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城里町の高萩さん Vol.19 農業「体感」

ヒト取材記
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農業を、自然を、体いっぱいに感じた2021年の夏の日(2021/7/25)

★農業「体感」

収穫収穫!

2021年7月下旬。梅雨も明けて、暑い日が続いている。今年の夏は、今のところ「酷暑」というほどの暑さではなく、私が子どもの頃に過ごした「夏」に近い気がする。

子ども、夏、といえば、夏休み。私の少年時代は、虫かごと網を持って、近所の山林を駆け回ったものだが、うちの子たちは違うらしい。コロナ禍であってもなくても、冷房の効いた家にこもってゲーム三昧である。

これはまずい。夏を感じていないぞ、こやつら。どうれ、私が本当の「夏休み」を身体に叩き込んだるわい!と意気込み、城里町の高萩和彦さんに農業体験をお願いしてみたのが事の始まりであった。

農業の「の」の字も知らない子どもたちが、農業を体験してみてどのように感じるのだろうか。上の子は「やってみたい!」と乗り気であったから楽しんでくれるだろうか。それとも、「もうやりたくない!」なんて嫌になってしまわないだろうか。今は夏場だから、高萩さんの畑だと体験は「草取り」になってしまうかもしれない。しかも、夏の暑さの下での草取りである。「農業体験」と言って外へ連れ出しておきながら、行ってみたら草を取るだけだった、なんてことになれば、ちょっと危うい。

それでも、圃場の周囲を散歩するだけでも、街中にはない気分が味わえるだろう。体験させる側としては、楽しみのようであり、不安でもあった。

城里町の高萩さんの畑に着くと、高萩さんは体験のための準備をしてくれていた。

高萩さんの畑。

まずはミニトマトの収穫体験。赤、黄色、黒(こんな色あるのか!)の色とりどりのミニトマトをもぎり、その場で食べてみる。おいしい?と子どもに聞くと、「うん」。相変わらず、反応は薄いがそれは今に始まったことではないからヨシとする。続いて、モロッコインゲンの収穫、キュウリの収穫、アスパラの収穫と収穫体験ばかりやらせてもらった。

「草取り体験になってしまわないか、不安でした(笑)」

と高萩さんに言うと、

「それはさすがに(笑)。そういう作業はKさん(私)に取っておいてありますから」

と笑う。

「あはは」と私も笑ったが、今度高萩さんの家に行くときは、覚悟をしなければならないと思った。

最初は恐る恐るだった子どもたちだが、慣れてくると楽しそうに収穫していた。その姿を見て、ほっとする。でも、彼らが一番興味を示したのは……収穫体験ではなく、圃場付近に流れている小さな川であった。

そういえば、こやつらは水遊びが好きだったな。子どもたちの興味は畑から川に移動してしまい、そこから農業体験は生態観察に変わってしまった。それでもまぁ、楽しんでいるようだからいいか。

高萩さんの圃場近くにある小さな川にいたザリガニ子ども?エビ?

……後日。
ツレが収穫体験で採った野菜を調理して食べた。普段は野菜をあまり好んで食べないツレと子どもたちだが、ペロリと食べた。アスパラガスの肉巻きなんて、おいしいおいしいと言って食べた。

目で畑を見て、耳で自然の音を聞き、鼻で植物の匂いをかぎ、収穫することで野菜に触れあう。
そして、最後に舌で味わう。農業体験は、子どもたちの五感をおおいに刺激してくれただろう。

体験することで、身体で感じることで、それはひとつの経験となる。
経験が知識のひとつになり、ひとつのアンテナとなる。
この体験によってできたアンテナを伝って、子どもたちがいろいろなものに興味を持ってくれるようになれば。

?っぽいキュウリ

★今月の高萩さん

城里町の高萩和彦さん(2021年7月)

前回の取材から、2か月経ちましたが、その後いかがでしたか?

高萩さん:アスパラガスが、調子が悪かったのがもとに戻った感じですかね。大事に育てて、去年並みの出来に戻ってきたのがこの間の一番の大きなところですね。今年の春は調子が一気に落っこちてしまって、このままだと株が死んでしまうのではないかと心配しましたが、無理をさせないで収穫を打ち切って、大事に育てたら何とか調子が戻ってきて、今日の体験みたいにいっぱい収穫ができる状態まで回復しました。アスパラの収穫をこれからも継続できそうなのでまずは一安心といったところですね。しかも、有機栽培に近いレベルでそこまで回復できているので良かったかなぁと。ヘタしたら、また農薬を撒くなどして慣行栽培に戻さないとダメかなぁと心配してたんですけど、そこまで戻さなくても元通りになってきたので。ひと山越えたかなぁと。

復活したアスパラガス。農業体験の様子。

良かったです!(^^)!

高萩さん:結局、春の失敗と言うのは昨年の失敗ということなんですよね。昨年の管理が悪いと次の年の春の収穫量が落ちるんで。アスパラって。だから、去年の成績表が春に突きつけられる形で。去年いろいろとやり方を変えたのが、裏目に出てしまって出来が悪くなってしまったようです。その反省点を生かして、今年は株に無理をさせないように管理をして、何とか元通りになった。今はバンバン量が出るようになりました。

他はどうでしたか? レンコンは?

高萩さん:レンコンはひたすら草取りをしていました。今年は秋冬野菜の作付を増やしているので、この時期に草がわーっと生えるんですよ。6月~7月にかけての梅雨の時期に草はものすごい勢いで伸びるので、それを草取りしながら管理していくのが大変なんですよね。今年は面積を増やしたのでそれが追い付かなくて……それが一番大変でしたかね。

2021年7月の蓮田

面積を増やしたというのは、やはり家族が増えたから?

高萩さん:そうですね。それもあります。と今は妻が子どもにかかりっきりですけど、いずれ手が離れてくれば、もうちょっと仕事をできるようになりますので。将来に向けてのシュミレーションというか、それに向けて今からチャレンジをしている感じですかね。野菜って作るだけじゃなくて売らないと収入にならないので、今のうちから販路を拡大しておこうかと。少しずつ品目を増やしたり量を増やしたりして、果たしてそれできちんと売れるかどうかっていうのを今のうちから試しておくっていう感じです。

だから、少し無理をして今の私の実力の2割増しくらいの面積を作付をしているので、管理が大変なんですけど、今のうちから準備をしておけば、規模拡大をする時にラクじゃないかなと思って。チャレンジだと思ってやってますね。

なので、8時間労働を信条としていたのですが、さすがにそうも言ってられなくなって、今は一日10時間労働に……。今年の一番の変化は、早起きをするようになったことで、今は朝5時過ぎくらいに起きて仕事をするようになりました。

失敗を取り戻さないといけないというのもあるんですけど。ちょっとステージが変わりましたよね。夏はいろいろな野菜ができてくるので稼ぎ時の季節なんですよ。かつ、管理作業もたくさん出てくるので、同時にこなさないといけないとなると、どうしても働く時間が増えちゃうんですよね。夏はそういう時期だと思って……。その代り、冬はそんなに無理をしないでいつも通りにやれたらなぁと。

あの残業嫌いの高萩さんが、残業を……。驚きました。他の作物はいかがでしょうか?

高萩さん:マコモは勝手に育っているので、10月くらいから収穫できるようになります。それまでは放置ですね。周りの草刈だけをして。手間いらずのところが一番の魅力ですよね。春先に邪魔になった草を耕したり刈ったりして。お盆明けにもう一度草刈をするんですけど、それからはほとんど管理不要になるんですよ。

あとは干し芋用のサツマイモ。オールマルチ農法で畝の谷間も全部マルチで覆われていますから、植えればほぼ管理作業0なんですよね。サトイモもそうなんですけど。私の大好きな「植えたら管理が一切いらない農法」で乗り切っているのでラクなんです。

今日収穫させてもらったキュウリ、トマトは出荷してるんですか?

高萩さん:そうですね。今「野菜の駅プロジェクト」の準備をしてるんですけど、それができると品目を増やさないといけないので。あと、うちでも採れた野菜をいろいろと食べたいなぁと思って。だから、半分家庭菜園、半分販売用になってます。意外と専業農家って夏にトマト作らないんですよ。一番作りにくいし、値段も安いし、夏は外すんですよね。夏は暑くて喉も乾くので、水分の多いトマトを食べたいのに、ないんです。それってなんか変だなと思って。だったら、自分で作って存分に楽しもうと。一番食べたい季節に作るのが一番です。

野菜の駅プロジェクト(有機野菜の無人販売)

「野菜の駅プロジェクト」とは?前回話していた町役場で野菜を売るってことですか?

高萩さん:それとは別です。本当はそれをPRするための場所なんですけど、順序が逆になっちゃって。野菜の駅はもうスタンドが出来上がっていて、平賀石材店さんに仮置きさせてもらっているんです。いろんな人の協力があって、スタンドも根本樹弥さんが中心になって作ってくれて。8月の下旬くらいにはオープンできるのでは?と思っています。もう少し手直しが必要かもしれませんが、着々と開始に向けた準備は進んでいます。

これは、以前に話していた有機野菜の無人販売…!

高萩さん:そうです。それがこの「野菜の駅プロジェクト」なんです。

アクション早っ!

高萩さん:根本さんがあっという間に作ってくれて。思ったより早くこのプロジェクトが始動できそうですね。有機野菜といえば地産地消がもともとの目的なんですよね。その手段としての有機農業。有機農業と地産地消って相性がいいので。

地域とつながることが大事って言ってましたよね。

高萩さん:そうそう。伝えるための「有機農業」という手段で。ひとつの社会実験ですよね。どういう結果が出るかはまだわかっていないので、半分楽しみ、半分不安といったところですね。

前から疑問だったんですよ。野菜を売るにしても、水戸とか笠間まで一時間以上かけて運んでいくんですけど、周りの人に自分が作った野菜を食べてもらってないじゃないかと。

スーパーなどの直売コーナーではすごい安い値段で野菜が売られているんですよね。原価割れしているんじゃないかと思うくらい。あれじゃあ、商売にならない。最近は、売り場も大事だなぁと思って。近いから、地元だからといって、そういうところに置いても自分の考えは全然伝わらない。だったら、売り場も自分で作ってしまおうと思って。自分に共感してくれる人が集まってくれるのではないかと。

市場に多く出回っている野菜は、野菜の形をしているだけのものもあります。食べてもまったくおいしくないような。

安い分、皆が手に取りやすいのはあるけれど、味が悪ければマイナスイメージを植え付けるだけ。

高萩さん:野菜嫌いを増やす元凶になっているかもしれませんね。かくいう私も、キュウリはもともとおいしくないって思ってました。でも、自分で農業を始めて、作ってみて、食べてみて、キュウリってこんなにうまいんだ!と驚きました。人からもらった野菜もおいしいとは思いますが、やっぱり自分で作った野菜が一番おいしいです(笑)

今日は体験させてもらってありがとうございました。以前からやってましたよね?
街中で育った子どもは、こういう体験をする機会が少ないので、とても良い体験になったと思います。

高萩さん:意外にこういう場所って多くないんですよ。街中の場合は、ただ畑だけ、田んぼがあるだけっていうのがほとんどです。ここは地形の変化があって面白いんですよ。蓮田があって、小さな川もあって、田んぼもあって、溜め池もあって。けっこう気に入ってます(笑)。