城里町の高萩さん Vol.22-2(野良本 Vol.32)高萩さんのナリワイ -ナリワイをつくる 人生を盗まれない働き方-

城里町の高萩さんおすすめの一冊「ナリワイをつくる 人生を盗まれない働き方/伊藤洋志」

城里町の高萩さんが、心だけではなく体まで動かされてしまった本がある。
「ナリワイをつくる:人生を盗まれない働き方」(伊藤 洋志著)がそれだ。

ナリワイをつくる: 人生を盗まれない働き方 (ちくま文庫)

ん? どこかで見たタイトルだな。

根本樹弥さんの家で読んで面白かったので、買いました」

あー、そうか、根本さんか。私も根本さんの家にお邪魔した時にトイレを借りて、その時にそこに置いてあったような。んー、でも私の記憶だと、もっと他の場所で見たような気がする。

「私も読んでみて、あれ?これは読んだことあるなって思いました」

なんと、高萩さんもデジャヴを抱いていた。

ちなみに、この本に書かれている「ナリワイ」はいわゆる「生業」とはちょっと違う。「生業」は「生活のための仕事」だが、「ナリワイ」は……読んでいない私が言うのも何だが、高萩さんの話を聞いた上での私の解釈は「生活を豊かにするための仕事」だ。

俗にいう「ライフワーク(使命や夢を仕事にする」「ライトワーク(天職)」とはまた違う。「ライクワーク(好きなことを仕事にする)」がもっとも近い。いわゆる「生業」=「ライスワーク」であるから、その対になる存在という意味では一緒だが、「ナリワイ」は先に挙げた3つ(ライフ・ライト・ライク)よりももっと自由で軽い感じがする。

「ナリワイ」はひとつじゃなくていい。むしろ、たくさんの「ナリワイ」を持った方がいろいろと身に付けられて仲間もできていい。「ナリワイ」は普段の生活や自分の趣味に合ったものがいい。でも趣味ではなくて、一応仕事で……。

 

先日、高萩さんの畑にお邪魔した際に、この「ナリワイをつくる」の話になった。その内容がけっこうなボリュームになったので、ここにまとめて記録しておくことにした。

「やさいの駅」のPOPづくりもナリワイのひとつ。

「この本には『専業』が進むことで起きる弊害というかデメリットが書かれています。専業化が進むことによって人間が疲れてしまい、社会も疲弊してしまっている、それは本来の社会のあるべき姿ではないと」

へぇー。専業化がデメリットを生むって、なんか意外。効率がよくなってメリット多そうな気がしますが。

「昔はみんな手仕事をいろいろと持っていて。つまり、これだけやるっていう生活は実はごく最近のことで。ここには株式会社日本って書いてあるけれど、得意分野を絞ってしまってそれ一本でやりましょうって、日本自体が会社化してしまって、それに合わせて人間も会社側に雇用されてそこで一生懸命働いて、それで経済発展をしてみんなで幸せになりましょう!という考えだったんですけど、それが低成長の時代になっていろいろ弊害が出てきて、それではうまくいかないのに長い時間働いてみんなが疲れて……というような時代になっちゃっているという」

長時間労働で疲弊……身に覚えが。

「昔は自営業が多かったんですよね。みんなが自由に、豊かに生きてきた時代を取り戻そう、という提言がされているんですよ」

”昔”って、具体的にはいつの時代のことでしょうか?

「本の中では大正時代と今の職種を比べていて、その頃と比べて今は1/10くらいに職種が減ってしまっていると。どんどん自営業がなくなっちゃって、仕事として成立していたものが成立しなくなってしまった。要はみんなお金を払って買う時代になっちゃったから」

何でもお金で買えるって、便利だけれどつまらない。

「例えば、昔は自分で家を建てる人が多かったようですが、今は買うのが当たり前になりましたよね。それって、本当に『当たり前』でいいのかっていう疑問を呈していてローンで何十年も払い続けるようなことって、本当はおかしいんじゃない?っていう」

家の購入か、私には夢のような話だ。

「だったら、自分たちで手作りでやった方が楽しいしお金もかからないし、仲間ができていいじゃないかって提案している本なんですよ」

なるほどなるほど。

「仕事も一つの仕事で月30万円もらうのじゃなくて、3万円の仕事を10個やる方が人間的にも豊かになるし、仲間も増えるし、無理もしなくていいいのじゃないか?という。その意味でのナリワイを作ろうっていう本なんですよね」

今は副業勧めている会社もあるみたいですよね。ダブルワーク、うちもOKにならないだろうか。

「私はそのキーワードにピーンときて、ナリワイ元年ということで、手仕事としてやれることを増やしていければなぁと思っているんですよね」

ナリワイ元年。高萩さんがまた新境地を開こうとしている。

「自分で古本市をやりたいってさっき話してましたけど、あれもナリワイの一つになりえますよね。自分の趣味とか興味があるものについて棚卸をしていくと、ナリワイの種を見つけられることがあります」

興味のあることならば習得も早そうですね。

「実は、この間七里の森の朝市に行った時に占い師がいて、占ってもらったんですけど、そこで『あなたは農業に向いていない』って言われたんですよ」

それは……ショックですね。

「いや、それが全然ショックじゃなかったんです。薄々とそのことに気づいていたんですよ」

え?

「これは私の解釈なんですが、『農業”だけ”は向いていない』ということなのかなと受け取りまして。他の新規就農者でうまくいっている人たちを見てきて、私は専業農家として経営するにはあまり適正ないんじゃないかなと最近思い始めていたところなだったんです。がっつりやってがっつり稼ぐ仕組みは、あまり得意じゃないし、そんなに好きでもない。大きな機械を買って、人をたくさん雇って、っていうのは自分に合ってないんです」

だから、すんなり受け入れられたんですね。「ナリワイ」の本にもつながりますね。

「根本樹弥さんとの出会いも大きいですね。根本さんと出会って、だいぶ頭が柔らかくなりました。根本さんに出会ったことでスローペースな生活を設計していきたいと思うようになりました」

たしかに! 根本さんはいろんなこと経験してますよね!

「あと、この本から学んで最近実践していることの中に『無駄なコストを減らす』ということがあります。普段、何気なく使っているお金を減らせばお金も必要なくなってくるから、無理して稼ぐ必要がなくなるんですよ。働く時間が減れば、自分の時間も増えるから豊かな暮らしを送ることができる……かもしれない。という訳で、最近コンビニで買い物をすることをしなくなりました」

(ああ、私はコンビニを頻繁に利用している……)

「世の中、消費させるプレッシャーがすごいですよね。如何に物に付加価値を付けてお金を使わせるか、どの業界も躍起になってますよね。野菜だって同じです。この本を読んで、もっと等身大でいいんじゃないかって思うようになりました。やさいの駅もチープな無人販売ですけど、これからの時代にはむしろ合ってるんじゃないかって思うんです。環境への負荷も少ないですし」

地産地消は物流の負担が減るので、お財布にも環境にもやさしいですよね。

「結局はローカルなんですよね。ローカルに戻していけば、無理はしなくて済む世の中になる。グローバル化や専業化が進めば、外に出ていかなければいかなくなって、そこで競争が生まれて余計なエネルギーを使っていう流れなんですよね。最終的には自給自足、地産地消に向かって進めば、全てのバランスが取れてみんなが無理をしなくて済むようになるんじゃないかなぁ」

今は何でも無理をしない、させない時代かもしれない。経済の成長が停滞しているのも原因か……。

「さらに言えば、会社の弊害ってやりすぎてしまうことだと思うんですよね。限界を知らないんです。例えば、売上が1兆円超えたからうちはもういいです、これくらいで、とはなりませんよね。来年は売上1兆1千万円にします、ってなりますよね。いつまでその成長は続けられるんですかっていう。地球の資源は有限なのに」

なるほどー! たしかにその通りかもしれない。「現状維持」っていう目標を立てる企業を私は知らない。

「そうなると結局バブルしかないんですよね。見せかけの数字で成長しているように見せるか、環境を破壊し続けるか。最近思っているのが、企業の悪いところって死なないところだと思うんです。人間って死ぬじゃないですか。死ぬとわかれば自分で身の処し方がわかるもんです。死なないことってけっこう怖いことだなって思う。恐竜でもなんでも、自分が死んだら土にかえって、また新しい生命がそこから生まれる。循環の考えが大事です。死ぬことは悪いことじゃない。自然の摂理ですから」

企業もなくなること=死ぬことが前提にあれば、またその在り方・働き方も変わってくるかもしれない。

「人間は、個人レベルに落とし込めば無理をしなくなるんですよね。会社とか組織に入ると無理をしちゃうんですよ。組織として回っているから、誰も止められない。誰が主人かもわからない。行先もわからない。運転手のいない暴走機関車に乗せられているようなものですよね。システムの中で動かされてしまうから」

集団心理ってやつだ。高萩さんは昔から言ってましたよね。人類総自営業化みたいな。

「言ってましたね(笑)。よく地方に移住しようとしても仕事がないから住めないようなことが言われていますが、一般的な尺度で測ってしまうとそうかもしれません。地方には雇用がないから、移住しても収入がない、と思ってしまいがちです」

私もそう思っていた。都内と茨城では、求人数がまるで違う。でも、高萩さんはそうではないという。

「もっとローコストで生きていける手段があるんだよっていう前例がもっと増えてくれれば、地方移住者がもっと増えるかもしれません。いかんせん、この世の中お金がかかりすぎますからね。お金がかからない生活というのがどこまで可能なのか、興味があるところですよね」

でも、そういう人たち(地方移住希望者)も増えている。茨城県だって2021年は「転入超過」だったらしい。

「少しずつですけれどね。今までがやりすぎた社会だったんですよ」

高萩さんから話を聞いた後に、思い出したことがある。この「ナリワイをつくる:人生を盗まれない働き方」という本に初めて出会った場所だ。

それは、何を隠そう高萩さんの家だった。何年か前に、この本を私は高萩さんから借りていたのだ。

高萩さんの家から帰った後に、自宅の本棚を探してみるとあったあった「ナリワイをつくる:人生を盗まれない働き方」。本を開いてみると、文章のあちこちに線が引いてある。高萩さんが引いた線だ。私はこのような読み方はしない(もっとぼんやりと本を読んでいるから)。

この場を借りてお詫びします。
借りパクしちゃってすみません。

 

ナリワイをつくる: 人生を盗まれない働き方 (ちくま文庫)

 

高萩さんの野菜が買えるお店

道の駅かつら

つちっこ河和田

有機農家が作ったオーガニックの店

生活クラブ

野菜の駅プロジェクト(インスタグラム)

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