草っぽ農園の草っぽ寺子屋・圃場見学に行ってきた!(取材日:2020/8/11)
草ってすごい!!!
さんさんと降り注ぐ太陽の日差しが、ぐんぐんと気温を押し上げる。
茨城県水戸市では、その日の時点で今夏最高の37.6℃を記録。
水戸は近隣の市町村や都県と比べて気温が低い方なのに、それでもこんなに暑くなるとは。
そんな熱中症まったなしの天気の中、私と城里町の高萩和彦さんは、草っぽ農園の圃場見学に行ってきた。
圃場見学だから、当然見学は外で行われたわけで。
汗をふきふき、水を飲み飲み、日傘をさしさし、自然農で野菜を作る畑を見ながら、片野一郎さんのありがたいお話を聞くことができた。
草っぽ農園は「自然農」なので、「不耕起・無農薬・無肥料・無除草」が基本。
だから、片野さんの畑を見るまでは、草が茫々と生い茂った姿を予想していた。
だが。
実際に草っぽ農園の畑を見てみると、あら! まあ!! きれいだこと!!!
草は生えているが、芝生のような草で背丈は短く刈り揃えられている。
それはまるで緑の絨毯のようで、そこに、きゅうりやらトマトやらナスやらズッキーニやらモロヘイヤやらが、これまたきれいに整頓されて植えられていた。
え、うそでしょ、これが自然農の畑?
抱いていた自然農の畑のイメージは、あっさりと崩壊した。
高萩さんの畑でも実験的に自然農を取り入れている部分があって、その姿はお世辞にも「きれいな畑」とは言えないものであった。
でも、この草っぽ農園の畑は、まるで慣行栽培の草一本生えていない畑の、土の部分が緑の草になっただけのような、そんな印象であった。
しかも、この圃場は小高い丘の斜面にあるから、見晴らしが抜群にいい。
緑に包まれた畑の美しさと、景観の良さが相まって、素晴らしいアート作品を眺めた時のように、気分が高揚した。
片野さん「この畑は5年くらいは堆肥をまいたのだけれど、その後は不耕起でほぼ無肥料。米ぬかを少しやることもありますが、それだけですね。不耕起にしてからは、年々雑草の出がおとなしくなりました。うまくいけば、ニンジンの草取りをまったくしない時もあります。草の管理は最低限。草が伸びてきたら刈って畑にそのままにしておいて、緑肥にしています。耕していた時よりも、草の管理は楽になりましたね」
慣行栽培の場合は、春から夏の時期に行われる「草取り」は重労働になる。
特に、真夏の暑い時期にやる草刈りなんて、ほんとに、もうやめて! といった感じである(経験者は語る……って、二年しか農業してないけれど)。
その夏の重労働を、思い切り削り取った上で、この畑のクオリティである。
おそるべし、自然農。
おそるべし、片野さん。
片野さん「耕さなければ耕さないほど、土はふかふかになっていくんです。不耕起栽培は始めは大変かもしれませんが、始めて2、3年も経てば種まき作業も楽にできるようになりますよ」
確かに、この畑の土は不耕起の割にふかふかしていた。
そこで、我らが高萩先生の実験が始まる。
高萩さん「ちょっと刺してみていいですか?」
と近くにあった支柱を手に取り、土に突き刺す。
するすると支柱は土の中に入っていき、その深さは60㎝ほどにもなった。
片野さんが言うには、場所によっては1mくらい刺さる場所もあるという。
耕していないのに、なぜ?
この理由はもう少しあとでわかることになる。
片野さん「農業は自然農に興味を持って始めたのだけれど、最初の6、7年はとりあえず耕して、肥料もやって育てていました。いわゆる慣行栽培で大きいものをたくさん採って、というやり方ですよね。でも、葉物は虫食いだらけでうまくいきませんでした」
片野さんいわく、肥料を撒くと、虫が出る。
虫が出て、周りに野菜しかなければその野菜を虫が食べる。
そうなると、野菜の味も落ちてしまう。
その違いは味だけではなく、畑に放置した野菜の末路にも表れるという。
肥料を与えた野菜は、腐る。
無肥料の野菜は、腐らず干からびる……らしい。
その点、自然農の場合は、虫がいても野菜の周りの草を食べる。
だから、野菜に被害は及ばない。
片野さん「結局、自然のままに栽培することが、一番バランスが取れているんですよね。野菜の力、植物の力に任せるのが一番いい」
片野さんが理想とするのは、「こぼれ種」農園だと言う。
こぼれ種とは、人間が種を撒くことなく、自然のままに零れ落ちた種のこと。
自然農法の提唱者・福岡正信さんの言葉に、こんな言葉がある。
「1年目は人が播き、2年目は鳥が撒き、3年目は神(自然)がまく」
実際に、大根や白菜などはこぼれ種の方が立派なものができたという。
片野さん「植物の生命力を感じて、楽しむ。これが自然農の醍醐味かと思います」
さてはて、ここまで話を聞いて、自然農たるものがどんなものか、無学な私でも少しばかりはわかった(ような気がする)。
まさに、いいとこ尽くしの「自然農」。
やってみたい気もするが、やはり始めは大変そうで。
片野さん「有機から不耕起に転換して、2~4年すれば土が柔らかくなって、種も撒きやすくなります。その頃には草の出方も落ち着いてきますよ。でも、やっぱり一年目はやりずらさはありましたね(笑)」
ああ、やっぱりそうですか。
片野さん「土を肥やすのは、草を生やすのがポイントなんです」
おっと、これまた今まで植え付けられた知識の逆説的なお話で。
片野さん「草の根が土を耕してるんですよ。それに、草の根と野菜の根が、お互いに必要な栄養を交換し合ってもいますから、野菜の生長の面でもいいんですよね。虫の死骸はそのまま肥料になりますし」
なんとなんと、驚くべき事実が。
そうなんです、不耕起栽培と聞いてまず一番に疑問に思うのがそこなんです。
耕せば耕すほど、土は柔らかくなって野菜が育ちやすくなる、と思っていた。
だがそれは、短期的な視野で見た場合のことで。
片野さんの言うように、耕した直後は土はフカフカになるが、草の根による効果がなくなるので、実は長期的に見ると土は次第に締まっていってしまう。
その他、土が乾燥しやすくなったり、有機物の消費が一時的に激しくなり、保水力の低下につながったり、それで土壌の栄養素が流れ出てしまったり……と、耕すことは意外にも土に負担をかけている。
自然の循環を、人間が耕起することで壊していたのだ。
「結局、自然のままに栽培することが、一番バランスが取れているんですよね。野菜の力、植物の力に任せるのが一番いい」
前述した片野さんの言葉が思い起こされる。
すごい、すごいぞ! 自然農!
片野さん「ちなみに、違う圃場で最近実験的に耕して栽培してみたんです。すると、やっぱり耕した方が草の勢いがある。それで、無肥料でやってみたんですけど、耕して無肥料だと野菜の出来が悪いんですよね」
高萩さん「そうなんですよね、中途半端が一番苦労しますよね。有機農法も楽ができなきゃ意味がないと思い始めたところでして。有機なら有機、慣行なら慣行、自然なら自然ときちんとセットでやらないとうまくいきませんよね」
片野さん「自然農の実践者・川口由一さんの著書に、こんな言葉がありまして。自然農は『鍬と鎌さえあれば誰でもできる。やればやるほど楽にできる』。やっぱり楽したいですものね」
おっと、ここで意外な言葉が。
農に携わる二人から出た「楽したい」という言葉。
実はこの言葉、片野さんが自然農を始めるに至った、キーワードだったりして。
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片野一郎さんと自然農の出会い
草っぽ農園の片野一郎さんは、その昔、会社員をしていた。
六つの会社を渡り歩き、その主な職務は技術・研究職であった。
とある会社でプラスチック材料の研究・開発に携わっていた時、化学物質が宙を舞っているのが肉眼で確認できたという。
化成肥料はおろか、有機肥料もほとんど使わない今の仕事とは、対極の仕事といっていい。
そんな仕事をしていた頃、窓の外を眺めて(嗚呼、青空の下で働きたいなぁ……)なんてぼんやりと思っていた。
この想いが、現在の仕事をするに至った下地になっている。
それから、片野さんは組織の中で働くことに嫌気が差していった。
「一人でできる仕事がしたい、想像力を働かせる仕事をしたい」
そして、一冊の本に出会った。
福岡正信さんの著書「わら一本の革命」である。
自然農とは何たるものか、その思想と実践を説いたロングセラーであり、今では数十か国で翻訳されて世界中で読まれている一冊だ。
その福岡正信さんの言葉に、片野さんは心を打たれた。
「人間は何もしなくてよい。食っちゃ寝、食っちゃ寝して生きておればよい」
何なんだ!? この人は!
それから、農の世界にどっぷりとはまり込んだ。
できれば、自給自足をして、のんびりと過ごしたい。
そんな想いを抱いて、農業を始める。
最初は慣行農法で、兼業農家。
でも、忙しくなるばかりで「何か違う」と思う。
そう思った片野さんは、いよいよ自然農を実行に移す。
そして、今の奥さんである片野真弓さん(マクロビオティックって何?の講師)に出会う。
真弓さんと二人で、自然農で暮らしてゆく術を探し求めた結果、今の「イベント形式で自然農を体験してもらう」にたどり着いた。
体験型のイベントは、時代の流れに乗った。
人々の意識が「モノ」から「コト」へと向かい、自然や健康といった分野への注目も高くなっていた。
今では、圃場見学や収穫体験だけではなく、流しそうめんや餅つき、気功やマクロビオティックなど幅広いイベントを開き、地域の人々と交流しながら、自然農のある生活を送っている。
草っぽ農園の草っぽ寺子屋
草っぽ農園では、様々なイベントを実施中。
自然農、自然体験、自然療法、自然食などなど、「自然」にまつわるいろんなことが体験できます。
大人も子どもも、自然の中で遊んで学んで、楽しい時間を過ごしましょう!
・基本参加費
大人 1,500円
小中学生 800円
3歳以上 500円
2歳以下 無料
詳しくは、ホームページにて!
片野真弓さんによるマクロビオティック講座の記事
今回紹介した本
- 出版社 : 春秋社; 新版
- 著者 : 福岡 正信
- 発売日 : 2004/8/20
- 単行本(ソフトカバー) : 268ページ
完全版 川口由一 自然農: 農薬を使わず、耕さない 野菜と米のつくり方
- 出版社 : 学研プラス
- 監修 : 川口由一
- 発売日 : 2019/8/29
- 単行本 : 130ページ