野良本Vol.17 バウルを探して<完全版> / 文・川内有緒 写真・中川彰 / 三輪舎刊

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「バウル」本、三度目の発行は亡き戦友が写した写真と亡き戦友への手紙が綴られた<完全版>。

先日、「バウルを探して<完全版>」を読み終えた。

この本は、旅の本であり、思想の本である。
そして、少しだけ食の本である(カレー食いたくなる。手掴みで!)

著者の川内有緒さんがバングラデシュの「バウルの歌」の存在を知り、それについて調べ、カメラマンの中川彰さんを連れてバングラデシュに旅に出て、バウルに出会い、バウルを学ぶ。

端折るとそんな内容なのだが、これがもう、ワクワクしっぱなしで。
旅をしながら、少しずつ明かされるバウルの謎。
様々なバウルに出会い、それぞれのバウルを知り、その真実の一片を知る。

スペクタクルなロードムービーを観ているようなワクワク感。
それに謎が謎を呼ぶミステリー要素が加わって、毎晩この本のページをめくるのが楽しみであった。

このたび、三輪舎から発行された「バウルを探して」が<完全版>とあるように、実は以前に「バウルを探して」は幻冬舎から発行(2013年)されていた(その際には第33回新田次郎文学賞も受賞しているのだが、私はその存在を知らなかった! その後幻冬舎から文庫化もされている)。最初の「バウル」の出版日が決まった日、著者の川内さんは一緒に旅をしたカメラマンの中川さんに電話をしたところ、つながらない。実は、その前日に中川さんは急性心筋梗塞で亡くなってしまっていたのだ。最初に出版された本には、中川さんの写真がほとんど使われていなかったそうな。

バウルの歌を探しに バングラデシュの喧噪に紛れ込んだ彷徨の記録 (幻冬舎文庫)

幻冬舎版が絶版になろうとしていた時、川内さんは焦る。バウルを探す旅に一緒に出た中川さんの写真が、日の目をみないままで終わってしまうと。そこで、三輪車の中岡さんと出会う。「おそい本」を作ることをモットーとしている三輪舎ならば、「バウル」を完全なカタチで出版してくれて、その後も大切に扱ってくれるんじゃないか。

そうして、「バウルを探して」は三輪舎によって<完全版>となり、川内さんの文章に中川さんの写真が大幅に追加されて出版された。

<完全版>では、本の前半に中川さんの写真がみっちりと掲載されている。
バングラデシュの美しい風景、ダッカの雑踏、ベンガル人の屈託のない笑顔。
そして、様々なバウルの姿、メラ(バウルの祭)の様子。

川内さんの文章を読みながら、時折本の前半部に戻って中川さんの写真を見る。文章を読むだけだと、自分が今までに得た映像や知識の中から何となくなイメージをするしか方法がないが、このように写真が付いているとその何となくな部分がしっかりと補完される。本をめくるだけで、実際にバングラデシュを旅している気分になった。それは、私も二人(正確にはアランさんも含めて三人)と一緒に現地にいるような、本の登場人物になったような(セリフもなくその存在も記されないが)、そんな気分になった。

なるほど、<完全版>なワケである。こんな体験はなかなかできない。

本編を読み終えると、「手紙」がついていた。著者の川内さんによる<完全版>のあとがき兼、今は亡き中川さんへ向けたメッセージである。ここで、予備知識なしに本を読んだ私は、中川さんが今はこの世にいない人であることを初めて知る。

「お元気ですか。とか言うのも変だよね。だって、中川さんの心臓は八年前のある日、突然止まってしまったんだから。」バウルを探して<完全版>より)

(え、まじすか。そういうことなんすか)
その時、この本の本当の意味での凄さを知った気がした。

本の解説では、詩人・批評家の若松英輔さんが本編の前にあとがき(手紙)から読むことをお勧めしたい、と書いていた。確かに、中川さんの死を知った上で読むと、また違った想いが生まれるに違いない。川内さんの文章に、中川さんの写真に、まったく違った印象を持つことだろう。でも、それなら表2とか帯の裏とかに書いといて欲しかったな(笑)。

以前の「バウル」を知る人には、きっと若松さんが言う通りの読み方をした方がいいのかもしれない。
でもでも、私のような凡庸で不勉強な人間であり、三輪舎版の「バウル」によって初めて「バウル」を知った人間には、本が示す道筋通りに読むのもいいと思う。

川内さんの文章と中川さんの写真と一緒に、バウルの存在を知り、バングラデシュへバウルを探す旅をして、バウルを知って旅を終え、中川さんの死を知る。

それは、川内さんが辿った道と同じだから。

この文章を書き終えた後、私も旅に出る予定だ。
「旅」というと大げさである。
車で2時間も走ればついてしまうような近場への旅(日光)で、旅というよりは「旅行」というか、旅行というのもまだ大げさというか。ましてや「バウルを探して」のような特別な意味を持つ旅ではないし、1泊2日の温泉旅行のようなもの(実際にその通りなんだが)である。

それでも、これから非日常が待っていると思えば、やはりワクワクする。猛烈な台風10号も接近しているし、コロナ禍だし、危険がない訳でもない。ましてや、私のへたくそな運転であるから、それだけで大変な危険が伴うことになる。

でも、この旅にはドラマチックな展開など期待していない。無事に帰って来ることができればそれでいい……なんて書いておきながら、心の奥底では「バウル」のような旅情を味わいたいと思っていたりして。

さてはて、バックパックに荷を詰めて、ちょっとした「バウル」を味わうためにも「バウルを探して<完全版>」も読み返して、旅に出る準備をしようではないか。

 

バウルを探して〈完全版〉