日立アルプスを歩く① 爺の魅力(登山日:2022/1/16)
違和感
(なんかイメージと違うんだよな)
風神山(標高241.9m)から真弓山(真弓神社:標高265m)へ向かう尾根道を歩いていて、違和感を覚えた。
この日は今年最初のハイキング。過去に登った山で、お手軽な山はないかと探していた。すると、ちょうどよい山が思い浮かんだ。その山からは海が見えて、とても低い山で日立市にあって、広々とした頂上で見晴が良くてゴンドラが宙に浮かんでいて……。
「日立市の低山で海が見える」ここまでは風神山が当てはまっていた。だが、「ゴンドラが宙に浮かんで」いない。風神山の頂上は広い方ではあるが「見晴しはよく」ない。
はて、私が思い描いていた山と風神山は違うのか。と、歩きながら思案していたところ、ふと思い出した。
(あ、あれは助川山(標高327m)だった)
新年早々、とんだ「お山」違いをした。
違和感が消えた後は、低山縦走を楽しんだ。風神山~真弓山の縦走も過去にしたことはあるが、今から6年も前の話であまり覚えていないから、初めてのようなものである。起伏も激しくないし、危険なところもないから、ゆったりのんびりと歩くにはちょうどよい。当初予定していた山とは違ったが、内容的にはさほど違いはなく(助川山~高鈴山もゆるやかな縦走路)、結果的には狙い通りの山を選んだことになる。
さて、真弓山の「真弓神社」が目と鼻の先のところまできた。今日のランチはバーナーで湯を沸かしてカップラーメンの予定だったから、神社でそれをするのもどうかと思い、神社手前の第三鳥居あたりで昼食を摂ることにした。そこもそこで、日が当たらなくて展望もない場所だったから、「昼食にぴったり」ではなかったが。
カップラーメンをすすっていると、一人の登山者が声をかけてきた。
「なんでこんな場所で食べているの? 少し歩けば見晴台があるし、それか山頂の神社あたりで食べた方が気持ちいいでしょ」
その人は男性であることはわかったが、ニット帽とマスクをしていたから年齢まではわからない……が、たぶん私よりも年上の「おじさん」であることは感じ取れた。
「さっき見晴台を探しに行ったんですけど、なかなか辿りつかないから途中で引き返してきちゃいました(笑)」
第三鳥居のすぐそばに標識があって、500mとちょっと歩けば見晴台があると書かれていた。
「見晴台」なんて、山のランチにぴったりの場所ではないか!と思いそこを目指して歩いたが、歩いても歩いても辿りつかない。体感で500mは歩いたつもりが、先を見ても下り坂になっていて一向に見晴台らしきものがありそうになかったから、引き返してしまったのだ。
「ここじゃ日が当たらないから寒いでしょうに。見晴台ならここから15分も歩けば着くよ」
おじさんが教えてくれた。
見晴台はもう少し歩けば到着していたのか。
なかなか親切なおじさんである。
「ありがとうございます。次登った時はそっちで食べます」
「爺杉には行ったの?」
「いいえ」
「爺杉もここからすぐだから行ってみなよ」
そう言うと、おじさんは真弓神社の方に歩いて行った。
カップラーメンを食べ終えると、私たちも真弓神社へ向かった。
真弓神社には、先ほどのおじさんがいた。神社の管理をしている人と何やら話している。おじさんは、この山の常連なのだろう。
私たちが神社でお参りすると、おじさんはまた話しかけてきた。おじさんはマスクとニット帽を外していた。頭は白髪で、顔のしわも「おじさん」いうよりは「おじいさん」という感じだった。
「どこから登ってきたの?」
「風神山からです」
「そう。4月くらいには縦走路を少し逸れたところにニリンソウがたくさん咲いてきれいなんだよ」
「へぇ!(ニリンソウってなんだ?)じゃあ、春にまた来てみますよー」
「他にもね……」
と「おじいさん」の話はなかなか止まらなかった。
おじいさんはよほどこの山を歩いているのだろう。季節ごとに歩き、季節ごとの真弓山と風神山を知っているのだろう。いや、ひょっとしたら毎日の散歩コースになっているのかもしれない。この山を歩き尽くし、知り尽くした人なのかもしれない。途中にあった手書きの標識はおじさんが作ったものかもしれない。
いわば、この山の主のような人だ。
歩きながら、きっとゴミ拾いなどもしているんだろうな。私たちのような初心者に声をかけ、山の魅力を発信しているんだろうな。
おじいさんはきっとこんなヒトだろう、と想像しながら爺杉を見に行く。爺杉も一度見たことはあって、風神山・真弓山の登山道は記憶に残っていなかったが、爺杉の記憶は残っていた。それだけのインパクトのある木だった。そして、この日再び見た爺杉は、やはり素晴らしかった。
まず、爺杉の周囲の雰囲気がよい。神社付近から少し下った場所にあるのだが、辺りが木々に囲まれていて薄暗く、幽玄な空気を醸し出している。その中央にそびえたつ爺杉の姿が、実に勇ましい。推定樹齢940年だから、10世紀近くも生きてきたことになる。
この爺杉を見て、先ほどのおじいさんを思い出した。歳を重ねたからこそ出る魅力というものがある。爺杉もおじいさんも、その魅力に満ちていた。もしかしたら、おじいさんは爺杉の精霊だったのかも……なんてファンタジーな妄想にふける。
爺杉を見終えて、下山するのに今まで歩いてきた道を戻る。途中、大型自動車用の車道があり、そこから1台のワンボックスカーが出てきた。
ワンボックスカーに乗っていたのは、先ほどのおじいさん?!。
(なんかイメージと違うんだよな)
再び、違和感を覚えた。
風神山~真弓山
標高:風神山(241.9m)、真弓山(真弓神社:265m)
コースタイム:往復3時間
駐車場:風神山自然公園にあります。