古内茶 庭先カフェとは?

水戸黄門こと徳川光圀公が栽培を広めたと言われている、茨城県3大銘茶のひとつ「古内茶」。「古内茶庭先カフェ」は、その古内茶の産地、茨城県東茨城郡城里町の上古内地区・下古内地区のお茶農家などの庭先で、お茶を飲んでマッタリしたり、出店であれこれと食べたり、いろいろな体験をしたり、辺りを散歩したりするという、何とも長閑なイベントである。
イベントの目的は、古内茶の産地振興と地域活性化。2018年11月25日にプレイベントを実施した後、翌年の2019年6月2日に第1回古内茶庭先カフェがスタートし、初夏(6月上旬)と晩秋(11月中旬~下旬)の年に2回開催されている。
小さな町の大きなイベント

小さな山々に挟まれた、いわゆる「山あい」の地域に、「茂木」へと続く県道51号が走っている。その道の両脇には、点々と民家が建っており、道と民家の隙間を埋めるように茶畑が広がる。
この地域で作られているお茶は「古内茶(ふるうちちゃ)」と呼ばれるお茶で、かの水戸黄門ゆかりのお茶といわれている。その昔、徳川光圀公がこの地を訪れた際にお茶を飲み、それがたいそうおいしかったので地域の人々にお茶の栽培を広めたという。
茶畑が集中するエリアは、古内茶を生産・加工・販売する「高安園」の付近から、古民家・島家住宅の手前あたりまでで、県道沿いにせいぜい2kmほどの距離しかない。この小さな地域で、今でも古内茶は作られている。だが、年々お茶農家は減っており、古内茶の生産組合は6名しかいないという現状だ(2025年11月現在)。
伝統あるお茶づくりの産地から、茶畑がなくなってしまう。それは、さほど大げさな表現ではなく、近い将来にそれが現実になったとしてもまったく不思議ではない。
そんな、ややもすれば消滅してしまいそうな茶の里を復興させようと、城里町に住む民間有志が立ち上がり、地域住民の協力を得てお茶のイベント「古内茶 庭先カフェ」を開催したのが2018年。それから7年が経過し、庭先カフェは今回で11回目を迎えた。
2025年11月16日。その日、古内地区全体がイベント会場と化した。地区に散らばるお茶農家やお店、神社など、ぜんぶで12ヶ所が会場となり、それぞれの会場でそれぞれが工夫を凝らして客をもてなす。
城里町はおよそ16,000人しかいない「小さな町」だが、「古内茶 庭先カフェ」は古内地区全体が会場となるため、規模はとても大きいといえる。第11回 古内茶庭先カフェには、県内外から述べおよそ2,000人以上の人が訪れて、秋の茶の里で過ごすひとときを楽しんだ。
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古内茶庭先カフェの運営から 〜開催を終えて

高萩和彦さん(事務局、古内地区地域協議会、農家)のコメント
今回の庭先カフェは、来場者は延べ2000人を超え、昨年の秋開催に比べて約2倍となりました。事前の宣伝に力を入れたことが奏功したのではないでしょうか。
内容についても旧古内小でマルシェを開催するなど、廃校の活用についても本格的に始動することができました。また、今回は城里町の交流都市である東京都江戸川区の方々も約40名ほどバスでお招きし、茶の里の魅力を楽しんでいただくことができました。
今まで秋開催はお茶以外の地域の魅力発掘をテーマに体験イベントなどを充実させてきましたが、集客の少なさが課題でした。今回はその課題をクリアすることができ、秋開催としても理想の形に近づいたと思います。
古内は交通量の多さが強みです。仕組みさえ作れば集客がしやすい環境にあると思います。今後も引き続きイベントの魅力を高めて、古内茶や地域に愛着を持ってもらえるように努力をしていきます。

岩野一弘さん(事務局、古内地区地域協議会・会長、陶芸家)のコメント
今回は、これまで駐車場として使用していた旧古内小学校をマルシェ会場として併用しました。地元の農家さんやクラフト作家さんのご協力により、華やかな会場にすることができたと感じております。
一方で、駐車場とマルシェが同一空間にあったことで、車の通行の際に混雑や窮屈さを感じさせてしまった点があったかと存じます。この点につきましては、次回開催に向けて最優先で改善策を検討してまいります。
また、令和6年開催より茨城県の補助事業として認めていただき、警備員の手配など安全面の体制を強化することができました。しかし、駐車場不足など、すぐには改善が難しい課題も残っております。ご不便をおかけした点については、何卒ご容赦いただけますようお願い申し上げます。
県の補助事業期間は来年開催分をもって満了となるため、令和9年(2027年)以降は運営体制の調整・変更が予想されます。皆さまにはご不便をおかけする箇所があるかもしれませんが、これからも古内茶の魅力を守り伝えるために、より良いイベントを目指してまいります。
第12回開催では、茶つみ体験やきのこの菌打ち体験など、新たな企画もご用意する予定です。ぜひ、また古内地区へお立ち寄りいただけることを、心よりお待ち申し上げます!
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第11回 古内茶庭先カフェ レポート
今回の目玉は、旧古内小の駐車スペースを拡大し、マルシェを開催したこと。今まで各会場(庭先)に散らばっていた出店を、一番駐車可能台数が多い=一番客が集まる場所・旧古内小に集めることで、「マルシェ」と呼べる規模で展開できた。出店者も多くの人に見てもらうこと・買ってもらうことができただろうし、来場者も楽しむことができただろう。
また、城里町と交流都市の関係を築いている東京都江戸川区からバスツアーも実施。江戸川区から約40名がバスに乗って城里へやってきた。江戸川区からの参加者の多くは、水戸葵社中「縁団☆水戸黄門」の茶畑ウォークラリーに参加して、古内地区の各会場を歩いて回った。
私はというと。
前回に引き続き、11回目の庭先カフェは島家住宅のお手伝いとして参加。手伝いを終えて島家住宅を抜け出たのは13時頃。イベントの終了時間は15時であったので、早足で他の会場を回った。
古民家・島家住宅の庭先で

Contents:縄編み体験 ほうじ茶作り体験
島家住宅はイベントエリアの端の方に位置するせいか、客足はとても緩やかだった。
「このくらいの客数がちょうどよいよね。島家の雰囲気に合っている」とボランティアのI沢さん。
たしかに、そうかもしれない。江戸時代に建てられて、今もその頃の風合いを残すこの古民家に、人混みや喧騒はあまり似合わない。
途中、黄門様が江戸川区の人々(バスツアー参加者)がやってきた時は急激に混雑したが、それ以外は終始おだやかな人の流れだった。

庭先カフェが終わると、会場の片付けも手伝った。島家の中に入り、ボランティアの方々と話をしながら、薄暗い家の中を眺める。
土間、竈、囲炉裏、五右衛門風呂、磨りガラス。
今の住居ではまずお目にかかれない代物……今では製造すらされていない貴重なものたちが、この家の中では生きている。島家の中だけ、時間が止まっているかのよう。
「長い間、誰も住んでいなかったから、今でも残っているのよね」
島家の親戚にあたるD口さんが言う。
「使っていたら、壊れて交換しちゃうでしょ」
たしかに、そうかもしれない。人が住まなくなった家はあっという間に廃れてしまう、と聞いたことがあるが、人が住むことによって廃れてしまう場合もある、ということか。どちらにしても、時の流れで物も人も廃れてしまう。
その点、ところどころに補修の跡があっても、ところどころに激しい痛みがあっても、当時の面影を残して現在に至るこの家は、存在自体がとても貴重なものであり、存在することで今もこうして人と人を結びつけているのだから、それはもはや「貴重」という域を超え、「奇跡」のような「夢」のような存在なのかもしれない。
D口さんの言葉に、神妙な気持ちを抱いた私は「住んでみたいな、こういう家に」と思わずつぶやく。すると、「住むのは無理じゃない?」「隙間風寒いよ」「虫がたくさん出るよ」「ごはん作るのも(竈)お風呂はいるのも(五右衛門風呂)一苦労だよ」と現実的な言葉が周囲から浴びせられ、たしかに、そうかもしれない、と一気に夢から覚めた。
旧古内小学校の校庭で

Contents:ほうじ茶作り体験、わくわく陶芸体験(園部智子)、ふるうちマルシェ

<ふるうちマルシェ 出店者>
JA水戸かつら農産加工所(ジェラート等加工品販売)、おこめ丸(七会産新米の販売)、どんぐりふぁーむ(レンコンの販売)、養蜂家長島哲也(茨城県産蜂蜜、蜜ろうクリーム)、地域活動支援センターつくし(手作り製品、季節の野菜)、Calico(ハンドメイドアクセサリー)、Porcelain labo(陶磁器、アクセサリー)
校庭を整備して、駐車台数が増加した旧古内小学校。今回は「ふるうちマルシェ」を開催し、地域特産品などを販売した。
私は「旧古内小のスタッフへのお弁当配達」という重要ミッションが課せられていたため、島家のボランティアを抜け出して昼頃に旧古内小にやってきたが、駐車場の車はその時点でほぼ満車。今回の庭先カフェがとても賑わっている事実を知る(島家はこの時点で暇だったので)。
マルシェでは養蜂家の長島さん、どんぐりふぁーむさんなど顔見知りの方々も出店していたのだが、「あとでゆっくり見に来ますねー!」と声をかけたきり、行かなかった(時間切れ)。すみません。
一茶園&しろさと紅茶らぼの庭先で

Contents:オリジナル和紅茶ブレンド体験、緑茶・和紅茶試飲販売
「いやぁ、江戸川の人たちが来た時はものすごく忙しかったです」
しろさと紅茶らぼの一丸さんが言う。私が来た時(イベント終了間際)は客足も落ち着き、ゆったりとしていた。
「Kさん(私のこと)の知り合いのお茶屋さんが来てくれましたよ」
「え、誰ですか?」
「那珂市の『みのり』っていうお茶屋さんです」
「あー!来てくれたんだ」
「今度うちの紅茶をお店で扱ってくれることになりまして」
「お、マジっすか!」
古内茶や庭先カフェを通じて、人と人がこうして自然につながっていくのは何とも嬉しい限り。
ベンチに座って紅茶を飲んでいた奥方たちは、先程島家に来ていた人たちで私が対応した人だった。確か、この人たちも江戸川区民。
あら、先程はどうもとご挨拶。
江戸川から城里へ。遠路はるばるバスに揺られてやってきた人々が、この先、この町とお茶につながりを持ってくれれば、なお嬉しいことだ。
大坪園の庭先で

Contents:新米の試食&販売、かまどで調理した野菜試食&販売、小物雑貨販売
大坪園は回を重ねるごとに庭先(会場)が派手になっていく。手作り看板の数が、今回も増えていた。
「どうでしたか、大坪さん」と声をかける。
「いやぁ、江戸川の人たちが来た時は忙し……(以下略)」
どこもかしこも、江戸川効果の恩恵を受けたようで。
「それはそうと、Kさん(私のこと)、もうWindows11にアップグレードした?」
お茶農家の前はIT戦士だった大坪さんに会うと、よくパソコンの話をするのだが、この日も。
「いや、もうMicrosoftに振り回されるのが嫌になりまして。先日古いPCにLinuxいれました」
「ほほう!」と唸る大坪さん。それからしばらくの間、お茶農家の庭先でお茶ともイベントとも全く関係のないパソコンのOSの話に花を咲かせた。
こうして、イベントの度に会う農家と親しくなって話ができるのもこのイベントの良いところ。お茶農家とLinux(リナックス)の話ができて、とてもrelax(リラックス)できた。
時沢園の庭先で

Contents:山野草・コットンフラワー(綿花)の販売、野菜販売、昭和レトロ小物展示
<出店者>ジェノヴァ(古内茶生パスタ[ジェノベーゼ]、古内茶カタラーナ)
時沢園の店の前で、呼び込みをしているお兄さんに声をかける。
この方は時沢園の親族の方で、庭先カフェの開催の度に毎度手伝いに来ているので、ちょっとした顔見知りになった。大坪園と時沢園は、親族を巻き込んで楽しそうに庭先カフェに参加しているのが、本当にスゴイ。
「(来るのが遅いので)今回は来ないかと思いましたよ」
「ちょっと別のところで手伝っていたもので。どうでしたか?」
「江戸川の人たちが……(以下略)」
いも山商店の店先で

Contents:つぼ焼き芋の販売、染め物ワークショップ、かわいい粘土作品の展示
<出店者>ホシノウエン(野菜の販売)
県道51号沿いを歩いていて、「ヤキイモ」と書かれた看板に遭遇した。その看板に描かれた矢印に導かれるまま歩いていくと、いも山商店の会場にたどり着く。
「ヤキイモください!」とヤキイモを一個購入。いも山さんがヤキイモの準備をしている間に、一緒に売られているステッカーに目が留まる。
ナニコレカワイイ、そして、変。
「これもください」

サツマイモの着ぐるみをかぶった女の子がバイクに跨っているイラストが描かれたステッカー「IMOGO!」を衝動買いしてしまった。
高安園の庭先で

Contents:野菜販売、茶もみ体験
<出店者>GEN’s cafe(ロングポテト、ソフトクリーム等)、パティスリーシュクル(古内茶サブレ、マドレーヌ、ショコラ等)
片付けを始めた頃に、高安園にぎりぎり到着。高安さんには公私でお世話になっており、イベント後にもいろいろとお話を聞かせていただいた。
「江戸川の……(以下略)」
江戸川の方々も参加したウォークツアーではスタート直後に高安園に訪れたため、イベント開始直後で高安園自体も忙しかった時とバッティングしててんやわんやだったそう。
その日は高安園だけで400名以上の来場者があり、秋開催の庭先カフェとしては過去最高の来場者だったという。
「これだけイベントが認知されたのも、高萩さんや岩野さんをはじめとした若い人々が頑張ってくれたおかげですよ」と高安さん。
今回の庭先カフェの客数大幅増は、たしかに事務局のお二人の尽力もそうだけれど、イベントに賛同して協力を続けるお茶農家さん方の努力の賜物だとも思う。
「イベントの時以外にも城里町に来てくれて古内茶を買ってもらえるように、このあたりにお店がもっと増えてくれるといいのだけれど」
庭先カフェを終えて数日後、高安園にお茶を買いに行った時に、高安さんがそんなことを言っていた。イベントで一時的にでも地域が盛り上がるのはいいことだが、欲を言えば本当の意味での地域復興……つまり古内茶の生産者増加や地域人口の増加につなげていきたいところ。
幸い、高安園や加藤園がある県道51号は交通量が少なくない。観光拠点が増えれば、イベント時以外でも地域全体が賑わう可能性がある。
例えば、高安園のような場所がもっと増えれば。
高安園の中に入ると、販売用のお茶が並べられている他に、椅子とテーブルも並んでいる。テーブルにはお茶うけの自家製漬物や煮物、お菓子もある。店に入ると、「まぁまぁお茶でも飲んでいってよ」と高安さんの奥さんに促されて椅子に座ると、湯呑みにお茶が注がれる。
あれこれと話しながらお茶を飲み、飲み終わりそうになると奥さんがお茶を注いでくれる。で、また話をしながらお茶を飲み、飲み終わりそうになると……エンドレス。
どこかで体験したな、こんなこと。昔、盛岡に行った時に食べた蕎麦だ、わんこ蕎麦。
ならば、この場合「わんこお茶」か。
城里町の高安園で「わんこお茶」体験。
これが流行ればイベント時以外でも地域が賑わうに違いない。
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ご紹介できなかった「第11回 古内茶庭先カフェ」会場一覧
・ふぉれすたーずりびんぐ
Contents:菜の都(米粉シフォンケーキ)、クミノ(木組みの積み木)体験
・ご飯屋さん寧々
Contents:けんちんそば定食・けんちんうどん定食(それぞれ小鉢と漬物付き)、としちゃん農園(新鮮お野菜)、My World store(ハントメイドアクセサリー)
・初梅園
Contents:新米販売、笠間茶屋(発酵カレー、栗ご飯、モンブラン)
・鯉渕晴人宅
Contents:まつぼっくり(手作り雑貨・布小物販売)、お菓子処ひろせ(赤飯、山菜おこわ、和菓子)
・パン教室Kuche
Contents:天然酵母パン、焼き菓子
古内茶 庭先カフェ
主催:茨城県・城里町・古内地区地域協議会
後援:城里町 協力:城里町立常北小学校・茨城県立水戸桜ノ牧高等学校常北校
お茶の本
日日是好日―「お茶」が教えてくれた15のしあわせ―
行き詰まった人生に。疲れ切った日常に。お茶とともに、一日一日をゆったりと存分に味わう。
映画化もされたベストセラー。
お茶の味
京都の老舗茶舗「一保堂」に嫁いだ「私」の、お茶とともにある日常を綴ったエッセイ。


