強風が吹く初春の日曜に、竜神大吊橋と下滝にぶらり(2022/3/6)
「吊橋効果」なんて言葉が一昔前に流行した。
”吊り橋の上のような不安や恐怖を強く感じる場所で出会った人に対し、恋愛感情を抱きやすくなる現象のこと。”(引用元:weddingpark)
不安や恐怖で起きたドキドキの感情を、恋愛と錯覚してしまうことで起きるという。映画「SPEED」よろしく、その効果は一時的で終わることが多いとか。
竜神大吊橋を渡っていて、ふと「吊橋効果」のことを思い出した。私は家族で来ているものだから、「吊橋効果」など無縁な状況である。
それは春一番が吹いた翌日で、この日もまた強風が吹き続ける天気だった。昨日よりもよほど寒く、吊橋観光にはとても適しているような日に思えなかったのだが、竜神大吊橋はそこそこの観光客でにぎわっていた。それどころか、バンジージャンプを跳びにきた若者の姿もチラホラ……どころかけっこうな数がいた。
常陸太田市の竜神ダムにかかる竜神大吊橋は、長さが375mあり湖面からの高さは100mのところにある、それはそれは大きな吊橋である。4月下旬~5月中旬にかけては「竜神峡鯉のぼりまつり」が催され、吊橋付近におよそ1,000匹の鯉のぼりが吊るされ、それはそれは壮大な景色を見ることができる。
奥久慈トレイルレースのスタート地点になっており、近年はバンジージャンプ施設が作られた。竜神大吊橋のバンジージャンプの高さは、日本一である。
(あそこでも恋が生まれているのだろうか)
橋を渡り終え、今まさにバンジーを飛ぼうとする若者を見て、そう思う。
(いや、恋が生まれる余裕もなさそうだ……)
飛び立った若者が宙でびよんびよんとしている様を見て、そう思い直した。
「お金払ってやるもんじゃないよね」
M子がそう言った。
「お金貰ってなら考えてもよい?」
私はM子に聞いてみた。
「うーん」
と悩むM子。
「10万?」
「いいや」
「100万?」
「嫌だな」
「1,000万?」
「やるかも…」
1,000万か。私なら10万でやる……かな?
いや、100万か。どちらにしろ、見ているだけで怖いものだから、お金を払ってまでやろうとは思わない。
橋を渡って、バンジーを見て、鐘を鳴らして(木精の鐘)あちこち歩いて、さてやり残したことはなさそうだ、と橋を渡り返そうと思った時、思い出したことがある。
アレがない。アレがあったはずだ。
「あれ?アレがないな」
「アレって何よ?」
「アレだよアレ、口に手を入れると手が抜けなくなるとか、そういうやつ」
ローマの彫刻「真実の口」のことである。私の記憶が確かならば、竜神大吊橋を渡ったあとに真実の口があったはずだ。しかし、どこを探しても見つからない。
「どこにもないわよ」
「ないね、まぁいいか。帰ろう」
幼稚園の遠足か、それとも両親に連れられて来た時か。幼い頃に竜神大吊橋に来て、橋を渡った先に「真実の口」があった記憶が確かにあって、今日は子どもたちと一緒に口に手を入れようと思っていた。
だが、それは間違った記憶だった。
家に帰ってネットで調べてみると、竜神大吊橋に「真実の口」があったという記述はどこにも見当たらない。そもそも、竜神大吊橋ができたのは1994年で、私はその頃中学生~高校生の年齢である。「幼い頃」というのも間違いで、「親に連れられて来た」という記憶も怪しい。
それなのに、私はすっかり「真実の口」が竜神大吊橋にあると思い込んでいた。人の記憶なんて、あてにならんなぁ……というか、このような記憶違いをする人の脳みそが面白く感じた。
帰る前に、土産物屋でこれまた面白いものを見つけた。地域の物産品が置いてある中にポツンと置かれた機械がある。
「心拍数 ストレス コンピューターチェック 元気くん」
100円を入れて、中指をその機械に差し込むと心拍数とストレスの具合をコンピューターがチェックしてくれるという。見た感じ、とても最新機器とは思えない。少しの年代モノのように思える。
しかし、どうしてこんなものが竜神大吊橋にあるのだろうか、という疑問はさておき。私もM子も最近仕事が忙しくて疲れ切っていた。こうしたもので、その疲れ具合を数値化してみるのもまた面白そうだと思い、やってみることにした。
まずは私がやってみると……心拍数:正常、ストレス:ノーマルという結果だった。「真実の口」同様に私の疲れやストレスは、思い違いだったのか。
続いてM子がやってみると……心拍数:正常、ストレス:ストレス状態という結果が出た。いかん、ツレの方が疲れているではないか!
その後、ちょっと足を延ばして「横川の下滝」に行くことにした。
滝のマイナスイオンで、M子のストレスが「正常」になれば……。
伴侶を思いやる気持ちを育むのもまた「吊橋効果」のひとつなのだろうか。