今年も鉾田市・方波見農園でメロンを買う(2021/6/13)
★メロンの思い出
ある日、スーパーにずらりと並んだメロンを見てふと思う。
ああ、今年もメロンの季節がやってきたか、と。
そして、続けて思うのである。
方波見農園にメロンを買いにいかねば!と。
私は毎年、鉾田市の方波見農園でメロンを買うと決めている。
こちらは個人農家だが、知り合い等には直接販売も行っている。以前に私はこちらの農園に厄介になった経験があるから、その御恩を返す、という訳ではないが、働き手としては力になれない分、せめて消費という形で貢献しようと思った次第だ。
それ以降私の中では、春になったら方波見農園でメロンを買う、という行為は、お盆になったら墓を参る、くらいの至極当たり前の行為になっていった。
しかし、それに気付いたのはすでに6月。
方波見農園ではいわゆる春メロンを栽培しているが、「春メロン」というくらいだから春に採れるメロンである。6月は果たして春であろうか(いや、たぶん違う)。これはまずい。メロンを買うには既に遅い気がする。春にメロンを買い忘れるなんて、お盆に墓を参り忘れるくらいに不義理な行為である。
慌てて方波見さんに連絡を取ると、赤肉(むつみレッド=なだろうレッド)はもうないけれど、緑肉(イバラキング)ならまだあるよ、と言う。
ならば行きます、すぐに行きます、と方波見農園に行ってきた。
「今年は気温が高くてね。メロンの生長が早くて、栽培期間が通常よりも短くなっているのよ。まぁ、今年に限ったことではないけれど、年々暑くなっているからね」
地球温暖化の影響は、当然人間だけに影響を及ぼすものではない。植物にだって、農作物にだって、メロンにだって影響がある。温暖化が進めば、栽培適地の移動だって起こりうる。メロンを作っていた場所で、メロンが採れなくなってしまう可能性がある。茨城県は現在、メロンの生産量全国一位であるが、そうではなくなってしまうかもしれないのだ。これはもちろん、茨城のメロンに限った問題ではなく、全国の農家が頭を抱える由々しき問題である。
「俺がメロン農家を継いだ頃(今から20数年前)は、この地域に600戸のメロン農家がいたのだけれど。今じゃ150戸だよ」
農家の問題は温暖化だけではない。後継者不足も以前から叫ばれている。6次産業化、法人化、ブランディングなど、あらゆる策を練ってはきたが、後継者不足の問題は解消しきれていないのが現状だ。茨城県は農業が盛んであるから、農業に対して行政の支援は厚い。新・農業人フェアなど、労働力確保のための施策もある。だが、働き手の想いと雇い手の想いにミス・マッチが生じるケースが多いようで、なかなか定着には結びつかない。
「目下の課題は労働力だね」
方波見さんが言う。
私にはメロンを買うこととメロンについて書くことくらいしか、応援する手段が見つからないのがもどかしい。
この日はイバラキングの他に、「ゆうか」メロンも買うことができた。「ゆうか」は「優香」と書き、その名の通り芳醇な香りが魅力のメロン。生産数が少なく、「幻のメロン」なんて言われてもいる。
「K君(筆者)はもう、ゆうかの香りを忘れちゃったでしょ?」
方波見さんが笑みを浮かべて言う。
「ええ、忘れちゃいました」
てへへ、と笑いながら答える。
ゆうかの香りは忘れたが、方波見農園で働いた日々は忘れない。うだるような暑さのハウス内の作業、夜まで続いた農繁期の出荷作業、腰が痛くなった摘果作業や玉おこし作業。辛いこともあったけれど、お天道様の下で身体を動かすのはとても気持ちが良かった。農家が多い鉾田ならではの、人との関わり方も独特で楽しかった。
メロンについて学び、メロンを育てるという仕事は、他では得難い感動があった。
私はこの思い出を守りたい、つまりこの産地を守りたい。ゆうかだけではなく、他のメロンも「幻」なんて言われないように。