2024年11月10日、秋の曇り空の下、茨城県東茨城郡城里町で開催された「第9回 古内茶庭先カフェ」。
「古内茶庭先カフェ」は、水戸黄門ゆかりのお茶であり、茨城県3大銘茶のひとつである「古内茶」の産地、城里町の上古内地区・下古内地区のお茶農家の庭先で、お茶を飲んでマッタリしたり、出店であれこれと食べたり、いろいろな体験をしたり、辺りを散歩したりするという、何とも長閑なイベントである(ここまでほぼテンプレ)。
今回の会場は10か所。お茶農家の庭先、民家(宮司)の庭先、古民家の庭先&飲食店が会場となって、お茶の里の秋に、ほのかな賑わいをもたらした。
第9回 古内茶庭先カフェの会場一覧
ふぉれすたーずりびんぐ … 米粉のシフォンケーキの販売
ご飯屋さん寧々 … 通常メニュー以外に、きのこの混ぜごはん、牛すじカレー、野菜の販売
高安園 … 野菜販売、キッチンカー(ラーメン)出店
加藤園茶畑 … 特設展望台、縄編みワークショップ
初梅園 … いも山商店の出店、新米・青パパイヤの販売
時沢園 … mog mog mamaの出店(丼もの、スイーツ、ドリンクの販売)、山野草・野菜販売、昭和時代の小物展示
大坪園 … 新米・野菜の販売、かまど調理のサツマイモ等の試食・販売、小物雑貨販売、陶芸ワークショップ(角田智高さん)
鯉渕晴人宅 … まつぼっくりの出店(手作り雑貨・布小物)、ひろせのお菓子販売
一茶園&古内和紅茶研究会 … 緑茶・紅茶の試飲販売
島家住宅 … cafeいちごや、雑貨DOOKIE&FRUTASの出店、ほうじ茶作り体験、水戸黄門御老公道中記の演劇(縁団☆水戸黄門)、中学生と地元陶芸家による陶芸作品の展示販売
主催:茨城県・城里町・古内茶庭先カフェ実行委員会
後援:城里町 協力:城里町立常北小学校・茨城県立水戸桜ノ牧高等学校常北校
歩いて巡る、古内の庭先
今回の古内茶庭先カフェでは、旧古内小学校跡が駐車場として使用できたのは良い点だった。約50台が停められるキャパシティがある上に、位置的にイベントエリアの端の方にあるため、庭先をぐるっと歩いてまわる人には起点となって良い場所だったと思う。
今回はこの駐車場を利用して、8つの庭先を歩いてきた。旧古内小学校跡からスタートして、各庭先を巡りながら県道51号沿いを歩き、島家住宅まで(2.2㎞)。帰りはウォーキングルート(田んぼや茶畑に挟まれた農道)を歩いて駐車場に戻った(3.2㎞)。歩くだけならば1時間とちょっとのコースだけれど、各庭先で飲み食いや生産者と交流したので約4時間かかってしまった。
茶の里の景色を楽しみながら歩き、立ち寄った庭先で人と話し、茶を飲んで、菓子を食べ、売り物を物色。そしてまた、次の場所へ歩く。古内という地域を存分に味わえる、気持ちの良い秋の散歩になった。
スポンサーリンク庭先1 高安園
県道61号沿いにある高安園。日頃から古内茶を栽培・製造・販売していて、店内にはお茶飲みスペースがあってお茶の試飲もできる。普段のお店では高安さんの奥様とお母さまが対応してくれる。お茶やお茶請けを出してくれてのんびりお話もできて、まるで常時・庭先カフェを実施しているような感じだ。
庭先カフェの日の高安園は、ラーメン店のキッチンカーが出店し、お茶や野菜を販売。店先に設置された飲食スペースでは、大勢の人がくつろいでいた。
庭先2 加藤園茶畑
古内茶庭先カフェのレギュラーであったお茶農家の加藤秀仁さんは、第9回は出店おやすみ。その代わり、縄編みワークショップと茶畑に手作り展望台を設置し、高いところから茶畑を見渡すというちょっと面白い試みをしていた。
私が訪れた時には、ふぉれすたーずりびんぐの井出さんと、城里町の農家であり古内地区地域協議会の高萩和彦さん(城里町の高萩さん)がちょうどこの場にいて、展望台を案内してくれた。
「展望台」は、軽トラックの荷台に農機を載せて高さを出したもので、手作り感満載。梯子を使って農機の上に乗ると、そこから加藤さんの茶畑を見渡せた。普段は見慣れない角度からの茶畑の風景が、訪れた人の目を楽しませていた。
庭先3 初梅園
初梅園では「いも山商店」さんが出店し、つぼ焼き芋を販売。いも山さんは横浜出身で、横浜と茨城を行ったり来たりしながら焼き芋を販売している方だ。他にも農業学校で農作業をしたり、絵を描いたり、ワークショップをしたりとパワフルな活動をしている若き乙女だった。(若いってすばらしいな)と感じ入る。
私は焼き芋を購入し、椅子に座って食べていると、別のブースで青パパイヤ茶を販売しているのを見つけ、これも試飲して案外(失礼)おいしかったので粉末茶を購入した。青パパイヤはたくさんの酵素があって、美容と健康に良いとされる近年注目の野菜。茨城県で青パパイヤといえば、那珂市の「やぎぬま農園」が有名だが、城里町でも作っているとは(驚き)。
庭先4 時沢園
時沢園ではmog mog mamaの出店、山野草や野菜の販売をしていた。前回販売していた巨大松ぼっくりは、今回も販売。加えて、昔懐かしい昭和レトロな生活用品の展示も実施。私が展示品を撮影していたら、時沢園の方がやってきてその品々を紹介してくれた。
「これは綿を作る道具でね」「つくば万博の時に御巣鷹山の日航機墜落事故があってね」とか。今は日常では使われなくなったものたち。私が使っているCanonの一眼レフデジタルカメラ(EOS8000D)も、家で使っているPanasonicのノーパソ(Let’s note CF-SX3)も、デスクトップPC(DELL OPTIPLEX 3020)も、もうしばらくするとそんな扱いになるのかしらん。
時沢園の交通整備をしていたのは、時沢園の娘さんのお婿さんとその子どもたち。普段は近隣の件で農業をしているとか。大根を購入すると「お買い上げありがとうございます!」と元気の良いお礼を言われた。親族総出で、このイベントを盛り上げようとしているのが伝わってきて、なおかつ、みなさん楽しみながらやっている様子だったので、こちらも楽しくなった。
庭先5 大坪園
古内茶生産組合の組合長である大坪さんの庭先では、新米やお芋の試食販売と手作り雑貨の販売、陶芸ワークショップを開催。可愛らしい手作り看板があちこちにあって、こちらも親族が協力しあってイベントに参加している様子で好感が持てた。
新米は1㎏600円。令和の米騒動中であっても、それほど高くはない? このお米は大坪さんの田んぼで採れたものだ。
普段は大子町でりんご農家をしている陶芸ワークショップの角田さんは、今回も参加。ほわんとしたやさしい雰囲気を持った人で、以前にここで購入した茶碗は、家で私のごはん茶碗となって活躍中。
大坪園の庭先では、花瓶などの手作り雑貨も販売。前回は初音ミ〇を模したオブジェを飾っていたが、今回はついに「販売」するようになったか。
庭先6 鯉渕晴人宅(鹿島神社)
古内茶の茶畑風景を見渡すならやはりここ。高台にあるため、上から茶畑を眺めることができる。お茶うけに出されたお菓子もおいしかったが、出店していた「ひろせ」のお菓子もまたおいしかった。
宮司である鯉渕晴人さんは、この日は正装してみなさんをお出迎え。鯉渕さんのご先祖様・鯉渕要人(かなめ)は、文武に優れた方で尊王攘夷の志を強く持ったお方であったそう。なんと、桜田門外の変にも参加していたという話は、家に帰ってからネットで調べてわかったことだ。
庭先7 一茶園&古内和紅茶研究会
城里町の地域おこし協力隊出身の一丸さんによる「オリジナル和紅茶ブレンド体験」は、一丸さんが体調不良のため中止に。お母さま?と思わしき人が、あれこれと説明をしてくれた。
ジャスミン和紅茶、アールグレイ、さやまかおり、燻紅(いぶしべに)の4種の和紅茶と在来種の和紅茶を販売。緑茶向けの品種から作られる紅茶は、旨味がありまろやかですっきりした味わいが特徴とのこと。一丸さんの和紅茶は、農薬を使用せずに栽培した茶葉から紅茶を製造している。日本茶ばかり飲んでいたので、ここで飲んだ紅茶の味は箸休め的存在になった。
庭先8 島家住宅
国登録の有形文化財・島家住宅では、様々な催し物が。cafeいちごやさんでは古内茶を使ったスイーツなどを販売。DOOKIE&FRUTASさんはアメリカンな雑貨販売。隣のCalicoさんはハンドメイドのアクセサリーを販売。地元中学生が作った陶芸作品は、ジブリ系のキャラクターの作品があって、ラピュタのロボット作品に思わず手が伸びそうになったが、ひっこめておいた。
古内地区地域協議会の陶芸家・岩野さんも、一緒に陶芸作品を展示販売。レンコンの形をした陶器が飛び切りキュートで思わず購入した。この野菜陶器シリーズはいいっすよ、かわいいっすよ、売れますよ、岩野さん。
他にも水戸黄門の劇あり(水戸藩ラーメンの娘。地元出身の俳優さんが出演)、ほうじ茶作り体験あり、など。普段は静かな古民家の庭先が、たくさんの人でにぎわった。
古内茶庭先カフェ 運営者から開催を終えて
高萩和彦さん(古内地区地域協議会・農家)
今回の庭先カフェですが、来場者は述べ人数1250人くらいで6月開催に比べて半分くらい、前年11月開催と比べて若干の減少となりました。全体的には、関係者も来場者の方もゆったりした時間を過ごせたのではないかと思います。
初開催の縄編み体験や展望台も好評でした。より茶の里を感じてもらえたのではないかと思います。
また、前回は駐車場の確保が課題となっていましたが、今回は旧古内小を開放して安全に停められる場所を確保しました。そのため駐車トラブルなどもなく、安全に出入りしてもらうことができました。
秋開催の庭先カフェについては、大体の規模感を把握することができてきました。今後はこの規模感の中で、いかに内容を充実させていくかを考えたいと思います。
また、今回も水戸のお菓子屋さんが初出店してくれたり、古内地区の移住者の方が焼き芋を販売してくれたり、新たな協力者が増えました。このような方々の力もお借りして、より魅力を高めていけたらと思います。
岩野一弘さん(古内地区地域協議会・陶芸家)
第9回古内茶庭先カフェが終わりました。目まぐるしい一日でした。何日か前から天気予報とにらめっこを続けて、前日時点でかろうじて曇りで雨は降らないとの予報でほっとしたのもつかの間。
朝、水戸黄門劇団の滑川さんから「水戸は雨が少し降ってきました。そちらは大丈夫ですか?」と電話が入り嫌な予感が。今回、島家では例年会場間を練り歩いていた黄門様が地元の常北小児童と一緒に演劇をやる予定になっていましたが、雨だと中止にせざるを得ません。
その後実際に少しだけ地面が湿った瞬間もありましたが、かろうじて持ち直して、無事水戸黄門の演劇を上演する事が出来ました。庭先カフェで演劇をやったのは初めての試みで、お昼から30分間のみの上演でしたが、大変好評でした。
私達古内地区地域協議会が担当する島家では今回、お茶のふるまいはありません。島家は茶園でない事、また、お茶の淹れ方に慣れた方が毎回配置されるわけではない事から、どういうお茶の提供方法がふさわしいのか、悩みどころではあったのですが、前回からほうじ茶作り体験を実施。
ほうじ茶の製法を知っている人からすれば当たり前の事ですが、最初はお客さんも半信半疑、「これで本当にほうじ茶が出来るの?」といった具合で、お客さん自身がフライパンに入れたくき茶をコンロで焙煎して、自分好みの頃合いになったら湯呑に茶葉と熱湯を注げば簡単にほうじ茶が出来ます。炒りたての香ばしい匂いにお客さんも声を上げていたのが印象的でした。
会場の運営に掛かりきりで、全く他の会場を見に行けませんでしたが、会場に来てくれたお客さん達の笑顔が何よりの収穫です。例年秋の開催は6月の新茶の時期と比べれば集客数が落ちる傾向がありますが、毎回工夫を凝らして準備に臨んで来た甲斐があり、今回は各会場ともに多くのお客様にお越しいただいていた印象です。
一方で、開催規模が大きくなってくると、駐車場の不足や会場によっては飲食が売り切れてしまい、時にはお客様にご不便をお掛けしてしまう事もありました。庭先カフェは民間団体の運営で、行政主導ではありません。予算も人員も限られる中、精一杯やっていますので、至らない点も多々見受けられるかと思いますが、どうかご容赦ください。
前日までの準備や、当日の各会場の運営でも、手が足りないところはまだまだありますので、準備や当日の運営でご協力いただける方がいらっしゃいましたら、是非事務局までご一報いただけると助かります。
毎回運営人員の不足が大きな課題となっている庭先カフェですが、島家会場もその例に漏れず、会員がそれぞれの会場に分散している事もあり、島家の運営に当たる協議会の会員も数える程しかいない中、古内の為に何かしたいと言ってくれ、日頃から毎月1回程度、島家の修繕整備活動にご協力いただいている、あたたかい気持ちのある多くのボランティアの方々の助けを得て、なんとか乗り切る事が出来ました。
この場を借りて、庭先カフェ・島家住宅にご協力いただいた多くの方々に厚く御礼申し上げます。
次回は黄門様が命名した「初音茶」を島家に挿し穂にて移植して10年目、庭先カフェとしても記念すべき第10回となります。新たな体験などの案もすでに出てきていますので、ご都合が合えば是非またお出かけいただき、変化を楽しんでいただければと思います。
最後になりますが、11月中から来年の1月までの工期で、島家住宅は進入路拡幅工事の為、駐車場への出入りが出来ない期間があります。この為、毎月実施している島家作業も冬の間は中止する事となりました。見学含め、島家を御覧になりたい方にはご不便をお掛けしてしまい申し訳ありませんが、ご留意の程よろしくお願いいたします。
らくご舎が考える、古内茶庭先カフェの魅力
古内茶庭先カフェは、2018年11月にプレ・イベントが開催され(第0回)、翌年の6月に第1回が開催された。プレ開催を含めると今回で10回目の開催となる。私はその全10回に参加させていただいているが、改めてこのイベントの魅力は何なのだろうと考えてみた。
最大の魅力は「お茶の産地を歩いてまわれること」ではないか。古内茶の茶畑は、上古内・下古内に密集している。だから、1軒1軒のお茶農家が歩いてまわれるほどに近い。
例え、他産地にも同じような環境があったとしても、日常ではそれらを訪ねても農家は受け入れてくれないだろう。イベントだから、お茶農家も受け入れてくれている。もてなしてくれる(普段は仕事で忙しいからね)。
そう考えると、大変貴重な機会である。イベントだから、農家側の受け入れ態勢ができているからこそ、訪問者も気兼ねなく話すことができて、そこから交流が生まれる。交流が生まれることで、参加者の印象に強く残る。今までの人生でまったく接点がなかった城里町のお茶農家に対して、愛情が生まれる機会になる。
まず、このような農家の協力があってこそ、「お茶農家の庭先をカフェとして開放する」古内茶庭先カフェの土台が成り立つ。
お茶農家の協力によって歩いてまわることができる距離なので、歩きながら「農家と農家のあいだ」の風景も楽しめる。いわゆる「町」「街」にしか住んだことがない人にとっては新鮮な風景だし、以前にこのような環境に住んでいた人にとっては極めて懐かしい風景だろう。車で通りすぎるのではなく、歩く速度で風景を眺められるのは、視覚から得られる情報量が違うし、ゆっくりとした速度だから情報を処理できる量も違う。一つの情報に対して考える時間が多く持てる。
これは、いわば整備された散歩道。この散歩道では、歩くだけではなく、途中で休憩できるところがいくつもあって、そこではお茶が出されお茶菓子が出され、人と話すことができて夕飯の食材を買うことだってできれば、素敵な陶芸作品を買うことだってでき、手作り雑貨やアメリカ雑貨を買うことだってできてしまう。なんと魅力的な散歩道だろうか。前述したとおり、往復約5キロの散歩である。車社会を生きる人々にとっては、いい運動になる距離ではないか。
近所の散歩もいいが、たまには(年に2回、古内茶庭先カフェは開催している)このような散歩もよいのではないか(いや、良いに決まっている!)。
さらに、何度もイベントに参加していると、運営側もこちらの顔を覚えてくれるようになる。
そうすると会話も弾む。会話が弾めば、心も弾む。これは、参加する側だけではなく運営する側も同じだろう。
交流が深まることで、お茶農家や地域の住民にとっては活力となる。元気がもらえる。頑張ってこのイベントを続けよう、この地域を盛り上げようとなる。参加者は、地域の魅力を知ることができる。古内茶や古内地区には由緒ある歴史があるから、学びにもなる(徳川光圀とか天狗党とか島家住宅とか)。地域の魅力を知ることで、ひょっとしたら「私も城里町に移住して、お茶農家やってみようかしら」と思うかもしれない。
古内茶の生産は、ほぼ高齢者で成り立っている。後継者がいるところは、ほとんどない。それだけではなく、イベント運営も少ない人数でおこなわれている。行政の協力もあるにはあるが、主体となっているのは地域の人々だ(古内地区地域協議会など)。それを考慮すると、この古内茶庭先カフェの開催だって、ひょっとしたら二度と開催されないかもしれない。例えすぐにでも本当にそうなったとして、ちっとも不思議なことではない。
そして、これは、もっと大枠で考えると古内茶や庭先カフェに限ったことではない。私たちの生活の中で「大切だな」と思ったコト・モノ(それに勿論ヒトも)は、継承していこうという意志がないと、大事にしていこうという想いがないと、やがて廃れて存在しなくなってしまう。
幸いにも、古内茶庭先カフェは、地域外の人にも門戸を開いてくれている。ボランティアも募集している。一般の人でもイベント運営に参加できるという点も、庭先カフェの魅力だ。実際に、お茶農家の人の親族や趣味で何かを作っている人たちが、このイベントにはたくさん出店している。
この文章をここまで読んでくれた方、イベントに参加した方は、ぜひ今後もイベントに参加するか、運営側として参加してもらえたら。