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【第8話】カトレア農家の1日

インタビュー
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切って、水をかけて、植え替える。
終わりなき作業の先に、カトレア農家が目指すもの

 

 

おはなしをしてくれた農家さん

高野 揮義 (たかの きよし・1985年生まれ) オーキッド・タカノ
地域  茨城県ひたちなか市
品目  カトレア、シンビジューム
面積  約20アール

 

カトレア農家の1日

出荷用に花を切って、育成中の鉢に水をかけて、生長した花は大きな鉢に植え替える。

カトレア農家は、この作業を一年中繰り返す。

電照が行われる8月が一応の区切りとなり、9月からまた1年が始まる。
そしてまた、切って、水をかけて、植え替える。
この作業が延々と繰り返される。

ひたちなか市でカトレアとシンビジュームを栽培している高野さんは、カトレア栽培の大変さをこの「区切りのなさ・エンドレスな作業」にあると言う。

終わりなき仕事は、朝早くから始まる。

5時に起きてごはんを食べ終えると、6時にはハウスに向かう。
まずはハウス内の見回り。
花の生育状況を見て、その日の仕事の段取りを考える。

8時になると、パートさんたちがやってくる。
パートさんたちもやはり、切って、水をかけて、植え替える作業をする。
もしくは、花を吊って持ち上げたり(そのままだと垂れてしまう)、誘引したり。

「慣れていないパートさんだと、花を折ってしまうこともあるので」

高野さんも、パートさん達と一緒に作業を始める。
アドバイスをしながら、雑談も交えながら。

黙々と作業をするのが好きなパートさんや、ベテランのパートさんが来た場合は、高野さんは1人でハウスの補習や出荷などの別の仕事をする。

また、花の生長に合わせて、仕事の進み具合によって段取りが変わることもある。
例えば、高野さんが1人で花を素早く切って、それをみんなで運んで選別し、出荷の準備をする…という具合である。

切られたカトレアは、段ボールに入れられ、市場に出荷される。
出荷は、高野さんの仕事だ。

カトレアの出荷は週に3日。
水戸とひたちなかの市場へ出荷し、そこから各地に振り分けられる。
出荷先は、水戸・ひたちなか・小美玉・郡山・いわき・仙台。
近くから遠くまで、県内外問わず。

2018年12月から、北海道も出荷先に追加された。
イレギュラーではあるが、姫路に届けることもある。
いろいろな場所に、高野さんが作ったカトレアは運ばれている。

 

高野さんが1人で動いている間は、パートさんたちは高野さんのご両親の指導に従い、作業をする。
日が暮れたら、仕事はひと段落。
パートさんたちは帰り、高野さんも夕飯を食べる。
でも、それで仕事が終わったわけではない。

「暗くなってからも作業をすることはありますね。摘蕾(てきらい)といって、不要な蕾を取り除く作業とか」

カトレアは一つの木に、7個も8個も蕾がつく。
蕾の大きさに比例して、花は咲く。
余分な蕾は、栄養が均等に行き渡るように摘蕾するのだ。
トマトなどでいう、芽かきや、メロンの摘果と一緒である。

 

夜の作業は、摘蕾だけではない。
夜中になると、ナメクジが活発に動き出す。

ナメクジはカトレアの天敵だ。
夜にカトレアの蕾を食べてしまう。
高野さんは、蕾を食べられないように、夜中でもハウス内を見回ってナメクジの駆除にあたる。

「夜の9時くらいに、ナメクジの第一陣が出てくるんです 。それは、私のイメージでは兵隊なんですね。隊長にちょっと見てこいと命令をされて見に行くという。または、ナメクジ一家のお父さん。家族のために、食料の調達に出てきたところ」

第一陣のナメクジは、そこまで数はなく、比較的見つかりやすいという。
その兵隊、もしくはお父さんナメクジを退治すると、次は丑三つ時にまた違うナメクジが蕾を食べにやってくる。
この時間が、ナメクジ襲来のピークタイムである。

「次に、本陣がやってきます。もしくは、お母さんと子供のナメクジ。先に行った第一陣やお父さんが帰ってこないので、心配してやってくるのでしょう。小さいのから何から、わんさか出てくるのがこの時間です」

そうこうしているうちに、就寝は深夜になってしまう。
翌朝は5時に起きるので、睡眠時間は少ない。
目の下にあるクマはトレードマークのようなものだという。

時間ができた時は、大好きなお酒を飲む。
お酒と名のつくものならば、何でも美味しく飲める。
食用酒だって…美味しく、飲んでしまう。
高野さんが1日の疲れを癒す、至福のひとときである。

そして、次の日がやってきて、また、切って、水をかけて、植え替える。

カトレア農家の1日はこうして過ぎていく。

 

テーブルシンビ

高野さんの家では、カトレアの他にシンビジュームも栽培している。
シンビジュームの出荷は、2018年で3年目。
カトレアの農繁期に被らないよう、12月の半ばくらいから出荷し、3月にピークを迎えるスケジュールを組んでいる。

「本当は12月が売れるのですが、それに合わせるとシンビジュームとカトレアの仕事がダブってしまうんです。それに、3月出しの方が、移動とか転勤、新任、卒業、入学といったお祝い事に使われることが多いので、その方が出荷していて楽しいかなっていうのもあります」

12月に出荷するシンビジュームは、アレンジメントに使われるものがほとんど。
その場合、家の中でしか使われず、高野さんがその姿を見ることはできない。

でも、3月ならば行事などで花束を持つ人を巷で見ることができる。
それを目にした時に「あ、うちの花を買ってもらえた。お祝い事に使ってもらえている」と思えて、よい気持ちになるという。

高野さんが栽培するシンビジュームは、普通のよりも小型のテーブルシンビジュームと呼ばれるものだ。

「大きいシンビジュームだとアレンジメントをするのに使いにくい。大輪系のシンビジュームはキツイ感じになってしまいます。ですので、うちでは小型のテーブルシンビジュームを作っています。長くて小さくてかわいい花を入れたいという人には、小さなシンビジュームが合うんですよね。そうすると、値段的にも可愛らしくなる。お手頃価格だと、選ばれやすくなりますので」

カトレアは父の代から受け継いだもので、ノウハウは父から教えられた。
だが、シンビジュームは高野さんが始めたもの。

試行錯誤を繰り返し、今のスタイルになっている。

 

カトレアをお祝い事に

「選ばれる側になりたい」

と高野さんは言う。

「たまたまではなく、オーキッド・タカノのカトレアを求めてくれる。頼ってもらえる花農家になりたいです。それはずっと追求しているところですね」

選ばれる存在になるために、高野さんが心がけていることがある。
それは、「常に相手のことを思って行動すること」。

箱詰めの作業を、傷まないようにするのは当然のこと。
それだけでなく、花屋さんが取り出しやすいようにする。
花を貰う人や扱う人が、使い勝手がいいように心がけている。

「安くはできないけれど、できる限りのサービスは全部やります」

出荷先が増えているのだから、その想いは相手に届いているのだろう。
高野さんが作る花が、求められている証拠である。

また、高野さんには夢がある。
それは、カトレアが祝い事に使われる花になること。

「カトレアが使われるのは99%がお葬式なんですよ。だから収入の安定は取れるんですが、売れるということは、人が亡くなっているということなんですよね。それに対してシンビジュームは、どちらでも使えるんですが、基本的にお祝いの方が多いので。お祝いで使っているから、『よかったわ』という声を貰えることが多いんですよね」

高野さんの作るカトレアは、ほとんどが切り花として出荷される。
切り花を買っていくお花屋さんが「よかったわ」と言っても、それは人が亡くなったことを指す。

「複雑な気持ちになりますよね。だから、将来的にカトレアをお祝いに使って貰えれるようにするのが僕の夢ですね」

カトレアの花言葉は、「魅惑的」「魔力」。
また、「ランの女王」と呼ばれるほどの妖美な魅力を持つ花である。
葬儀の際だけに使われるのは、確かにもったいない気がする。

高野さんの熱意と、カトレアの魅力があれば、祝いの席にカトレアが飾られる日もそう遠くはないはずだ。

 

2018年12月 らくご舎

高野さんのお花を直接買うにはこちらから

オーキッド・タカノ 090-5214-5097