「空をゆく巨人」の舞台を歩く~愛情の橋が怖すぎる件~(2022/4/10)
本を読んでいると、そのお話の舞台になった場所へ行ってみたくなる、なんてことは良くあることで。
東京、沖縄、北海道、イタリア、イギリス、アメリカ…果ては明治時代やら江戸時代なんてタイムスリップしてみたくなることも、ある。その衝動に駆られて、そのまま実際に現地に行ってしまう、なんてことも、ままあることだ。
例えば、「太陽の塔」を読んで京都と大阪に行ってみたり、内田百閒の本を読んで岡山に行ってみたり、「神様のカルテ」を読んで松本へ行ってみたり……。今回行ってきた福島県いわき市にある「いわき回廊美術館」も、その一つだ。
いわき回廊美術館は、少し前に読んだ本「空をゆく巨人」でその誕生のイキサツが語られていた。東日本大震災と原発事故によって、世界から「恐怖」と「悲しみ」の町として見られるようになった福島県。福島が生まれ故郷の志賀(主人公の一人)は、世界に誇れる場所を福島に作りたい、と思い、世界で一番桜が植えられた場所を作ろうとする(いわき万本桜プロジェクト)。
そのアイディアに世界的なアーティスト・蔡 國強(ツァイ・グオチャン。もう一人の主人公)が賛同して、桜の山に回廊型の美術館を作ることになった。それが、いわき回廊美術館だった。
この川内有緒さんの「空をゆく巨人(ノンフィクションです)」を読んで、いつかこの美術館に行ってみたいと思っていた。どうせ行くなら、桜の咲く季節がいい。いわきの桜が満開になるころを見計らって、行ってきた。
実際に行ってみたところ、ボランティアで運営されているだけあって、所々の整備が行き届いていなかった。駐車場は何となくここに停めればいいのかな?くらいな感じで、たくさんの台数は停められない。ツァイさんの作品もボロボロになっているものがあり、回廊美術館の床板も老朽化が進んでいる。山の中にあった地図は当てにならない……(展示物が地図に書いてある場所と違う場所にある)。
などなど、ちょっと不親切かな?と思う部分がいくらかあった。でも、それも含めてアートなんだ!と思うことで納得はできた(やや無理やりだが)。
念願の「廻光-龍骨」を見ることができたし、「再生の塔」などの他の作品も素晴らしかった。植樹されたばかりの桜が多くて、「万本桜」の感じはまるでなかったが、それでも回廊美術館付近の桜は見事だったし、回廊と桜のセットは見栄えがした。山を歩けばちょっとしたハイキングにもなったし、そこから見るいわきの風景がとても長閑なもので心が洗われた。
しかし、それよりも何よりも。
2018年にツァイが作った作品「愛情の橋」に衝撃を受けた。その衝撃は、近年受けた衝撃の中でもベスト3に入るくらいのものだった。
橋というからには、間に川や谷などがあって、橋がないと渡れないから架けられるものだが、実際にあるのは跨げるほどの小さな川で、別に橋がなくても不便はない。それでも、そこには橋があった。その橋が、とてもとても恐ろしいものだった。
愛情の橋は、駐車場の奥の方に架けられた吊橋である。橋にはいくらかのワイヤーとその上に板切れが2枚並べて置かれているのみで、それが橋の向こうに続いている。2枚の板切れは、大人一人が乗るのが精一杯の幅であり、これまた老朽化が見て取れる。ワイヤーと板のみで架かっている橋なので、見るからに不安定そうである。足を踏み外しても、ワイヤーが細かく張ってあるから地面に落下はしないだろうし、高さもそれほどではないから、例え落ちたとしても命に別状はないだろうけれど、それでも怖い。見るからに怖いのだ。ディズニーシーのタワーオブテラーと同じくらいに、「見るからに怖い」。
橋にかけられた看板には「渡橋注意」とあり、「同時に渡れるのは2名までです。それ以上渡ると危険です」と書かれている。ちなみに、「2名」と「危険」は赤字である。
やっぱり怖い。
「これ渡るの?本気で?これ以外に方法ないの?」とツレも本気で怖がっていた。
私も同じことを思っていた。
橋を目の前に怖気づいていると、後から子連れ家族がやってきた。
「渡らないんですか?」と聞かれ、「んー、ちょっと、怖いです」と正直な気持ちを吐露した。
そして、「あ、良かったらお先にどうぞ」と順番を譲った。
子連れ家族のパパはなかなか体つきが良かった。このパパが渡れるなら、私も大丈夫だろう、そう思って毒味をしてもらうことに(ひどい)。
子連れ家族は4人家族だったので、二人ずつ渡っていった。案外すんなりと渡っていたので、あれ?大丈夫なの?と少し安心した。どうれ、行ってみるかとなり、実際に渡ってみると。
やっぱり怖かった。
私もツレのM子も「怖い怖い」と叫びながら、ゆっくりゆっくりと歩を進めた。渡り切った後に振り返ってみると、そこで初めてこの橋の名前を見た。
「愛情の橋」
なんでやねん、どこがやねん。
どこに愛情を感じればええねん。
あっ、ひょっとしてあれか。吊橋効果か(竜神大吊橋でもそのこと書いたな)。確かに、これほどに怖い吊橋ならば、吊橋効果も生まれるかもしれない。
「なんなのよ!これは!帰りは絶対に渡らないから!」
橋を渡った後、ぷんすかと怒るM子を見て、その効果はないな、と確信した。