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城里町の高萩さん Vol.26 「根」

ヒト取材記
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根っこのはなしを……少々。(取材日:2022/10/21)

城里町の高萩さんの畑。秋らしくなってきた。

最近、夜が来るのが早くなった。

昼間は暑いくらいに気温が上がるが、夜になると服を着込まないといけないほどに寒くなる。野菜の駅が設置されている「平賀石材店(茨城県・城里町)」の平賀さんが「秋を通り越して、冬が来ちゃった」と話していたが、夜の寒さは確かにそれくらいに寒く感じる。

季節の移ろいは、時間の移ろいである。

この日、高萩さんちの里芋堀りを手伝った。以前に手伝ってから2年が経過し、里芋の保存作業をした後に城里町の星空を眺め感動してから1年が経過していた。時の流れの速さを感じた。

宗ちゃん(高萩さんの子)も大きくなって言葉を少し話すようになり、成長が感じられた。ペロ(高萩さんの飼い犬)は以前よりも足取りが覚束なくなっていた。高萩さんの家に野菜を買いに来たシモジョウさんは、相変わらず元気いっぱいだった。

里芋を程よい量を取ると、作業は1時間程度で終わった。2年前は一畝分の里芋を掘ったが、今年はその半分以下程度であった。それでも、私はひどく疲れた。2年前よりも疲れを感じた。体力の衰えからも「移ろい」を感じた。

収穫作業を終えると、出荷前の調整作業に入る。採った里芋に付いた根や土を手で落とし、大きさで出荷用と自家用に分けた。その作業をしながら高萩さんに話を聞いた。

オクラ

レンコン

生姜

最近の高萩さんは……いかがな感じですか? 

「アスパラは夏に収穫を打ち切りました。アスパラのハウスで作っていた夏野菜も終わりましたね」

レンコンはいかがですか? 先ほど圃場を見てきましたが、葉が茶色くなっていましたね。

「今年は枯れるのが早いみたいですね。12月に収穫を予定しているので、その前にカラ狩りをする予定です。レンコンはあまり早く収穫すると甘味が乗らない気がするんですよ。里芋は遅く掘るとトロトロ感が出て美味しいのですが。サツマイモにしても冬が近づかないと美味しくならないから、まだレンコンも掘っていません。マコモダケの収穫のピークが最近あったので、忙しくて手が回らなかったのもありますね」

圃場を見学している時にマコモダケの様子を見たが、こうして植えられている姿を見ると雑草にしか思えない。けれど、販売用のマコモダケ(シモジョウさんに販売していた)はキレイに整えられて袋に詰められ、見るからに美味しそうだった。

「去年よりもマコモダケの売上は良くなりました。前はけっこう売れ残ってたんですけど」

客にマコモダケの存在が認知されてきたのだろう。完売することが多くなったという。だが、その反面、収穫量は落ちている。

「いつもなら今の時期にも収穫できていたのですが、今年は早く収穫が終わってしまったんです。例年より2週間くらい打ち切りが早くて。猛暑の影響もあったのではないでしょうか。あとは、ずっと植えっぱなしのせいか、株に勢いがなくなってきたような気もします」

株の生長する場所が狭くなると、伸び伸びと育たない。密植状態というヤツである。

「できれば新しい場所に植え替えた方がいいんです。伸びる場所を作ってあげるというか。今は株と株の間が狭くなってしまっているので。そのせいでマコモが小ぶりになってしまっています」

それは、一種の連作障害みたいなものらしい。

「レンコンでも同じで、『とこだち』といって1年以上植えっぱなし状態がありますが、『とこだち』にすると小さくなってしまいますね。植え替えてあげるとすごい勢いで生長します。里芋もそうです。植えっぱなしだと密集してしまって大きくなりません」

私はとある農家の田んぼで草取りをした時に言われたことを思いだした。

「田んぼの中を歩くだけでもいいんだよ。歩くことで根っこが切れて、そこからまた伸びようとするから強くなる」

「根が切れる」ということは、植物にとって悪いことだと素人考えだと思ってしまうが、そうでもないらしい。そのまま高萩さんに話してみた。

「そうですね。『断根』といってわざと根を切って若くて強い根を再生させる技術があります。植える前に根を切る人もいるみたいです。他の野菜にも『切り戻し』とかありますからね」

「断根」というのか。それにしても植物というのは逞しい。人間にもある程度の再生力はあるが、植物には及ばないと思う。抜いても抜いても生えてくる夏の雑草や芽を土に差すだけで生長するトマトを思い出し、その逞しさを再認識した。

その後もあれこれと高萩さんの話を聞いた。前回草取りをした生姜は干ばつの影響は受けているが、順調に育っている。人参、大根も順調。夏に植えた葉物野菜は虫にやられてしまい、生育が悪い。もうすぐにんにくを植え、玉ねぎの苗も仕立てている。サツマイモは10月末に収穫予定とのこと。

……などなど、話をしながら作業をしていたら、あっという間に時間が流れ辺りは真っ暗になっていた。気付いたら調整作業も終わっていて、座りっぱなしの作業だったので腰を伸ばそうと立ち上がる。空を見上げるとキレイな星空が広がっている。

「星がキレイですねぇ」と思わず言葉が漏れる。

星がキレイに見えるのは、城里町で見ているからだろうか。農作業をした後だからだろうか。果たして水戸で見る星空はこんなにキレイだったろうか。

「もう少し時間が経って暗くなると外灯が落ちて、もっとキレイに見えますよ」

日本は戦後、爆発的に人口が増えた。そして、経済的に豊かになり、暮らしも便利になった。人々は様々なモノを生み出した。けれどその代償に失われてしまったモノもある。かつてはこのような星空も、日本のあちこちで見ることができたのだろう。

「人口減少が問題視されていますが、日本の面積を考えるとまだまだ多いんですよね」

高萩さんが言っていた。

日本の土地が蓄えていたエネルギーと新たに生み出せるエネルギー以上に、今の私たちはエネルギーを消費して生きている。私たちの暮らしは日本という土地が持つ力の限界を超え、無理をしている状態だと言う。そして、それと同じようなことが世界各地で起きている。

地球の限界が、人間の限界である。なのに、人間が地球の限界を早めている。人は地球という土地に「根」を差し生きている訳だが、その「根」が悪いのだから切ってしまった方がいい。一度「根切り」をして、新しい「根」の若い力に任せるのがいい。

どちらにしろ、このような「根の深い問題」の解決には、「値(=お金、経済)」にばかり気を取られずに、「根張り(粘り)強く」取り組んでいくしかないだろう。