山菜の女王・コシアブラを求めて、八溝山地へ(取材日:2021/4/25)
★コシアブラ、ああコシアブラ、コシアブラ
去年はH氏とそのご両親と一緒にコシアブラを採りに行き、大変良い思いをさせてもらった。
その上品な苦味を、今年も味わいたいと思い、山に出かけることになった。
だが。
「Kちゃん(私のこと)、今年はだいぶ伸びるの早いわぁ。もう遅いかもよ~」
友人H氏のかーちゃんが、そんなことを言っていた。
暖かい日が続いたせいか、今年はコシアブラの生長が早いらしい。
でも、なるべく北の方に行けばまだ採れるかもしれない。
去年のようにたくさんは採れなくても、少しばかりは採れるかもしれない。
むしろ、北の方は気温が低いから採れごろかもしれない。
というか、もはや採れなくてもいいからコシアブラを採りに山に行きたい。
「山菜採り」という行為がしたい。
とにかく、山へ行かねば始まらない。
諦めと期待を胸に抱き、八溝山地へ向けて車を走らせた。
現地へ着き、車から降りると少しばかりひんやりとする。
これはいけるかもしれない、と期待が膨らむ。
H氏が先頭を切って山へ入る。
山といっても、登山道はない。
道なき道を、しかも草木が生い茂る急な斜面を突き進まねばコシアブラにはありつけない。
私もH氏のあとを追う。
だが、今年はツレと子どもを連れてきていて、途中で傾斜がきつくなったので、断念することにした。
頼むぞ、H氏……!
H氏に望みを託し、私は子どもを連れてゆるやかな道を散歩しにいった。
林道近くのゆるやかな斜面には、コシアブラは見当たらない。
私としてはつまらないが、子どもたちにとって道なき道をゆくスリルは、楽しい行為のようで。
「ゆるやかな斜面」と書いたが、それでも場所によっては草木を手で掴まねば登れないほどの急斜面である。
前述したように道などないから、足場の良いところを探して歩かねばならない。
子どもたちにとって、こんな場所を訪れる機会はそうそうないだろう。
ふと、足を止めて辺りを見回すと、草木は自然のままに生え、水は自然のままに流れている。
人の手が入っていない本当の自然の世界が広がっていた。
この感じは、登山では味わえない。
目当てのコシアブラが採れなくても、子どもにこの体験をさせてあげられただけで、よしとするか。
しばらくして、H氏がこちらへやってきた。
手に持った袋には、たんまりとコシアブラが……入っていない。
袋の中には、3つ4つのコシアブラの新芽が申し訳なさそうに入っていた。
ちょうどその時、雨がぽつりぽつりと降ってきた。
本日の天気は、午後から雨。
これから本格的に降り出すのだろう。
今年はコシアブラを諦めて、帰宅することにした。
駐車場で帰り支度をしていると、山菜採りに山に入っていたおじさんが帰ってきた。
ぱんぱんに膨れ上がった大きな袋を手に提げている。
何が採れたんですか?
と聞くと、「わらびだよ」と言って袋の中を見せてくれた。
中には大量のわらびが入っていた。
おー。
思わず声を上げる。
コシアブラがこれだけ採れたら、さぞ良かっただろうに。
うちらはこれしか採れなくて。
と、私たちの戦果を告げる。
じゃあ、これ持って行け。
おじさんたちは、ついでに採れたというタラの芽を分けてくれた。
じゃあ、ご飯でも食べて帰るか。
意気消沈した私たちは、コシアブラへの想いだけを乗せて山から立ち去った。
大子町で醤家ラーメンを食べた後、H氏を家まで送った。
H氏の家に着くなり、H氏のかーちゃんが出迎えてくれた。
「どうだったー?」
「全然採れませんでした……」
「だろー? Kちゃんこれ持ってけー!」
わー!
思わず声を上げる。
かーちゃんが差し出した袋の中には、大量のコシアブラがあった。
山菜ハイキングのお供に
ヤマケイ文庫 山菜&きのこ採り入門 (Kindle版)
コシアブラとは(Wikiより抜粋)
<木の生態>
樹高:7~10m、中には20mに達するものも。
枝・木肌は灰白色。
葉は掌状複葉、5枚の小葉で長さ10-20㎝の葉柄を持つ。
冷温帯林に生息。
日当たりの良い明るい斜面に多い。
<山菜としてのコシアブラ>
春先に伸びる独特の香りを持つ新芽は食用となり、山菜として扱われる。
食用とする場合は、まだそれほど伸びていない芽を摘み取り、ハカマの部分を除いたものを調理する。
肥沃な土地にあるものは、太いだけでなく養分が多く美味。
強い苦みがあるため、苦みを和らげる天ぷらにすると食べやすい。
他、おひたし・和え物などでも調理され、塩漬けにすると保存食にもなる。