寄席で落語を聞いたあと、昼間からハシゴ酒。(2023/2/11)
久しぶりに寄席に行った。水戸に新しくできた寄席「みやぎん寄席」である。2022年9月に、水戸の宮下銀座に開設された常設の寄席だ。
「水戸を笑いに溢れた街にしたい」という想いを持つ有志が集い、この寄席の開設に至ったという。なんで水戸で? 無謀だ! と思わなくもないが、身近に寄席があるというのは嬉しい限り。近場での落語会の予定を待つことなく、東京まで足を運ぶこともなく、生の落語が聞ける環境ができたわけである。
寄席といっても東京にある定席寄席ではなく、土日祝日のみ開演する小さな寄席で、40人入るのがやっとの広さ。水戸らしいサイズの寄席であるが、こけら落としはあの古今亭菊之丞が務めたというから驚きだ。
コロナ禍になって久しく寄席に行ってなかったから、このみやぎん寄席のオープンを知り行ってみたいとは思ったが、それでもやはりコロナが怖い。コロナに怯えて生活しているうちにやがて私もコロナに罹り、治った頃にはコロナも収束の気配を見せ始めた。
ならば今こそ「みやぎん寄席」に行くしかない。ついでに酒も飲みたい。酒も久しく飲んでいない。ちょうどよいタイミングで酒のお誘いがあったから、同じ日に寄席にも行くことにした。
一人で寄席もいいのだが、久しぶりの寄席で初めてのみやぎん寄席だから心細さを感じたので、酒飲みのS田氏を誘った。S田氏はそのあとの飲み会にも参加するし、落語を聞く人だからちょうどよい人選であった。
みやぎん寄席は噂通りの小さなハコで、その狭いスペースにパイプ椅子がずらりと並んでいた。客が座るスペースの目の前は一応ちゃんと段になっていて高座が作られているが、どうにも天井が低そうだ。この日出演した柳屋さん花さんは身長が高い人で、立った時や歩く時に天井に頭がぶつからないよう背中を丸めていた。
チープな作りだけれど、壁などの内装は小奇麗になっていて清潔感はある。久しく行っていないが浅草演芸場などと比べれば、小奇麗さだけならばみやぎん寄席の圧勝である。
さて、檀上に噺家が上がる。真打になったばかりという、柳屋さん花師匠である。枕のあとに、時そば。そのあとに、安兵衛狐、藪入りと続いた。
時そばは何度も聞いた噺だが、何しろ数年ぶりの落語であるから、そばをすする所作を見ただけでも感動した。さん花師匠は王道的な古典落語の噺家なのか、元の噺から大きく逸れずに演じていた。私は落語に詳しい訳ではないから偉そうなことは言えないが、なかなか上手なのではないか、と思った。
次(だったと思う)の安兵衛狐が良かった。初めて聞いたというのもあるが、落ちが良い。安兵衛が狐ではないか、という疑惑を確かめるために、安兵衛のおじいさん(おじさん?)のところに行ってみると「安兵衛は来ん(コン)」と言う。それを受けた長屋の連中は「あ、おじいさんも狐だ!」と言って噺が終わる。
ストンと落ちる感じがたまらなかった。
最後の藪入り前の枕がよかった。さん花師匠の奥様の出産の話で今どき珍しい産婆さんでの出産をしたという。落語自体も安心して聞くことができ、久しぶりの寄席を楽しく終えることができた。
みやぎん寄席から外へ出ると、昼の講演であったからまだまだお天道様は高い位置に陣取っている。夜の酒飲みまで、まだまだ時間があるが、これからどうして過ごそうか。
S田氏と二人、中年男がぶらりぶらりと水戸の街を練り歩く。すると、立ち飲みの居酒屋が開いているではないか。銀杏坂にある「スタンド酒場ニューたけさん」である。
時刻はたしか15時ごろだったかと思うが、中に入るとほぼ満席。中央に常連らしきおじ様方が7,8人いて、奥のテーブルには若い方々がいて、みな昼間から酒を飲んでいた。
なかなかカオスな環境だったが、これはこれで面白い。酒飲みたちの会話に聞き耳を立てながら、S田氏と二人ビールを飲んだ。面白くはあったが常連ばかりの店内で、店の片隅で立って酒を飲むというのはいささか落ち着かない。場馴れしている酒飲みのS田氏でも同じように感じたらしく、2杯ほど飲んだら早々に店を出た。
そしてまた、S田氏と二人、中年男がぶらりぶらりと水戸の街を歩く。ビールが体内に入ったから先ほどよりも気分が良い。時刻は16時少し前。16時から開店する居酒屋を見つけたので、次はここにしようと決めて、店が開くまで店の前で座って待つことにする。何とも行儀の悪いオトナたちである。
待っている間に互いの近況を話す。仕事の愚痴や仕事の愚痴、他には仕事の愚痴……といったところが主な話題であった。S田氏とも久しぶりに会ったので、話が尽きない。話していると、店が開いたのでいの一番に店に入り、また酒を飲んだ。
そこは「や台ずし」という名の店で、寿司や魚も食べられる大衆居酒屋だった。ニューたけさんのような店も面白いのは面白いが、生粋の酒飲みではない私にはハードルが高い。私のような庶民には、このような大衆居酒屋の方が居心地が良い。
S田氏も同じだったのだろうか、店が変わってだいぶ調子が上がってくる。いつものように店員の女の子に余計なことを話しかけてちょっかいを出す。時間が経つと、隣に座った若い青年たちにもちょっかいを出し始める。意気投合し、終いには「今度飲みに行きましょう」とLINEを交換する始末である。S田氏、「舌」好調である。
程よい時間で切り上げて、南町の「Bigori(ビゴリ)」へ向かって歩き出す。ビゴリでは、世話になった恩師二人と淑女一人を加えて酒を飲み飯を食う。「イタリア料理店」だから、出てくる料理が洒落ている上に、何を食べてもおいしい。
皆と酒を飲むのは何とも愉快なものであるが、3軒目なので少しすると眠くなった。せっかくの飲み会なのに、寝てしまっては面目が立たない。夜風に当たって酔いを醒まそうと、一人外へ出た。
2月の水戸の夜の風はとても冷たくて、酒で火照った身体にちょうどよい。外灯が冬モードになっていて、イルミネーションなんかが施されていてキラキラと光ってキレイである。ここ数年は飲み歩きなど全くしない生活であったが、コロナ前はS田氏に連れられてよく酒を飲んだものだ。
S田氏と私の生活は、その頃と比べてだいぶ変わってしまった。互いに仕事が変わり、コロナのおかげで酒飲みどころか会う機会すら減ってしまった。夜の水戸を一人歩いて、飲み歩いていた当時を懐かしんだ。
ビゴリのあとに、宮下銀座まで歩いて戻って「三代目」に入りワインを飲む。この店も当然久しぶりに来たのだが、イカしたマスターが健在だったので安心した。「三代目」では終電間際までワインを飲んで、皆と別れた。
次の日は二日酔いになり、酷い目に遭った。それでも、久しぶりの寄席と酒は楽しかった。「よせ(寄席)ばいいのに」と言われても、また行くだろうな。
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