茶の里に響く、沖縄の唄(2022/6/5)
第4回 古内茶庭先カフェの概要
2022年6月5日、城里町で第4回「古内茶 庭先カフェ」が開催された。 茨城県3大銘茶のひとつ「古内茶」の産地、古内地区の茶園等7か所が会場となり、新茶の試飲や販売、パンやコーヒーなどの販売が行われた。 会場ではウォーキングマップが配布され、茶畑や里山の風景を見ながら散歩を楽しむ人の姿もあった。 同イベントの開催は、新型コロナウイルス感染症の影響により、2020年秋の開催以来の約1年半ぶりとなった。 ※主催:チャレンジしろさと、古内地区地域協議会、古内茶生産組合
茶畑とチンドン屋
庭先カフェの駐車場に着くと、城里町の高萩和彦さんが受付をしていた(高萩さんは庭先カフェ主催のチャレンジしろさとの代表である)。
「今一段落ついたところです。先ほどまで混雑していましたが」
私はお昼前に着いたのだが、駐車場はほぼ満車状態だった。 今回は広報活動も控えめに行っていると聞いていたから、それほど混雑するとは思っていなかったが、イベント自体が周知された証拠だろうか。
「これどうぞ。ウォーキングマップをエクセルで作ってみたんです。良かったら散歩してきてください」
そう言って高萩さんが地図を渡してくれた。県道と各イベント会場が記された「公式」マップと、高萩さんが作成してくれた「ウォーキングマップ」。 公式マップを見ると、気になるところがあった。
三浦屋(チンドン屋)が会場で演奏や練り歩きを行います!
チンドン屋の三浦屋さん……以前、高萩さんとの会話の中で、何度か聞いたことがある……。
「城里町に面白い人がいるんですよ」
……というか、私が知っている城里町の住人は、皆面白い人ばかりである。高萩さん、根本樹弥さん、岩野さん(陶芸家、DOOKIE&FURUTAS)、S本さん(風来坊)…個性豊かな人ばかりである。
「三浦さんという人で、沖縄の楽器・三線を弾いて太鼓鳴らしてチンドン屋をしているんです」
なんだそりゃ、また愉快な人が……と、その時はそんなやり取りをした。
そうか、今日はチンドン屋さんも来ているのか。ぜひ会ってみたい!
けれど、まぁひとまず散歩とお茶だ。 高萩さんにもらったウォーキングマップを片手に、古内地区の散歩を始めた。
加藤園に行くと陶芸家の岩野さんがいた。ちょこっと話をして、新茶を買う。 続いて道路反対側にある初梅園に行くと今度は根本さんがいた。高萩さんJr.の宋ちゃんと高萩さんの奥さんも一緒だった。 宗ちゃんを少しからかった後に根本さんと少し話をする。
「Kさん、仕事大変そうで!大丈夫ですか?」
いきなり心配されてしまった。確かに最近仕事が忙しく、夜は毎晩遅いし休みもあまり取れていない。そのことを高萩さんづてに聞いたのだろう。 だが、疲れているからこその「庭先カフェ」だった。 自然と共に暮らす人々の話を聞き、その里の中を歩き、そこで採れたお茶を飲み……シンプルな営みが生み出す「産物」は、絡まった心をほぐしてくれるような気がした。
それはそうと。
チンドン屋のことを根本さんに聞いてみる。
「三浦さんですね! もう少ししたらこの辺を歩くと思うんですけど」
今すぐ始まるのでないならば、その辺を少し歩いてこようと思い、そのあとはウォーキングマップに従って県道から逸れて小道に入り、茶畑を横に見ながら歩く。
茶畑というのは、改めて眺めると独特なものだ。 短く刈り取られた低木が、規則正しく並んでいる。 そこに自由さや多様性は感じられない。きっちりとみっちりと低く一定に並んでいる。 その均一な姿に芸術性を感じた。
茶畑を過ぎると、小道は水田に囲まれる。水田には植えられたばかりの稲がある。まだまだ大きく育っていないから、見た目には水面の面積が多く、鏡のように空を(曇天だが)反射している。 少し離れにはこんもりとした低山が並んでいる。高い山など一つもない。皆標高200m前後の低山であろう。
「里山」というと自然のままの姿を思い浮かべる人がいると思うが、里山の意味は本来、人の手が加えられた山を言う。 山の近くの里に住む人が、薪や山菜を採るのに山を利用する。それは、人と自然(ここでは土地と植物)が共に生きる姿である。
SDGsが目指すものは、このような田舎にあるのかもしれない。 なんて、柄にもなく小難しいことを考えていると、島家住宅に到着する。 途中、一人で歩く男性の姿がいくつかあった。このイベントのプレ開催の時から参加している私としては、庭先カフェが一人でも二人でも、家族でも楽しめるようになったと感じられ嬉しく思った。
島家では燻蒸が行われていた。築350年の古民家を、竈で木を燃やしその煙で防虫にする。 このようにして、この国登録有形文化財は今の世に保たれている。 今日の庭先カフェで、以前と変わらぬ島家住宅の姿を拝めるのも、この住宅を支える人々のおかげである……そんなことを思ったか思っていないかは置いておいて、島家では水出しの古内茶を2杯飲む。 ここまでけっこう歩いたから、喉が渇いた。1杯や2杯では足りないから、試飲ではなく水出し古内茶を缶かペットボトル(おっとプラスチックか)にでも入れてイベント中に売り出したら、たいそう売れそうな気がする。
島家住宅を出ると、更に先を行く。1.4キロ先のDOOKIE&FRUTASへ。 この1.4キロがけっこう長く感じた。県道をひたすら歩いたせいか。やはり歩くなら車など通らない道の方が良いということか。 店に着くなり、ビンのコーラを一本購入しその場で飲み干す。ビンだと持ち歩けないから、やっぱりペットボト……おっとSDGs。
そのまま鹿島神社のある鯉渕晴人宅まで約2キロの道のり。日頃の運動不足が祟って「疲れた疲れた」とこぼしながら歩き、鯉渕宅で茶を飲み菓子を食べ一休みする。 こうした歩いては休み、歩いては休みのペースがちょうどよい。会場(茶園など)がある場所が、程よく離れているからだろう。 マラソンなどのハードな運動ではなく、心地よい程度の運動ができる上においしい新茶が飲めてお菓子が食べられる。しかも人と自然が共生する風景を眺めながら。
ああ、いいイベントだった……と、幕を引くのは尚早。やり残したことがあるではないか。
それは、高安園に出店していたたこ焼きを食べることではない(あとで食べたけれど)。 チンドン屋の三浦さんに会うことだ。 加藤園の近くまで戻ってくると、明らかにおかしな風貌をした人々がいるのを発見した。 ちょうど出張お茶サービス社が出店している場所で、表通りから少し奥に入った場所だった。
行ってみると、どうやらチンドン屋の演奏は終わってしまった様子で、三浦さんは写真撮影のリクエストに応じていた。
「もう、終わってしまったのですね」 と悲しげな声を出して三浦さんに話しかけると、ニカッと素敵な笑顔を返し、演奏を始めてくれた。 三浦さんは三線を手に持ち歌い、子ども二人はタンバリンと笛で音を奏でる。奥様は太鼓でリズムを取り、茶畑の隅のほんの少しの距離を練り歩き、一曲演奏してくれた。 見物客は私の他2、3名しかいないのに! なんとうれしいことだ。
調子に乗った私は、リクエストなどしてみる。 せっかくだから、沖縄民謡が聞きたい。
「てぃんさぐぬの花が聞きたいです!」
「沖縄の方ですか?」と三浦さん。
「いえ、違いますけど……。そういう三浦さんは沖縄の方?」
「いえ、違いますけど……」
「好きなんです! てぃんさぐぬ花!」 と情熱を込めてリクエストすると、三浦さんは三線を弾き始めた。
てぃんさぐぬはーなーや
ちみさちにすみてぃ
うやぬゆしぐとぅーや
ちむにすみーりー
海のない城里町の茶畑に、沖縄を唄う声が、美しく鳴り響いた。