美しい茶畑を眺めながら、古内茶の新茶を味わう。
コロナ禍だって、新茶を祝ってええじゃないか!
「お茶の封を開けるとね、自然の香りがふわっと漂ってきてね。こんなの他のお茶では味わったことないわ!」
「以前から和紅茶のファンで。また買ってきました!」
「某生協で買う他県の産地のお茶よりもおいしい!」
これらは、2020年6月7日に茨城県城里町にて行われた古内茶の「新茶お披露目会」に行った方々の生の声である。
声を弾ませてこんなことを言われては、イベントに行けなかった私としては嬉しいやら(古内茶の良さを知ってくれて)、悲しいやら(イベントに行けなくて)と複雑な感情を抱かずにはいられない。
この「新茶お披露目会」では、4軒の城里町・古内地区のお茶農園を舞台にして、
・古内茶の新茶や和紅茶の試飲
・キッチンカーでほうじ茶の実演販売
・ひたちなか市のパスタ専門店・ジェノヴァさんが古内茶で作った生パスタ販売
・常陸大宮市の焼き菓子AOKIさんの古内茶スイーツ(クッキー)販売
…などなどが行われた。
いわば、プチ「古内茶 庭先カフェ」である。
新型コロナウイルスの影響で、去年から開催されている古内茶のイベント「古内茶 庭先カフェ」が中止と決まったのは3月末から4月にかけての頃。
回数を重ねるごとに人も集まってきて、周知もされてきている感触があり、初音茶の初収穫のニュースなどで注目も集まっていただけに、庭先カフェの中止決定は非常に残念なお知らせであった。
だが、城里町のお茶農家や住人たちは、こんなことではめげなかった。
「感染予防を徹底して、告知も限定的にして、自分たちの力だけで開催すればええじないか!」
と城里町に住む二人の若者(高萩和彦さん、根本樹弥さん)がまず声をあげる。
血気盛んな若者の声に「ええじゃないか!」とお茶の加藤園さんが賛同し新茶お披露目会の開催を決定。
それに呼応して「ええじゃないか!」と高安園さんと時沢園さんが、さらに開催直前に「ええじゃないか!」と鯉渕園さんが参加の意思を表明した。
最終的に4つのお茶農園が共同して、古内茶の「新茶お披露目会」は開催されることになった。
城里町民の気炎は、町外の民衆にも伝わったようで。
「古内茶? 新茶? お披露目会? ええじゃないか! ええじゃないか!」とお披露目会には多くの来場者が押し寄せた。
なお、前述したとおり新型コロナウイルスへの感染予防策として、消毒液を設置し来場者に使ってもらえるようにし、お茶の試飲などは使い捨ての紙コップでするとして物から人への感染を予防。
イベントの告知も関係者の知人友人に声を掛けるなどに留め、遠方からの来場者がないように配慮した。
そうした運営側の努力もあって、当日のお披露目会は大盛況かつノンクレームで幕を下すことができたようだ。
その模様を、イベント発起人の一人であり、庭先カフェを運営するチャレンジしろさとの代表でもある城里町の高萩さんに電話で聞いてみた。
「今回のイベントは、私と根本さんの二人だけで運営を回そうと決めていたんです。それができたのはよかったですね」
イベント運営が二人だけ?!
「できるだけ運営をシンプルにしたかったのです。過去の庭先カフェでは、運営スタッフが忙しすぎて、来場者との交流ができなかったので。イベントに来てくれた人と交流して、古内茶の魅力を伝えなければ意味がないんですよね。イベントを続けていくにはこれではダメだと思い、今回は余計なことをせずに最小限の労力で運営してみました。その結果、お客さんとの交流に時間が割けたのはよかったですね。お茶農家さんもイベント慣れしてきたせいか、余裕を持って来場者とお話ができていたようです」
なるほど、イベント運営の苦労と努力が伝わってくる。
そして、運営者としてのイベント開催の意図も。
来場者には催し物を楽しんでもらうだけではなく、お茶農家を含めた運営側との「交流」が大事という訳か。
「お茶の売上も上々で、参加したお茶農家さんにもメリットがあってよかったです。『また買いたい』と言ってくれるお客さんもいて。古内茶のファンを増やすことができたと思います。目的は達成できましたね」
メリットがあったのは対外的な面だけではなかった。
JA水戸古内茶生産組合に属するお茶農家たちの、対内的な面でも変化の兆しが見えたという。
「古内茶の組合に入っていても、普段はそれぞれのお茶農家がそれぞれに古内茶を生産しているだけなので。今回のイベントを開催して、組合としてお茶農家同士の団結力も生まれたのでは?と思っています」
イベントは成功、しかし、古内茶の将来には大きな問題が残っている。
「後継者不足が問題ですね。現在のお茶農家は70歳前後の方が多いので」
その問題を解決するには?
「単純に外部から人を呼ぶというのが一番の近道ではありますが、なかなか継続できないんですよね。ですから、少し遠回りになりますが、まずは一人でも多くの人に古内茶を知ってもらい、買ってもらうということが重要だと思っています。幸いなことに、古内茶の生産者は城里町の下古内と上古内付近に固まっています。近い距離にお茶農家が集中しているのは、エリアとして認知してもらうことができるので強味になります。産地として一枚岩になることが重要です。それと、古内茶自体の売上がなくては後継者ができても生計が立てられませんので」
古内茶は、茨城県の三大銘茶の一つと言われながらも、猿島茶や奥久慈茶と比べるとまだ認知度が低いのは事実である。
今回のようなイベントを開催することで、古内茶の存在を知ってもらい、買ってもらう。
古内茶を購入することは、お茶の産地を守ることにつながる。
イベントという一つの事象が、実はいろいろな要素につながっているのだ。
「古内茶には歴史と伝統があります。それを維持する仕組みを考えていかなければなりません。行政や外部の人に頼るばかりではなく、城里町に住む私たちでどうにかしないと」
民衆が集まり「ええじゃないか!」と踊り続ければ、一つの地域を救う大きなうねり作り出すことができるかもしれない。
ええじゃないか…茨城弁で言うところの、「いがっぺよ(よかっぺよ)」かな?(あれ?違う?)