茨城県常陸大宮市・尺丈山(標高511.5m)に登って(2023/1/22)
正月休みが空け、忙しい日常が戻ってきた。私は気持ちの切替が上手くはない上に、そもそもがぐうたらな人だから、急に仕事をせかせかやれと言われても、そんな器用なことはできやしない。こちらの事情はお構いなしに仕事は次々とやってくるし、それに年末にやり残した仕事も合わさって、まさしく目が回るほどの忙しい一週間を過ごした。
すっかり疲弊した心を休ませないといけない。心が疲れた時には、山に登るのが一番だ。近場の低山にゆっくりと登って、山頂でのんびり寛いで、心穏やかな一日を過ごすことが何より必要だと思った。そんな私にうってつけの山を見つけた。常陸大宮市にある尺丈山(しゃくじょうさん)だ。尺丈山は、511mほどの低山で30分そこそこ歩けば山頂についてしまうお手軽登山である。
尺丈山の「尺丈」は「錫杖」を意味する。この山に登った僧侶が、山頂に錫杖を忘れたことからこの名が付いたという。なるほど、道理で登山口に貸し出し用の杖がたくさん置かれている訳だ(関係ない?)。
登山道はゆるやかな登り道が山頂まで続く。道は登りやすく整備されていて、低い山なのに1合目、2合目、3合目……と10合目まで律儀に標識が立っている。こういうのがあると「山に登っている感」がしてとてもいい。
序盤は針葉樹林で後半は広葉樹が増える。針葉樹のほとんどは杉の木だろうか、しっかりと枝打されていてこちらも整備が行き届いている。このような木の姿を見ると、この山は人に愛されているのだな、と思う。
のんびり歩いても、あっという間に山頂に着いた。同行したM子さんや子どもたちに、疲れた様子はまるでない。いつもはすぐに「疲れた、疲れた」と言う次男坊ですら、まだまだ余力がありそうな感じだった。
山頂付近の眺めはすごくいい。奥久慈付近の低山がずらりと並び、この日は少しガスっていたので麓の方は雲にうっすらと包まれていて、掛け軸に書かれた墨絵のような雰囲気がある。北を見ると、近くに奥久慈男体山が見える。南を見ると、遠くの方に筑波山。西を見ると、日光男体山やら白根山が雪を被った姿を見せてくれた。
こうして山々を眺めていたら、胸がすく思いがした。はぁ、と思わずため息が出る。仕事の疲れや苛立ちが、息と一緒にすぅっと出て行った気がした。
さて、胸がすいたら腹も空いた。けれども本日は昼食を持ってきていない。その代り、インスタントのスープを持ってきた。冬の低山で温かいスープを飲み、身も心も温まろうという算段だった。
何せこの日はとても寒かった。強烈な寒波が数日後にやってくるとの予報が流れていた。実際に、次の火曜の晩に茨城県でも雪が降り、県央地域から北は数センチほど雪が積もった。
冷え切った体に、温かいスープを流し込んだ。スープは体内に入ると、じんわりと身体を温めた。はぁ、とまたしてもため息が出た。息はほわっとした白い煙になって、すぐに冷たい風に流されていった。
インスタントスープといえど、山で飲むととてもおいしい。特別なスープに変わった気がした。「あったかいんだからぁ♪」と思わず昔流行ったクマムシの歌を口ずさむ。さぞかし皆の心と体も温まったに違いない。
「どう? 温まったでしょ?」とM子さんと子どもたちに聞くと「いや、寒い!」と不満げな表情を浮かべていた。予想外のリアクションである。
まだまだわかんないのかなぁ、君たちにはこの良さが。自然の中に身を投じ、自然の厳しさを身を持って感じつつ、自然の美しさに心打たれるひとときといったら、もう。何だか私一人が楽しんでしまったようで申し訳ない。
下山中、M子さんが何かを見つけたようですすすっと一人先を歩きだした。何があったのかと思いきや、道の端で突然止まり、ざくざくと足で土を踏み出した。少しすると、また別の道の端に行き、土を踏む。
M子さんが踏んだ土の跡を見ると、氷の柱が散り散りになっていた。どうやら霜柱を踏みたかったようで。
一通り霜柱を踏み終わると、満足そうな表情を浮かべて私たちのもとに帰ってきた。
尺丈山(茨城県・栃木県)
意外にも茨城県常陸大宮市の最高峰(511.5m)。茨城県の大子町と栃木県那珂川町に接している。山頂まで約40分程度の登山なので、登山というよりは散歩感覚。家族連れや初心者でも楽しめる山。