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城里町の高萩さん Vol.21

ヒト取材記
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カメラと里芋と夜の畑(取材日:2021/12/4)

日が沈むまで里芋の引っ越し作業!

今回のお手伝いは里芋の引っ越し!

高萩さんが里芋の掘り起し準備をしている様を、カメラで撮ろうとしたその時であった。

右手に何か冷たさを感じた。見てみると、それは水であった。はて、今日は雨は降っていないはずだが、と最初は呑気に思ったものだが、次の瞬間「はっ」とした。

作業の邪魔になるからと思い、束ねられたマルチの上にカメラを置いていた。関東地方では2、3日前の朝方に大雨が降り、日の当たらぬ場所は未だその雨水が捌けていない。マルチの上にも水が溜まっていたのだろう。

しまった、やってしまった!

カメラがその水を浴びてしまったのだ。10年前に買ってからずっと使い続けていた愛機・Canon EOS Kiss X5は、電源を入れても作動しない状態に。

「商売道具が…大丈夫ですか?」と、心配してくれる高萩さんに、
「大丈夫です!乾燥させれば直ります!以前にもこういうことあったので!」と気丈に返したが、内心は心配でたまらない。反面、10年も使ってきたし、性能的にもそろそろ替え時と考えていたので、潮時かもしれないとも思った。

マルチを破く高萩さん

ってな感じで、久々の高萩さんちの農作業お手伝いは、波乱の幕開けであった。

この日は生活クラブ生協用に出荷する里芋の引っ越し作業。引っ越し作業って何やねん!と思うことだろうが、私も書いていて何やねん!その言葉で適切か?と思った。

説明すると、高萩さんちの里芋は既に育ちきった状態で、このまま植えたままにしておくと霜害にやられて腐ってしまう。だから、一度掘り起こして、土に埋めてマルチを被せて暖を取って保管する、という作業である。出荷の際には、その都度土から掘り起こす。自然を生かした野菜の一時保管所への引っ越し作業という訳である。

掘り起こした里芋。無農薬栽培でほとんど肥料も与えていないが立派に育っている。

高萩さんちの里芋は、無農薬栽培。肥料もほとんど入れていない(鶏糞くらい)というから、自然農法に近い。有機農法というと安心・安全で環境にも優しくておいしい!というように私たちは刷り込まれているが、いくら有機とはいえ肥料の与えすぎは良くないという。

「有機肥料でも入れすぎたら土を汚しますし、おいしくもないです。虫害も出やすくなります」

なるほど、何事もバランスが大事な訳ですな。

さて、この日の作業に移る。
まずは里芋をスコップで掘り起こす。私と高萩さんは植えられた里芋を挟み込むように陣取って、双方からスコップを差し込みテコの原理でぼこっ!と里芋を掘り起こす。共同作業である(照れ)。

管理機で保存用の穴を掘る高萩さん。

里芋保存場所。

その後は高萩さんが前もって掘っておいた穴にこの里芋を移動する。言葉にすると2、3行で終わるのだが、これが重労働である!里芋ってかなり重い。土が根に付いているからってのもあるが、大きな株は親芋・子芋・孫芋と連なっているから、よいしょ!と両足を踏ん張って持ち上げないとならないくらいに重い。一個や二個ならまだしも、それが何十も数があるから、腰にくるし足にもくる(踏ん張るから)。加えて運動不足だから腹にもくる。

「デスクワークばかりだと運動不足だと思って、ぴったりの仕事を用意しておきましたよ」

高萩さんはどうやら私のためを思ってこの作業を用意してくれていたようだが、あまりの辛さにありがたいのか迷惑なのかわからなくなった。作業開始が14時過ぎと遅かったこともあり、里芋の引っ越しは17時半までかかった。

12月だから、作業が終了した時は辺りは真っ暗。高萩さんちは城里町の中でも家が多い地区にあるが、それでも畑に出るとほとんど明かりがない。空を見上げると満点の星空。寒い季節は空気が澄んでいて星の輝きが増している。はぁーと溜息と深呼吸を混ぜたような息を吐くと、ほわっと白く煙が出た。

夜の畑

昔に農業をやっていた頃を思い出した。冬の寒い中で暗くなるまで作業をした後に見る、夜の畑。
畑だから当然明かりがなくて真っ暗だけれど、何故だか全然怖くなくて。
怖さを感じる余裕もないくらい疲れていたから? それとも今までそこで作業をしていたからそこに何があるか予想できるから?はたまた、自然(といっても畑は人工物だけれど)が作り出すのは、怖いものもたくさんあるけれど時としてすごく優しく感じさせてくれる?

そしてまた、中学時代の部活動を思い出した。
私は野球部に所属していたが、冬場は暗くなるのが早いからボールを使った練習はあまりできない。
その代り、日が沈むまで走り込みをした。部活が終わった時には、走っていたから当然息が切れていて、はっはっと白く煙を出す。グラウンドの明かりを消すと、職員室と駐車場の明かり以外は周囲になくなり、真っ暗になった校庭を歩く。一日を終えた安堵から、とても穏やかな気持ちだった。黒という色は、危険で怖いイメージがあるが、実はとても優しいものなのかもしれない。

この日、城里町の高萩さんの畑で感じたものは、当時に感じたものととてもよく似ていた。
それは、何だかとても大事なもののような気がして、カメラで撮影しておかねばと思った。
その時、失ったものの大切さが身に染みた(結局スマホで撮影した)。

最近の高萩さん(プチ・インタビュー)

城里町の高萩さん

8月31日の野菜の日にオープンした「やさいの駅」はその後順調でしょうか?

「実はここ最近売上が思わしくなくて」

ええっ! そうなんですか?

「はい。最初は順調だったんですけど。11月になって来客数が減ってしまいました」

まぁ、でも最初からうまくいくなんてなかなかありませんよー(下手な慰め)。

「新聞などでも取り上げてもらって、最初は興味本位で来てくれた人もいたんですが」

リピートしなかったんですね。

「課題が二つあると思っていまして。1つは近所の人を近寄りやすくしないといけない。地域の人とのコミュニケーション不足がまだ足りていないんでしょうね。だから、見知らぬ人でもやさいの駅を見て入りやすくする工夫が必要だと思いました」

なるほど、さっきやさいの駅の前を通りましたが、のぼりがありましたね。

「のぼりの他にも看板も置きました(笑)。もう一つの原因と課題は、品ぞろえが単純だから飽きられた。リピーターになってもらえるように工夫しないといけませんね」

ファン作りって、言葉にするのは簡単ですが、実現するのはけっこう難しいですよね。

「城里町は野菜をたくさん作っている地域だから、面白そうな野菜がないと目を引かないんです。マコモを置いていた時は売上も良かったので」

そのあたりの人間の消費行動心理は、田舎も都会も同じなのかも。

「それでも近所のおばあちゃんが『あなたの作る野菜は味が違うわ』と言ってくれて。嬉しかったですね」

ゆっくりとかもしれませんが、継続していれば広がっていくと思いますよ!

「はい! 実はこの『やさいの駅』、城里町内に新しく2店舗できまして。一つは根本樹弥さんの『小勝駅』、そしてもう一つできた『春園駅』は有人の駅舎なんです。『春園駅』は畑と直売所が一緒になっています」

おお!既に広がっているとは!

「そもそもこのやさいの駅は『社会実験』という位置づけだったんです。原点に戻ってやってみようと思います!」