山の本の装丁の本
山と本
山と本は相性がいい、などと勝手に思ってきた。私が本読み(かろうじて)で山好き(最近いってない)だから、ということもおおいにあるが、今まで出会った人で本好きで山好きな人が何人もいたから、ということもおおいにある。
あらゆるスポーツのなかで登山愛好家ほど、よく本を読み、書き、収集する人たちはいないだろうと言われている。
500冊以上の山の本の装丁をしてきた「装丁山昧」の著者・小泉弘さんもそう書いているのだから、そうに違いない。そういえば、横浜の某ひとり出版社のあの人も本好きの山好きだし、茨城県の某作家さんの奥さんも本好きの山好きだ。屋久島の居酒屋で出会った見知らぬ人もそうだった気がする。
でも、山好きのNさんは違うな、山ガール(?)のTやTの友人はまったく本読まない。山の師匠のヤマさんも本はあまり読まなかったような。本屋で働いていた時のOさん、Mさん、他多数は、山に興味が全くなさそうだったな……例外は多々ありそうだ。
まぁ、二つの事象がイコールで結ばれることなどまずほとんどなかろう。小泉さんも「スポーツの中で」と書いている通り、スポーツマンの中では登山家は本を読む人が多い、ということかもしれない。あくまで、「相性がいい」だけであろう。
かくいう私はというと。
本は割と若い頃から読んでいたが、特別読書家というほどではない。山は取材の仕事で一度登って、それから「ちょこちょこ」程度に低山ばかり登っていたのだが、その程度の経験で「低山エッセイ」なんて書くようになって。それを「書くために」山に登っていた。書けば少しのお小遣いがもらえるから、何より書くのが好きだったから、という動機だから、不純な部類に入るかと思う。
それでも、いくつもの山に登っているうちに、山登りに楽しさ・素晴らしさを感じるようになった。頂上からの展望、登頂した時の達成感、登山特有の疲労感、山行中に巡らせる思考・同行者がいる時は会話、山頂で食べるごはん、下山後に入る温泉とごはん……。登れば登るほど、山の素晴らしさがわかり、暇さえあれば山に登っていた時期もあった。
「装丁山昧」の小泉さんは、16歳の時に山とデザインの両方に出会ったという。それから幾多の山に登り、仕事はデザインの仕事に就く。二つの世界はそれまで平行して続いていた。それが、20代終盤に平行していた線が交わり、そしてひとつの線になる。山に関する本の装丁デザインを担当したのだ。それ以来、小泉さんの仕事の、いや人生の中で「山の本の装丁」は一つの柱になった。
この「装丁山昧」には、小泉弘さんがデザインした山の本の装丁が、写真付で紹介されている……だけではなく、本の仕様まで事細かく、紙質まで記載されている(何とマニアックなこと!)。装丁も、山の写真がドーンと載せられているものもあれば、山のイラストのもの、文字だけでスッキリとまとまっているものなど、様々ある。「山の本の装丁」と一口に言っても、これだけ多彩なデザインが可能なのである。加えて、本書には装丁した時の解説が書かれており、只の本好きでも楽しめる内容になっている。
本好きの山好きにとっては、山の味も本の味も両方楽しめるに違いない。
装丁山味 の詳細
出版社 : 山と渓谷社
著者 ; 小泉弘
発売日 : 2012/4/13
単行本 : 160ページ
ISBN-10 : 4635330540
ISBN-13 : 978-4635330541