茨城県随一のイワウチワの群生地には、
想像以上のメルヘン&ファンタジーが待っていた(登山日:2021/4/3)
★イワウチワに逢いたくて
イワウチワ(和名:岩団扇)。花言葉は「春の使者。適応力」。
団扇のようにまあるい葉をたずさえて、薄紅色の小さく可憐な花びらを咲かせるこの花は、日本の固有種であり、中国地方以北の山地帯に生息する。
地域によっては、レッドリスト(絶滅の恐れがあるとされる野生生物)に指定されていて、私の住む茨城県でも危急種(野生絶滅の危険性が高い)に「イワウチワ」の名が挙がっている。
イワウチワの群生地には、以前に一度行ったことがあるが、シーズン前だったのでその姿をこの目で見たことはなかった。
山野草にそれほど興味はないのだが、SNSなどで「イワウチワ」と調べてみると、ピンク色の小さく可愛らしい花が画面いっぱいに広がっている写真が、あちこちに上げられていた。
ああ、なんか、素敵♪
おっさんの私ではあるが、乙女心の欠片くらいは持ち合わせている。
その欠片に、火がついた。
イワウチワを、見に行こう!
イワウチワの群生が見られる山が茨城県にもいくつかあって、今回はその中のひとつ、高萩市にある「横根山」に仕事関係の方々と行くことになった。
それから、横根山山行の日を今か今かと待ちわびながら日々を過ごす。
いよいよあと三日に迫った日の晩、母が突然救急車で病院に運ばれた。
血圧が急激に上がったのだという。
仕事帰りに病院に駆けつけると、母は検査中であった。
私は待合室で、姉とともに母の帰還を待つ。
夜の病院の、しかも救急外来の、待合室というものは実に嫌なものだった。
その容態がどのようなものかまったく想像できないから、不安でたまらない。
「そういえば、7年前に父が亡くなった時もこの季節だったね」
なんて、姉が縁起でもないことを言う。
まったく、なんてことを言う姉だ、と思いはしたが、それは確かな事実でもあったので「そうだったね」と言葉を返すに留めた。
私の父は脳梗塞で7年前に亡くなっていた。
父の入院先と亡くなった場所は、母が担ぎ込まれた病院と同じであった。
そんなことを考えてしまうと、余計に不安になる。
まぁ、近所の大きな病院だから、当然といえば当然なのだけれど。
母の検査を待ちながら、イワウチワのことを思いだした。
救急車で運ばれるような状態なのだから、きっとこのまま入院することになるのだろう。
姉もそのつもりで、入院の準備(着替え)などを既に持ってきている。
入院となれば、イワウチワどころではない。
その場で、「山に行けなくなった」と山仲間のHに連絡を送ろうかと思い、文章を作り上げた頃に、診察室のドアが開いた。
「ご家族の方ですか?どうぞ」
診察結果は果たして。
「特に異常はありません」
その結果を聞き、胸をなでおろした。
けれども、完全に安心できるものではない。
母は既に高齢であるし、救急車を呼ぶくらいに血圧が上昇したのは事実。
やはり、私は山になど行けそうにないだろう。
そう判断して、Hには「かくかくしかじかの事情で、山には行けなくなった。楽しんできてくれ」とLINEを送った。
イワウチワには会いたかったが、事情が事情だから仕方がない。
諦めもつく……はずだった。
今回の山行は、6名ほどの大所帯。
普段から参加しているメンバーであれば問題はないのだが、今回から初参加の人が2名いた。
そのハブ役が私であった。
山に行けなくても、連絡は取り合って山行の段取りをまとめねばならない。
やり取りをしていたら、やっぱり山に行きたくなる。
母の容態は、すっかり良かった。
血圧上昇の原因は、仕事のストレスにあったと思われる。
もう働かなくてもいい歳なのに、仕事を2本も抱えていた(医療系)ので、そのうちのキツイ方は辞めるということになった。
それからの母は、至って元気そのものであった。
山行日の前日に、イワウチワに会うために横根山へ行くことに決めた。
★横根山
● 標高:388m
● 今回のコース:花貫さくら公園駐車場(スタート)→ イワウチワ群生地 → 分岐 → 横根山頂上 → 沢尻湿原(水芭蕉)→ 花貫さくら公園駐車場(ゴール)
● コースタイム : 3時間くらい?(写真を撮りながらゆっくり歩いて)
● 特徴 : イワウチワの群生(県内トップクラス)、沢尻湿原の水芭蕉、コース自体は勾配が急
★春の山、花の山
横根山の急な山道を上っていると、突然その群れは現れた。
イワウチワだ。
うわ、ちっちゃい! かわいい! いっぱいある!
私のテンションは上がった。
しかも、その先しばらくは登山道沿いにイワウチワの群生が続いていた。
何とも可愛らしいイワウチワ。
そして、その群生して咲いている姿は、ここはおとぎの国かと見まごうほどに幻想的だった。
あまりに興奮して、私の血圧が上がりすぎてしまわぬかと心配になる。
イワウチワ以外にも、横根山には春を知らせる花々が咲いていた。
つつじ、つばき、桜、そして、何と水芭蕉の姿も。
春がやってきた。
山に行くと、花々がそれを教えてくれた。
そして、山から帰って。
へっくし!
私の鼻も、春をきちんと感じ取っているようだ。
(杉花粉は終わったはずだよな…)