、もはや新しくもないLINEのサービスだ。それが、毎週のように顔の知れた農家から配信がされて、それに返信すると野菜が購入できるという、ただそれだけのことなのに、とても面白く感じた。
このLINEの野菜販売システムでは、野菜の受け取り場所が限定されている。1つは、高萩さんのお子さんが通う幼稚園での受け渡し。高萩さんが、幼稚園に息子さんを迎えに行く際に一緒に野菜も販売している。幼稚園にお子さんを通わせる親御さんや幼稚園で働く人向けの受取場所だ。
もう一つは、高萩さんが野菜を出荷している「つちっこ河和田」という直売所。購買者は直売所の閉店時間までに取りに行けばいいので、時間的な余裕がある。また、特別なケースとして自宅への配送もやっているが、これは高萩さんの納品ルートから大きく逸れなければ、加えて、一人ではなく何人かまとめての購入、という条件付きだ。
メインの受け取り場所である幼稚園、直売所のいずれにしても、普段の高萩さんの仕事・生活圏内である。つまり、出荷に無理がない。前述したとおり、購買者は高萩さんの知人・友人・元々のお客さんであるから、こちらも別段無理をして開拓しているわけではない。LINEの公式アカウントサービスも一定の量までは無料だ。物流・販売先・コスト、そして時間。この4つの点で、今までの仕事リズムを崩さずに、新しい販売システムを構築できていることになる。
「もともとは息子が通っている幼稚園のお母さん方に対してのサービスで始めたんです。お母さん方から野菜を買いたいという話をちらほらと受けていたのですが、やり取りがその都度だと不便じゃないですか。いつ注文があるかわからないから、どういう野菜を用意すればよいか、っていうのに悩んでしまう。だったら最初から今週はこういう野菜を出せますよというリストを定期的に配信しちゃった方がいいのかなと思って、LINEの公式アカウントを作ろうと思ったんです。それをみなさんに話したら『ぜひやってほしい』と言われて始めました」
広範囲に販路を拡大できる可能性を秘めるSNSを活用しながらも、高萩さんの場合は商圏がとても限定的であるのも特徴だ。
「基本的に『顔の見える人』を対象にしていて、それも大きいと思うんです。お互いに信用で売買できるから。一般のお客さんと違って、融通が効く関係でもありますよね。顔の見える関係って大きいと思うんですよ」
このLINEを使った野菜販売は、テスト期間を経て2024年7月から本格的に稼働している。
その成果はというと。
「全体の売上の1割~2割くらいですね。数名のお客さんは必ず注文くれるので、いわゆる固定客もついてきて、一定の成果は現れています」
無理をしないで、目に見える形で売上が上昇しているとあらば、成果は上々といえるだろう。
「お客さんの反応もけっこう良いですね。普通、農家の野菜セットって何が送られてくるかわからないことが多いのですが、うちの野菜セットはちゃんとリストがあって、欲しいものだけセレクトできます。お任せしたいときはお任せできる。と選べるんですよ。いらない野菜がいきなりくるっていうのがなくて、そこがいいって言ってくれる人もいますね」
また、金額を指定した野菜セットもある。500円や1,000円、2,000円などの金額に応じて高萩さんが野菜セットを作ってくれる。私が注文したように、そのセットの中にトマトを入れてほしい、といったリクエストにも対応可能だ。他に、いわゆる「B品」だけを集めたセットもある。サイズが大きすぎたり小さすぎたり、見た目が悪いなどのワケあり野菜だが、A品よりもお得に購入することができる。当然、LINEが送られてきても注文したくなければ注文しなければいい。※購入する場合は最低500円以上という制限はある。
「いろいろと選べるんです。収入の安定性の面では農家にはメリットは少ないんですけど、やっぱり顧客との関係を持続するっていう意味では、いろいろと選べた方がお互いにストレスがないです。うちも野菜が少ないときは『品目が少ないです、ごめんなさい』と配信していて、それが通用する関係性ですからね」
野菜セットを独自で販売する農家は、ひと昔前から存在した。注文があったら無理をしてでも品目を揃えて、自分の苦手な作物も作らなければならないこともあるだろう。だが、このシステムならば得意な野菜だけを作って出すことだってできる。
「お客さんがいるから私も頑張って野菜を作らなければ!というモチベーションにもなっていますね」
農薬をできるだけ使わずに、有機的に野菜を作ることは、言わずもがな手間と時間がかかる。高萩家は現在、小さなお子さんを3人抱えており、子どもたちの世話や遊びをする時間だって欲しいところ。そうした現状において、これほど合理的な売上アップ方法はない。しかも、近隣地域の人たちに有機野菜を買ってもらうという、高萩さんが思い描いてきた地産地消の路線にも沿っている。SNSという現代的な手法で、野菜を通じたソーシャルな関係づくりが構築できている。
顔の知れた者同士が(Social)、家の近くで(Near)、野菜を売ったり買ったりできる(Sale(Shopping))。それは、小さな社会で(Small)、自然と(Natural)、笑顔になれる(Smile)関係だ。そして、特別で(Special)いまの私たちの暮らしに必要で(Necessary)皆に共有したくなる(Share)ものだった。
これぞ農家のSNS。経営に困った農家のSOSに応える策になるかもしれない。
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高萩さんちの圃場見学
今年も暑い夏になったが、高萩さんに言わせると「日差しは強くなかったのでまだよかった」らしい。異常気象が当たり前になった昨今の日本において、「食べ物を作る」という仕事はあらゆる面で苦難ばかり。作業をするのも暑くて苦労、作物を育てるのにも苦労、加えて社会情勢で肥料や資材を購入するのにも苦労。農業人にとって、本当に大変な時代になっている。そんな時代に農業をする高萩さんは、ちょっとした対抗策を施していた。
「その年の天気に合わせて作戦を立てることにしました。今の日本の気候は、今までの常識は通用しないので」
流れに逆らわず、時代に合わせる、環境に合わせる。柔軟に農業と接している高萩さんの畑を見てきた。
大豆畑
無肥料で栽培中。大豆は土壌に窒素を固定してくれる。大豆のあとに稲を植え、そのあとに作りたいものを植えると尚良い。
人参畑
透明マルチの下に米ぬかを入れることで、土がふかふかになる。使い終わったマルチは、通路の防草シート代わりに使用。人参は有機栽培がやりやすい品目だが、芽が出にくいのが難点。播種する時期を少しずらして、天気によるリスクを回避している。今年の高萩さんの場合は8月2,5,10日に播種している。今年はこの人参を作付けを増やし、水戸市の学校給食に出す予定(城里町の学校給食には既に出している)。
城里町の高萩さん おすすめの一冊
死は存在しない ― 最先端量子科学が示す新たな仮説 (光文社新書)
出版社 : 光文社
著者:田坂広志
発売日 : 2022/10/19
新書 : 360ページ
昨年、父が亡くなった時にたまたま出会った本です。お盆って死者とか死を意識しますよね。だから、ちょうどこの本がいいかなと思って紹介します(取材日はお盆過ぎの8月24日)。
最近、言の葉(笠間市のカフェ)で行われたレクチャーに参加して、その講師が言っていたのが「死ぬことを意識することで、生を見つめなおすことができる。そして、自分がどう生きるか腹が決まる。だから、死を意識することは大事」って言うんですね。
私も死んだらどうなるかって、そのあたりにあたりをつけていくことが人生にとって一番大事なことじゃないかって思いました。その他はもう枝葉の問題で、どう生きるかというのも枝葉の問題かなって。「死んだらどうなる」ことを徹底的に突き詰めることが一番大事じゃないかと。ここが決まれば、自分がどういう生き方をすべきかも決まる。それが決まれば安心できますよね。人生で何があっても自分はこういう死に方っていうか、こういう死生観を持っているってわかれば、ブレない。お盆って終戦記念日だったり、先祖の霊を迎えたりという時期なので、こういうテーマを意識するって大事なことかなと。
死んだらどうなるかって、本当にいろんな意見があって。この間聞いたレクチャーだと霊界というのは存在して人間とか動物とかランクがあって、ランクが上がるためにみんな生まれ変わっているという話でした。ですが、この本はもっとシンプルに「死ぬこと」を書いています。
宇宙意識というものが宇宙には存在して、宇宙自体が意識を持っていて、そこに人は死んだら帰っていく。宇宙意識の分身が人間。他の生物もそうですけれど。人間は実験として、宇宙意識が人間を通して何かいろんな使命とかを試させている。という考えなんですよ。別に変な宗教とか入っているわけじゃないんです。著者はバリバリ理系の人なんですけどね。
神とか仏とか、そういうものの正体は宇宙意識だといってるんです。確かに、どこの宗教でも言っていることは似通っているんですよね。阿弥陀仏にしても、阿弥陀仏を人間が唱えているのではなくて、阿弥陀仏が人間に唱えさせているんだっていう。浄土真宗かな、そういう教えがあるんですけど、仏教ってまわりくどい言い方しているな、本当かなって思うところがあるんですけど、宇宙意識がそうさせているんだって思えば、他力本願っていう意味がわかるんですよ。
神がそうしているとか天命とかありますよね。そういう意識を自分でキャッチして、自分がどう生きるべきかが定まれば、たぶん全部うまくいくというか、まぁうまくいかないことも含めて宇宙意識が自分を試しているんだという考えですね。
自分は何があってもこの道を進むんだって腹が決まれば、安心してその道を進めますよね。細かな修正はいくらでもあるかと思いますが、自分に降りてくる天命が何かっていうのが意識ができれば、ブレることはない。ブレてもいいのだけれど、戻ることもあるし、大きな自分の生き方の道しるべができますよね。それが大きいなと思いまして。
特に年を取れば取るほど、自分がやりたいことというよりは、自分が求められていることを意識した方がたぶんうまくいく。自分がやりたいことって意外とうまくいかなくて。ふとした機会に誰かから「これをやってほしい」と言われることに自分の生き方のヒントがあるっていうのを最近すごく感じています。結果的にそうなってきているんじゃないかと。
それが真理じゃないかと。思っています。私も何のために生きているのかっていう真理を知りたくて生きているんじゃないかなって。私は哲学するために生きているんじゃないかって思うんです。農家っていう、父親っていう立場・役割はありますが、私は考えるのが好きで、真理を追求するのが好きなんだとはっきりわかってきて。考えるのが好きな人間で。だから、これで食っていけたら最高ですね。なかなかそうはいかないけれど。でも、考えている時の自分、哲学している時の自分が一番「生きているなぁ」って気がします。
こういう考えに基づいて人に話すと、けっこう人に響くんですよ。
こういう考えでこうじゃないですかっていうと、みんなけっこう評価してくれるんです。なるほど、ちゃんと考えてるねって。さすがだ素晴らしいとかなぜか褒めてくれるんです。わかりやすくいうと、そもそも何のためにこれをやるのかって、そういうところから私はものごとを考えるんですが、そこを示すとみんな納得してくれるんです。そもそもの理由を考えるのが私は好きなんですよ。正解のない方が逆に喜んでしまうくらいの、変な人間なんですね(笑)。
死生観を定めるというのが人生の根本ではないかと。若いうちはさんざん自分の気持ちの赴くままにやったらいいと思いますが、私も44になって、人生の後半戦になるにつれてそういう人生の仕上げにかかってくる時期ですよね。もっと言っちゃうと今まで起こったことは全部親のせいにできたけれど、これから起こることは全部自分のせいだと思って生きるようにしています。だからこそ、真剣に生きなきゃいけない、ちゃんと考えて。そのためのこの本がひとつのヒントになってくれる本だと思ってますよ。父が死んだときにこの本がタイミングよく現れてくれて、最近になってその真意がわかってきた気がしますね。
死は存在しない ― 最先端量子科学が示す新たな仮説 (光文社新書)
出版社 : 光文社
著者:田坂広志
発売日 : 2022/10/19
新書 : 360ページ