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古民家・島家の草を刈る人々

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国の登録有形文化財・島家住宅@茨城県東茨城郡城里町の草刈りボランティアに参加する(2024/7/20)

島家住宅

城里町の古民家・島家住宅

茨城県のほぼ中央……よりちょっと西側にある城里町。水戸黄門に愛されたお茶・古内茶の産地であるこの町に、国登録の有形文化財になっている古民家がある。島家住宅という名のその古民家は、茅葺屋根の木造平屋。建設されたのは江戸時代中期。それが令和の今の世にも残っているのは、有志によって保全・修繕活動が行われているから。島家は町のイベントや学校行事にも活用されるなど、今の時代を生きる人々に、昔の人々の暮らしを伝える重要な存在といえる。

城里町の古内地区地域協議会では、維持管理のために月に一度程度の燻蒸作業を行っている。これには茅の防菌・防虫効果があるという。城里町のお茶イベント「古内茶庭先カフェ」では、イベント会場のひとつとなり、家屋でアート作品の展示が行われたり、お茶が振る舞われたりする。敷地内には古内茶の母木である「初音」が植えられている(清音寺の母木を挿し木して増やしたもの)。2019年には城里町のキャンプ場「ふれあいの里」の主催で、島家の庭でキャンプを行うなどのイベントも開催した。町の予算で、駐車場の整備や看板の設置をしている。

私も庭先カフェの時には、毎度この島家住宅を訪れるが、威風堂々たるその佇まいは雰囲気満点であり、歴史の重みを感じさせてくれる。同時に、島家はちょっとしたファンタジーの世界に誘ってくれる。そう、ちょっとしたファンタジー。トトロとかマイマイ新子とか、ああいうノスタルジー系のアニメの世界に、突如どっぷり入り込ませてくれる存在、とでも表現しようか。

実際に古民家の中に入ってみると、土間があって竈があって囲炉裏があって。遠い昔の日本にタイムスリップしてきたかのよう。居間に上がってみると、天井が低くて裸電球が吊るされていて、縁側からは心地よい風が入ってき、でもその縁側の板も抜け落ちそうなほどに古くて。妖精でも住んでいそうな良い雰囲気である。ちょっと家の奥をのぞいてみると、真っ暗で床が抜け落ちていて、廃墟のよう。こちらは妖怪でも棲んでいそうな雰囲気だ。島家住宅には、そんな不思議な魅力も備わっている、と勝手に思っている。

島家住宅の囲炉裏

島家住宅の奥。破損が多い。

古民家・島家住宅の敷地の草を刈る

その古民家・島家住宅に、今までよりも関われる日がやってきた。

「今度の土曜日、島家住宅の草刈りをやるのですがよかったらどうですか(ボランティアですけど)」

古内地区地域協議会の2代目会長を務める陶芸家の岩野一弘さんからお声がかかった。緑に囲まれた場所にある島家住宅では、年に5回、城里町の有志が集まって草刈のボランティア活動をしている。その活動に、城里町に住んでいない私も参加させてくれるという。これは、何と誉れなことか。

集合時間は朝8時。休みの朝の活動時間としてはちょっと早いが、酷暑の夏に草刈をするにはそれくらい早い時間でないと暑くてやっていられない。当日島家の駐車場に着くと、既に城里町の有志たちが集まっていた。岩野さんにお茶農家の高安さん、古内生まれ古内育ちの会社員Kさん、自然農法農家のNさん。個性豊かな面々である。私が到着した時には既に皆々刈払機を持っていて、やる気満々の様子。というか、暑くなる前にさっさとやってさっさと終わらせたいのだろう。挨拶もそこそこに、草刈が始まった。

私は刈払機を持っていないので、借りることになる。岩野さんが島家の蔵の中からガサゴソと刈払機を取り出して渡してくれた。「刈払機使えますか?」と岩野さん。直前でそれを聞くかと思ったが、まぁ農業をしていた頃に嫌というほど使っていたので「使えます」。じゃあ、このへんとあのへんとあっちのほうとこっちのほうが草刈依頼のエリアとなっているので、お願いします。とざっくりとした説明を受けて私も草を刈り始めた。

この草刈り作業は、町の依頼を受けてやっている。年間でいくらか予算が出ていて、イベント開催の前に草刈をしているらしい。今回は、2024/8/4に開催した「古内どろりんぴっく大会(要は田んぼで泥遊び)」に備えた草刈だった。

島家住宅の敷地内には、お茶の木やら蔵やらと切ってはいけないけれど間違って切ってしまいそうな草刈をする上での障害物があって、それらを避けながらの草刈は神経を遣ってちょっと難儀。けれど、やっているうちに慣れてきて、昔レンコン農家で働いていた杵柄で、右から左、右から左と鋸を振りながら、一歩一歩リズミカルに進み、丁寧に草を刈っていった。つもりだったが、私が草を刈ったあとは、刈った草が散らかってしまいどうにもいかん。あとから、誰だ? このへんの草を刈ったのは。汚いな、雑だな、刈れていないな、とか言われやしないだろうか、とびくびくしながら草を刈る。でも恐れてしまって草刈のスピードが遅くなり、全然進んでないな、誰だこのポンコツを連れてきたのは? と言われるのもまた嫌だから、とか考えているうちに考えるのが面倒くさくなり、こんなもんでいいかな、と良い加減に草を刈った。

そのうち、草を刈るのが気持ちよくなってきて、鼻歌混じりに刈払機を振り回す。額から、腕から、いや身体中から汗が出てくる。汗のにおいをかぎつけたのか、アブが飛んできてまとわりつく。慌ててしゃがみこんで避難する私。アブごときで何やってんだか、なんて思われていようがいまいがどうでも良い。アブの忌々しさに比べたら、そんな非難を受けたってどうってことないからとにかくアブからは避難した。

無事にアブの攻撃を避けきったあと、岩野さんの方を見ると、彼は島家の縁側の前で作業していた。岩野さんが使っている刈払機は、普通のものとは「刃」が違った。それを岩野さんは「ひも」と言った。何やらコードのようなものを金属の刃の代わりに取り付けて、それで草が刈れてしまうらしい。初めて見た。何かやりやすそうだった。

岩野さんが使っていた刈払機。刃の部分がナイロンコードになっている。

島家の草を刈る人々

えっちらほっちら草を刈っていると、いつの間にか時間が経過していて、あっという間に休憩タイム。岩野さんが冷たいお茶やら飴やらを振る舞ってくれた。お茶はもちろん古内茶。水出しだったので冷たくてうまい。飲みながら、有志の方々とおしゃべり。高安さんとはお茶の話をした。

茨城県には古内茶の他に猿島茶や奥久慈茶といったお茶が栽培されているが、古内茶ほど小さなエリアで栽培しているお茶はない。城里町の中の上古内、下古内という極々限られた範囲で栽培しているお茶だから、その地域特有の恩恵を受けられる。山に囲まれ、川が流れ、といった地域のもとで作られたお茶が古内茶。地域密着のお茶だから、古内茶を生産している高安さんもこうして地域の古民家の除草作業を手伝っているし、他にもこの日は来なかったがお茶農家で参加している人もいる。

「前はもっと大勢の人が参加してくれていたんですけどね」と岩野さんがこぼす。「年々人が減っちゃって」だから私を呼んだのですね、岩野さん。岩野さんの目には、私はそんなに暇そうに見えたのだろうか。まぁ、暇だけれど。

休憩を終えて、残りの草刈をやっつける。島家住宅の裏側にまわり、草を刈る。そもそも普段から管理しているからだろうか、草はそんなに伸びていない。地面すれすれに刈払機の刃を這わせるようにして草を刈る。けれど、島家の裏には背の高い篠なんかが生えていて、篠を刈払機でなぎ倒すのは爽快だった。おらっ、おらっと! 篠を刈り払っていると、私のSっ気が存分に刺激された。

10時になると、草刈を終えた。高安さんは「お疲れ様でした」と言ってあっさりと帰っていく。そのあっさりした感じが、この活動に馴れているようで、別段当たり前のことをしているだけだよ、と帰る背中が語っていたように感じた。

ナイロンコード=ひも

帰り際にKさんと岩野さんとで「ひも」の話になる。「これいいですね」と私が岩野さんが使っていた「ひも」仕様の刈払機を指す。私は通常の刃の刈払機を使っていたから、障害物などを避けながら刈るほかなかったが、これならばその心配がなさそう。

「ナイロンコードですよね。うちでも使ってるんだけど、細かいところはやりやすいけれど、石に当たると勢いよく飛ぶから危ないんですよね」とKさん。岩野さんの言う「ひも」の正式名称は「ナイロンコード」らしい。そして、石があってもへちゃらなように見えたが、意外に石は飛ぶらしい。そのため、大きな「ガード」を付けている。

Kさんとは、城里町のイベントで度々お会いしていた。普段は会社勤めをしているのだが、休みの日に町のイベントの運営や活動に参加しているという、地元想いのバイタリティ溢れる人だ。私はKさんとSNSでもつながっていて、SNS上で知る限りでは、いろんな本を読んでいる博識な方という印象だった。

トラクターのアタッチメントのように通常の刃と交換できる

「ひも」については岩野さんが事細かく説明してくれた。ナイロンコード(別称:ひも)には形状がいろいろとあり、丸型、角型、ギザギザのものなどがある。また、コードの厚みにも種類があり、仕組みも自動でコードが繰り出されるもの、差し込んで使用するものなどあるという。(なんでこの人は陶芸家なのに草刈機についてここまで詳しいんだろうか)という疑問をそのまま言葉に出して岩野さんに聞いてみた。「あははは、まぁ、やっているうちに自然とね」みたいな返事をされたが、普通ここまで探究しないだろうと思った。こういう追求する姿勢に「陶芸家」らしさが垣間見えた。

そのあとに、農家のNさんと少し喋る。NさんとはSNSでフォローし合っている仲で、存在は知っていたがこのように会って話すのは初めてだった。Nさんは他県から城里町に移住してきて、自然農法でいろいろな野菜を作っている。その傍ら、ブログもやっていて私もそのブログをちらほらとのぞいていた。

「最近、アフィリエイトの収入が下がっちゃってさ」とNさん。

「ああ、何か仕組みが変わったみたいですよね」と私は答えたものの、もともとアフィリエイトの収入なんて月に百円程度のものだから、そんなに気にはなっていなかった。

「前は月に数千円あったのにな~。ガクンと下がったよ」

Nさんは私より遥か格上のブロガーだったようだ。それを聞いて「すごいっすね!」と驚く私。6年くらいブログをやっているが、そんな収益を上げたことはない。

「まあ、10年やっていたからね」

あと4年やればこのブログもそんなに稼げるようになるのだろうか(ならなそう)。「いつか私のブログでNさんを取り上げさせてくださいよ」と取材アポを取り付けようとするも「もう少し落ち着いたらね」とNさんに逃げられた。

その頃、島家の中では他の方々が障子の張り替え(これもボランティア!)作業をしていた。後から町の議員さんも来て、おしゃべりしながら昼まで過ごす。昼になるとボランティアの人たちと島家の居間で一緒にお弁当を食べた。お弁当は城里町の「ご飯やさん寧々」に特別に作ってもらったお弁当だった。お弁当を食べ終えると、私は「それではお先に」と島家を後にした。

城里町の食堂「ご飯やさん寧々」の特製弁当(通常お弁当はやっていない)

この日、今まで何となく眺めてきた古民家・島家住宅が、様々な人の関わりがあって今日まで倒壊せずに存在できていることを知った。同時に、普段何気なく接していた岩野さんや高安さん、Kさん、Nさんらが地域のために、島家住宅というこの古民家のために、様々な活動をしていることも知った。

地域と古民家と人々の強いつながりが見えた。

それはきっと「ひも」よりももっと太くて強いものでつながっているんだろうな。

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古内地区地域協議会
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陶芸家・岩野一弘さん
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