銚子の海辺を、歩く

銚子マリーナ海水浴場~屏風ヶ浦遊歩道~君ヶ浜(2022/8/14)

うちの職場は夏休みだけは長い。GWはないし、祝日は仕事だし、正月休みも短いが、夏のお盆休みの長さは一流企業並、場合によってはそれよりも長いのではなかろうか。

今年などは9連休もある。まさしく、夏のバカンスである。ヨーロッパみたいでイカしている。

さて、夏といえば海である。8/11に山の日を迎えたばかりであるが、茨城には低い山しかないので行く気にならないし、他県の高い山まで足を延ばす気概もない。

ならば、海に行こう。どうせ海に行くならば、せっかくの夏のバカンスなのだから、ちょっとだけ遠くに行きたい(コロナに遠慮して「ちょっとだけ」)。そうして決めた行先が、千葉県の銚子市であった。

先日、銚子の手前の茨城県神栖市にある波崎海水浴場に行ったばかりだから、そこからちょいと先まで行けばいい。水戸からは車で2時間ほどの距離である。銚子に行って、刺身を食べて、海で遊ぶ。これが、今回の旅のプランである。

午前10時過ぎに水戸を出て、途中休憩を挟んで銚子に着いたのはちょうど昼ごろになった。銚子に着くなり、刺身が食える食堂を探す。せっかくなので付近の駐車場に車を停めて、銚子の町を歩くことにした。

銚子港にはいくつもの漁船が泊まっていた。大小様々、形状も様々あって、眺めているだけでも面白い。思わず乗ってみたくなる。誰もいないからちょっとだけ……と思いつきはするが、もしイカツイ漁師に見つかりでもしたらタダでは済まない。漁船は眺めるだけに留めて、銚子港を後にする。

銚子港からすぐ近くに、お目当ての食堂を見つける。鈴女(すずめ)という海鮮料理が食べられるお店であったが、人だかりができていたのですぐにそれとわかった。どうやらこの店は人気店らしい。行列に並ぶのがキライな私は、鈴女を諦めて違う店で食べることに決め、更に先まで歩くことにする。

途中、銚子の商店街を歩く。チェーン店などは店を開けているが、それ以外はシャッターが閉まっている。シャッター街なのか、いやそれはお盆だからで普段は違うのか。古い建物が多く、風情があるのにもったいないと思う。

また少し歩くと、また人だかりが見えた。まさかと思うが、そこは食堂であった。一軒だけではなく、そこらにある食堂すべてに人だかりができていた。

「まったく、お盆だというのにそこまでして刺身が食べたいか」

と、愚痴をこぼすと「私たちもでしょ」とツレのM子が的確に返す。

「まったくその通りだ。はっはっはっ」と笑って誤魔化しておいた。

銚子で刺身を食べたいが、並んでまで食べるのはどうかと思う。何よりこの後に海にも行きたい。ここで時間を費やしては、海の滞在時間が短くなってしまう。そう思って、刺身を食うのは後にして、とりあえず海に向かった。

銚子マリーナ海水浴場

遠くに断崖が霞んで見える。

向かった先は「銚子マリーナ海水浴場」である。こじんまりとしたビーチであるが、ヤシの木が植えられていて、近くに大学があって、ちょっとしたリゾート地のような風情がある。加えて、すぐ近くに屏風ヶ浦が見える。

屏風ヶ浦は、高さ40~50mの断崖が約10kmも続いており、「東洋のドーバー」と呼ばれる場所である。国の名勝、天然記念物にも指定されていて、銚子マリーナ海水浴場からその断崖の連なりが見えるのだ。

インターネットの画像でその風景を見て、一目でここに行くことに決めたのだったが。行ってみると、遠くの断崖がガスっていてあまり見えない。まぁ、夏だしね。ガスってしまうのは、仕方ないよね。

気を取り直して海で遊ぶ。この日のために買った海パン、そして、クロックスモドキのサンダルの出番である。わーい、海だ海だと子どもみたいに、いや子ども以上にはしゃいで波打ち際まで走る。けれど、何か違う。波崎の海のような感覚が起きない。

「あれ?何か今日寒い?」

ツレが言う。

「寒い、寒い」

と子らも言う。

そういえば、ちょっと肌寒いような? この日の最高気温は水戸が34℃の予想だったが、銚子は30℃だった。30℃で肌寒いというのもおかしな感覚であるが、やはり海に来たならば焼けるような砂浜と冷たい海水を感じたい。それがない上に、昨晩台風が通過したせいか、海水がやや濁っている。波崎の海で味わったそれとは、だいぶ違う。

それでも、海水に身体を漬ければ楽しくなってくる。海水は濁ってはいるが、それは砂が水中を舞っているだけで見た目よりはだいぶきれいなようだし、嫌な匂いもまったくない。ああ、極楽じゃと風呂に入るかのように海水に浸かる私。ツレと子どもをこの極楽の世界に誘い込もうとするが、濡れるのがイヤダ、寒いからイヤダ、波が怖いからイヤダと入ってこない。

仕方ないから、一人で海を楽しむけれど、皆で来ているのに一人で楽しむのも気が引けると思い、浜辺にいるツレたちを見ると貝を拾ったり砂浜に何か書いたりとそれなりに楽しんでいるようだから、そのまま私は一人海を楽しむことにした。

小一時間ばかり海で遊ぶと、今度は長男坊が「腹が減った」と言う。もう少し遊んでいたかったが(どちらが子どもかわからない)、先ほど刺身を食いそびれてそのまま何も食べていないから致し方ない。しかし、できれば屏風ヶ浦を見ながら少し歩きたい。子らを残して、ツレと二人で遊歩道を歩く。

断崖を見ながら遊歩道を歩く

右に土の壁、左に海。世界の名だたる景勝地と比べると見劣りするかもしれないが、それでもなかなかの光景だ。

断崖の地層を眺め、気の遠くなるような昔から土の層を重ねてきたと思うと、私たちが歩いている「今」はとてもちっぽけで一瞬なのかもしれない。でも、そのちっぽけな「今」を精一杯生きて積み重ねることが、このような立派な土の壁を形成するのに必要なんだ、なんてことは歩いている最中にはまったく思わずに、慣れないクロックスモドキでの散歩で足にできてしまった「豆」が気がかりでしかたなかった。「豆」といえば、職場に植えている大豆はどうなっているだろうか、昨日の台風の風で倒されていやしないだろうか、なんてことを考えていた。

ある程度まで遊歩道を歩くと、足の豆が痛いから引き返した。足元をうろつく舟虫を避けながら(踏もうとしてもあちらが素早く逃げるだろうが)、今度は右に海、左が土の壁の眺めに変わった。

ポートタワーのシーフードレストランで食べた海鮮丼

15時過ぎに、銚子のポートタワーのレストランで海鮮丼を食う。昼時は忙しかったのだろう。店員さんがだいぶ疲れている様子。15時を過ぎても、私たち以外にやってくる客もいる。銚子のお盆の集客力を思い知る。

念願の海の幸を食べ終えると、銚子の旅の締めくくりに君ヶ浜に行く。ここも海岸沿いに歩けるようになっていたので、家族みんなで歩くことにした。

君ヶ浜から犬吠埼をのぞむ

君ヶ浜の遊歩道

日本の渚100選というものがあるらしく、君ヶ浜はそれに含まれているらしい。でも、途中の砂浜はわかめなどが打ち上げられていて、ちょっと臭った。ちょっときつい磯の香りだったが、それも海ならではの醍醐味ではあると思い、勢いよくその香を吸い込んでやった。

少し歩くごとに、後ろを振り返る。すると、犬吠埼がでんと構え、その下に砂浜と海が広がる。なるほど、これは絵になる風景だ。この間ムーミンバレーパークで見てきたタルモ・ローシモルデルの寂しげな海の絵を思い出した。

だいぶ雰囲気は違うけれど。

歩くと少し足が痛い。豆のせいもあるが、クロックスモドキの中に砂が入り、それがチクチクと足の裏を刺してきたせいもある。少し歩いては、足の裏の砂を払いを繰り返す。鬱陶しかったが、それをしないと足の裏が気になって仕方がない。落日が始まり、景色に赤みが差してきた。

君ヶ浜の美しい眺め

翌日は、お盆の墓参りを終えると家でゆっくり過ごした。夜になってタバコがなくなったから、昨日履いたクロックスモドキを履いて近くのコンビニまで夜の散歩をした。

足の豆はだいぶよくなっていた。けれども、靴の中に砂が残っていてそれがまたチクチクしたが、今度は鬱陶しさを感じなかった。歩を止めて足の裏の砂を払うと、銚子の海辺の風景が思い浮かんだ。